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79 教えて★大天才オーウィル先生!、其の一

「え、リディアさん背が高くなったんですか?」


…………えぇっと。


着替えたディールス達に事の顛末を話した後、人が寄り付かなそうな森の奥の開けた木陰で、あらかじめ買っていたダンゴを頬張りながら、キジェが口にした一言。

……大変だった潜入調査の感想の一言目がこれ。別に大層なものを求めていた訳ではありませんが、流石に、何かへこみます。まず先にそこが気になりますか……。


おそらく、彼はトネリカの御子が伝える言伝の、……”影が伸びて”を聞いてそう思ったのだと思います、多分。……きっと。…………はぁ。


「あははははは!キジェったら変なの!!」


「それは同感だな。でも、おれはその考え方も好きだぜ?なんせ、本当にリディア君の背が伸びた可能性だって――痛ぁっ⁉」


「あら、ごめんなさい。わざとです」


「わざとです⁉清々しい笑顔だなぁ、このやろー!!」


「…………ミスター・キジェ、”影が伸びて”というのは、おそらく日が傾いたことの比喩だと思われます」


「……???」


あ、ダメだ。何も分かっていない。”比喩”も分かっていない感じですね。分かりますとも。彼と一緒に旅をしてから、結構経ちますからね。


……何か、靴下を嗅いだ猫のような顔、していますね。可愛い、です!けど!


「リディアさん」


「うーん、ディールスの方がこういうの得意でしょう?せっかくですので任せます」


「ふんがー!諦めないでくださいよー!!」


ポコポコと両手で殴られていますが、全く痛くも痒くもありませんね。じゃれている犬猫の方がもっと力強く、ダイナミックです。


そして、さっきの説明で伝わらないのなら、私が彼に伝える手立てはありませんね。あれ以上に分かりやすい説明出来ません。無理。


「……ディールスさん」


「すみません、猛烈に頭が痛いので遠慮します。どうぞ他の方、後始末お願いします」


こめかみを数回押した後、眉間をつまんだ彼は、……うん、本当に疲れていますね。


この状況、”医者が匙を投げる”のなら、私は舞台用のかつらを投げます。何なら、ディールスは世界創世記ぶん投げるでしょう。今は堪えられていますが、彼の腕力では、何処までも遠く吹っ飛びそうですね。


「…………カダチさん」


「あははははははっ、あははっ、……ふふ、ふふふっ……、ふ、……お、お腹いひゃい……」


……可愛い。すごく可愛い。ものすごく愛おしい。大きな一輪の花が咲き誇ったような笑み。世界を甘く溶かしてしまえそう。


今まで、これ程周囲を気にせず、大胆に笑う彼女を見たことがあったでしょうか?

キジェに感謝ですね。彼の、……ユニークで天然な所がこんなにも珍しい機会を生み出してくれましたから。


「オーウィルさん!」


「ははっ、これだから、疑問を感じる脳の部分と口が直列回路のヤツは。少しは考えてみろと言いたいが仕方ない。しょーがないなぁー、もー、ホントに、おれの授業は高くつくぜ?」


こんなこと言っていますが、内心では結構嬉しかったのでしょう。


ノリノリで懐から、小さな持ち運びやすそうなランプと少し太いネジを取り出したオーウィルは、丸眼鏡を取り出し、「スチャ……」と声に出して掛けると、


「”教えて★大天才オーウィル先生!”」


「一人芝居は虚しくなるだけって知らないのね。可哀想」


「待って、ホントに憐れむのは違うじゃないか」


喋った内容はともかく、一生懸命可愛く作った裏声で言うのは流石に引きました。しかも、ウィンク。


ようやく笑いが収まってきたカダチは涙を指で軽く拭うと、いつも通りの毒舌に戻りましたが、口元は今も笑っていました。


「今度はおれが涙出てきたぜ。あ、このランプの光を太陽光、ネジをリディア君に見立てて進めるぞ」


あなたのメンタルの強さもどうかと思いますけどね。いえ、あのメンタルがなければ、こんなふざけた冗談言わないですね、言えないですね。


それはそうと、なぜわざわざ私に見立てたんですか。もう一発お見舞いしたいですが、話が進まないので我慢します、耐えます。……今は。

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