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88 天敵、其の七

「…………本音は?」


「そんな警戒すんな、一番。本当の目的はそこでくたばってるバカ女の旅を潰すために。その条件、お前があいつらの仲間になることを阻止しに来た。お互いの利害の一致で助け舟を出してやるって言ってんだ。とっとと尻尾巻いて逃げろや」


ふと、リディアは彼と目が合った気がした。


実際に目が合ったのかは分からない。彼女には指の一本も感覚も残っておらず、涙が止まらないくせに眼球も動かせず、瞬きの仕方も忘れていた。何かを考える訳でもなく、考えたいと願う訳でもない。


何も考えられない。ただ悲しく、ただ虚しく、ただただ死にたい。


「よっ、バカ女。久しぶりだな、いよいよ電池切れか?やっぱ所詮元が人間だとこうなるか。罰は受けせるが、もう半分の男の方助けられても迷惑だ。脚くらい奪って燃やしとくか」


彼がリディアに近づく。片手に槍、片手に雨に負けない、瞳よりも明るい真っ赤な炎を宿して。


今から燃やすのだろう。燃やされるのだろう。槍で乱雑に切り離した脚を、消えない炎で永遠に。走れなくも、歩けなくも、……舞えなくもなってしまう。


その前を立ち塞がる、一人の人。容姿の年相応に広くて、大事なことはほとんど口にしない静かで、彼女がよく見てきた背中。それでも、とても頼れるという評価だった。


彼が、——ディールスが立っていた。


「あぁ、居たのか。随分とまぁ弱っちくなったもんだ、イストワール。()()()()()()()()()()()()()()()()。不出来な兄を持つと大変だと痛感したぜ。()()()()()()()()、仕事もせず、その始末が弟のオレに押し付けられたことも知らずに、人間の国巡り歩いて楽しかったか?まぁ今のお前が帰ってきた所で居場所は無いけどなぁ!」


オルドルの八つ当たりのような槍が、彼の胴を貫く。ディールスなら防げていたはずの一撃。槍はすぐに抜かれたものの、彼の体にはまだ塞がらない穴が残り、その穴からは白銀の光が漏れ出ていた。


彼は苦しい素振りもせず、呻き声の一つも上げなかったが確実に、着実に、死へと近づいていた。


「貴方はあの立場に収まっていることに満足しているように見えましたが?」


「やっぱりオレは秩序だからな。上に立つのが好きなんだ」


赤毛の神様が、槍を構える。

洗練された所作なのに、何処か乱暴に見える。彼の人間性、ではないが、性格の悪さ、性根が腐ったことが分かる大立ち回り。


「あとは脳天に一発ぶち込んで終わりだ。散々好き勝手して満足か?あばよ、クソ野郎!」


オルドルが槍を引く。その紅は驚く程正確に彼の頭を狙って、


「――おい」


放たれそうになる所、躊躇なく彼女は、一番は平然と話しかけた。途端に、目に見えるようにオルドルの機嫌はすこぶる悪くなる。

首を落とされても、腹を吹き飛ばされても、不思議ではなかったが、彼はそれを堪えていた。彼が、だ。


「殺すのか?」


「……チッ、まだ居たのか。そうだ、殺す。居ても居なくても変わらないなら、居なくて良いだろ。分かったら、さっさと去ね。その口調も、容姿も、不愉快だ」


「ぼくはこの世で一番、神が憎い。嫌いだ。下手をすれば、人間よりも。だから、合理的とかそんなの無視してでも、神の言う通りになることが、この場において何よりも腹立たしいと感じるんだ。特にライカスとイストワールだけど、肝心の本人はもう少ししたら、ぼくでも殺れる程になる。千二百年の雪辱を、ぼくは果たすんだ」


「……」


彼は、無言で勢い良く彼女に向けて槍を投げた。音も置き去りにした、すさまじい速度。

彼の忠告も聞かず、自分語りなんかするからだ。そんなことすれば、彼の機嫌がどうなるかなんて、分かり切っていたはずだ。


「分かるか?要するに、きみの助け舟なんか求めていない。むしろ邪魔だ」


彼女は、素早く何処から持ち出したか分からない石を前にかざした。リディアが()()()()()以上、その石が何という名前の宝石かを知る者は一番しか居ない。しかし、そんなことに対して彼女が口を開くはずもなく、誰しもが知る機会すらもなくなっているのが現状だ。


かつてリディアの首を掻っ切り、胴を貫ぬいた紅色の槍は一瞬で消え、一番は一歩も動かず今だ健在。何の変化もなく、宝石をかざしたまま、平然と立っていた。


オルドルに僅かな動揺が走る。当然だ。彼は、彼女が何をしたのか理解出来ていないのだから。その刹那を狙ったかのように、一番は先のとは全く別の宝石を投げつけた。


小さな宝石が、彼の額にコツンと軽くぶつかる。


「所で、聞きそびれた。——きみって何番目の、何の神だ?」


「……っ、この、木偶人形如きがよくもぉぉぉ!!」


炎を全身にまとった彼の手が、彼女へと向けられた。雨の中ぼうぼうと燃え盛る、真っ赤を通り越して、見るだけで目すらも焼いてしまいそうな程、熱い太陽の如き炎。間近で見たリディアは何が起こっているのか理解しなかったが、熱い瞳を両手で覆うこともしなかった。


一瞬で距離を詰め、一番がその炎に飲まれる寸前、怒りに飲まれた赤毛の青年は姿を消した。

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