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84 天敵、其の三

”変わっている、変わっていないなんかにこだわって仲間を失うの?”


声が聞こえた。数回しか聞いたことがないのに、その声色は私の脳裏に最も深く刻み込まれたもの。最も忘れられないもの、最ももう一度聞きたいもの、それが失われたと最も信じたくないもの。


嬉しそうに、目の前のあの方が問いていた。


…………っ、………………何で、居るのですか。


背中には今もガラスの破片が深々と刺さり、刺された箇所から白銀の光が漏れている。顔色は最悪で、陶器を通り越した死者の肌。……でも、目を細めた少女らしい笑みは、とても可愛らしく、容姿相応の若さがあった。


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殺してしまった、とは口が裂けても言わないし、言えない。だって、あの時の私は確かに殺意を抱いた。生まれて初めて、本気で明確に、殺そうと決意をし、実行に移した。


だからこれは、疲労が溜まりに溜まった私の、勝手に抱いた罪悪感が集まってたった今生んだ幻想、幻惑、妄想。だからか、まぁ随分と、私の中のあの方は意地悪を通り越して性格が悪い。


あの方は続ける。言葉を紡ぎ続ける。小さく、慎ましい口で、殺人教唆を囁く。まるで悪魔のささやき。神様なのに。


”殺したら良いじゃない。単純明快、わたしを殺したみたいに、ね?……ほら、やれよ”


……何て出来の悪い、図画工作だろう。薄気味悪い。あの方について私は何も知らないけれど、あの方はそんなこと言わないと断言できるのに。


「変わってる、変わってない、でしたっけ?確かにあなた様の言う通り、今はそれに執着する時ではないかもしれません」


”でしょ?なら――”


「カダチとオーウィルなら大丈夫です。彼女達は私が守らないといけない程弱くも脆くもない」


これもまた、信頼の形でしょう。信じているし、知っている。まだ死んでない。助けるから、それまで持ってくれれば充分。


「それから。そんなことに気を向けないと、……私は変わらないと、またたくさん傷付けてしまいますから」


同じ轍は決して踏まない。踏んでたまるものか。


「失せなさい、都合の良いだけの創作物が」


これは、私にだけ都合の良い偶像。


私が殺したから、もう会えないあなたに怒って、泣いて、なじって欲しくて生み出した、あの方の皮を被った別物。どんなに似通っていても、どんなに笑っても、神として生まれ、神のまま死んだあの方ではない、決して。


”すぐにまた会うわ。あなたはわたしには勝てないけどね、絶対に”


「勝負をしている気はありません。——私はあなたを超える」


私にとって都合の良い偶像如き、これからの道のりを鑑みると障害にすらなりえない。超えて当然のもの。


掻き消すように手を振ると、勝ち誇った笑みのままのあの方の体を貫通し、霧に巻かれたように消えていきました。



「――、っは、はぁ、はぁ、っ……」


先程よりも、さらに呼吸が苦しい。視界がぼやけ、フラフラと、よろめく。何だか、平衡感覚が、失われつつある気がし、ます。


一番の、仕業……?


か、彼女には、私のような症状も、見られない。突っ立って、いるだけ。……もしかして、これが先程呟いた”プラン2”…………?だとしたら、悪質、極まりないですね……!寒気を、通り越し、て悪寒がしますよ。


「まだ立てますか?なら立ってください。流石に庇う程の余力は、私にもありません」


「ディー、ルスは、平気、なのですか?」


「いえ、結構堪えます」


は、はは。堪え、る?そんな素振り、全くありませんじゃない、ですか。


こちらは、喋るだけでも、かなり辛いのに、彼は何事もないように立って、……立っているように見えます、よ。流石神様。人間とは、強度が違う。


滑舌がハッキリ、としないし、お腹も頭、もガンガン叩かれている。喉には違和感。これは熱も、あります、ね。


あーあ、風通りが、良ければ、まだ涼しく感じた、でしょうに。周り、が茂みと木々に覆われているのもあり、しかも、今日だけほとんど無風。辛うじて、こちらが風下、なだけ救いが、ありますが。


「――ぁ、あ、う、ぐぇ……」


……あぁ、キジェがまるで、誰かと話すように言葉に、ならない声で独り言を、呟き、見えない何かを追い払うように腕を振って、いる。


彼もまた、見えない幻覚と戦っている。記憶喪失の彼にとって何が恐ろしいのか、何と戦っているのか、私は、知らない。それでも、彼がとても苦しんでいることは、ちゃんと分かる……!


「キジェ!……キ、キジェ、しっかり、して……!」


強引に、彼の両腕を掴む。自身の頭を掻き毟って、血と皮膚が爪と指の間に挟まってしまう程の力。今まで、極限まで力を抑えて私達を傷付けないようにしてくれていたことを知った。


腕を振り払われ、体勢を崩した所、に彼の手が飛んできて、顔に三本の真新しい引っ掻き傷が生まれた。痛い、というよりもスース―と、そこだけ涼しい。


追撃を、入れる訳でもなく、ただ、キジェは自分の頭を抱えて、掻き毟っている。どうしようもない程、苦しんでいる。そして私はどうしようもない程、……無力だ。


こん、な時に、ディールスや、オーウィルみたいな頭脳や、キジェやカダチ、みたいな、ひたむきで懸命に、誰かのために行動する力、があれば良かったのに。

無い物ねだり、……ふふ、バカ。バカ、じゃないの。


 ――私にしか、ないものだって一つや二つ、あるでしょう!

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