80 教えて★大天才オーウィル先生!、其の二
オーウィルは、ネジを器用にディールスのトランクの上に立たせると、火を灯そうとランプの中のロウソクの近くで火打石を何度もぶつけましたが、何も変わりませんでした。
雨ですし、何よりロウソクの先が湿気ってしまったのでしょう。ともなると、もう火打石でどうにか出来る状況ではありません。
そうなると、もう私達に出来ることはないでしょう。——私達だけではないのが、この旅の仲間の強みですが。
「フン、地を這って懇願すれば、聞いてやらなくもないのよ」
勝ち誇った笑みで腕を組み、若干浮遊してオーウィルを見下すカダチ。今まではしてやられることが多かったからでしょう。自分が優位に立てるこの状況は、大変気分が良いはずです。
「いくら自称天才でも、矮小な人間にはやはり限界があるものね。良いわ。神のチカラの末端の末端の末端くらい、今は貸してあげるのもやぶさかじゃないしね」
「……おれ、まだ君達の正体とか聞いてないんだけど。まぁ、聞く気もなかったが。やっぱそっち系か。名前とか君はもろだしな」
「そうよ。驚いた?怖い?ひれ伏すなら今のうちよ」
「いや、何も。ホントに何も感じん。……ディールスの旦那は?おれの記憶だと、そんな名前の神様は居ないけど?」
「隠すつもりも毛頭ないので、白状します。そして、紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。私は、彼女から生を受けた四番目の神。歴史を司るイストワールという者です」
「うわ、予想以上にめっちゃすごい方だった。……マジかぁ」
「そう、それで良いのよ。畏怖しなさい、崇拝しなさい。決して手に届かない高位の神秘、決して理解できない神聖な存在、それを前にしてぇ……?」
語調の最後が崩れ、組んでいた腕がずり落ち、動揺を隠せない彼女。しばらく動きがなくなった後、やがてハッとしたように彼の周りを数回周り、最後に顔を見て心配そうに、本気でこう尋ねました。
「……気でも狂った?」
「いや全く」
ケロッとした彼。
まるで、当然。さも当たり前のことのように、彼女の問いを否定し、彼女の求める答えを一つも言いませんでした。
「怖いかどうかで言ったら、君達は全く怖くないな。変わらん。神様だってことも、一応目星というか、そうだろうなとは思っていたしな。それに、神様だからなんだ。今までの旅からも、ついさっきの君の話したことからも、君の人類に対する愛がおれでも分かる。表面上、口では毒を吐いているが、君って人間大好きだろ?矮小とか、愚かなんて言うけど、そういう所も全部ひっくるめて、愛してやまないものだって思っているだろ?何より、君はそう易々と他者を悪戯に傷付けたり、害するようなヤツじゃない。それはおれでも分かるし、おれでも保証できるよ」
「~~!!」
一気に、堪えきれなくなったように、今まで見たことがない程、カダチの顔や耳が赤くなりました。常人でも照れる程の凄まじい量の褒め殺しですが、カダチからしたら、嫌がらせに近いものに感じたのか。
「あぁ、もう最悪!よりによってお前なんかにバラされるなんて!」
両腕で顔を見られないように隠しつつ、右手の指の先からチャチャッと小さな朱い火を出し、「ほら!これで満足⁉」と言って、素早くランプの中のロウソクに灯してしまいました。
今まで付かなかったことが嘘のように、すんなりとロウソクに引火した火は、雨の中でも、意外にも強く燃え続けました。
先程の彼の言ったことは全て正しい。カダチは心の奥できっとこう思っているでしょう。
”クラウスさんが素性も知らない、心も開かない自分の面倒をみて、家族として接してくれたのは、そういう人間だけの愚かさを持っていてくれたから”だって。
だから、オーウィルの言う通り、彼女は人のそういう所まで愛している。他の神様でもなく同じ人間ですら、失望して、嫌悪して忌諱するような、人の醜く、醜悪な部分も。
「…………BIG LOVE♡」
「うっさい!黙れ!燃やすわよ⁉」
……どうして彼は一言どころか、二言三言も多いのでしょう?
一回口閉じていてください。余計なこと言わないでください。お願いですから。大体ビッグラブって何ですか。
……あーあ、カダチも拗ねて木のてっぺんまで浮いて行ってしまいました。
ここで、やっとオーウィルは思い出したようで。
「…………おーい、キジェくーん」
「……」
ようやく話を戻しましたね。ですが、オーウィル、もう手遅れです。
キジェは既に口を尖らせ、木の陰で膝を抱えて背中を向けて座っています。ダメですね。彼も完全にむくれていますよ。




