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74 お開き

「起こさないであげてください。この人最近眠れてなかったんで」


『サクラのお茶会』は彼のその一言で幕引きとなりました。

いえ、あの後すぐ『御子』と『魔術師』が寝てしまい、帰るタイミングを完全に逃して困っていたので助かりました。感謝を伝えるタイミングがなくなってしまったのは惜しいですが。


「そう、何ですか」


「はい、もう歳なんでしょう」


……女性に対してその発言は失礼通り越してますね。


「見送ります」


そう言うと、『騎士』は先程歩いてきた道を進み始めました。こちらに一切気を使わずに歩幅を考慮しない姿は、先程から子供っぽい彼らしいと思いました。


背後で誰かさんの裸足がペチペチと音を立てる。一定のリズムでもなく、はたまた私が知っている人のそれでもない。そう、子供が懸命に親の背中を追うような、そんな音。


横目で後ろを見ると、……少し後ろをなぜか『御子』が付いてきているのですが、……『騎士』はあまり気にするのでもなく、注意するのでもなく、自由にさせていますね。


「あの、よろしいのですか?彼、付いて来ていますけど……」


「あぁ、お構いなく。というか、どうしようもないですし。どうでも良いですし」


「私があまり言うものではありませんが、随分とまぁ、冷たいですね」


「……あれ?彼女の話聞いてもピンときてませんか?」


……何が?

え、そんな重要なこと見逃していましたっけ?


「子犬みたいに警戒してた割に意外と鈍いんすね、あんた」


へぇ、そんな風に笑うんですね、あなたは。


屈託のない、は違うのかもしれませんが、少し丸めた手で口元を隠し、細められたヒデナイトが愉快そう。悪意も無く、人を馬鹿にした訳でもない、本当にただ面白くてニヤけてしまった、そんな笑い方。


「『魔術師』が言った通り、御子は言伝を言った二十日後に行方知れずになります。でも、それって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ——は。


「それって、どういう――」


「自分が送れるのはここまでっす。後は自力でお願いします」


彼の言葉に遮られるように、私の疑問は搔き消されました。

……いえ、聞いた所で無駄だったでしょう。この現象は誰かが作為的に起こせるものではない、人の身であるのなら。彼も説明がつかないから、答えられないから、わざと遮ったのでしょう。


「……いえ、ここまで来れば十分です。色々とありがとうございました。彼女達にもそうお伝えください」


「了解です。では」


すぐに背を向けて来た道を戻り始める彼、——


「あ、せんせー!探したよ!」

「『魔術師』様はどこー?」

「せんせい、ケガしちゃった子がいるの。こっち」

「わたしはだいじょうぶだって!もっとあそぼうよ」

「あのひと、だれ?舎人火(とねりか)のひとじゃなさそう」


を多くの子供が取り囲みました。別れてすぐなのに、彼にものすごく懐く子供がいっぱい。『騎士』は彼ら投げ掛けられる数々の質問になあなあに返事を返し、慣れたように怪我をした子供の一人を抱きかかえました。


「ふふっ、子供お好きなのですか?」


「いえ、どちらかと言えば嫌いっすね」


「えー!せんせーそーなの⁉」

「ほんと……?」

「うそ。わたしショック……」

「せんせい、きらいにならないで」

「いった!!だれ⁉キズさわったやつ!!」


彼の周りに群がっていた子供達は思い思いの感想を述べました。


「はいはい、あんた達は別」


投げやりな回答をする『騎士』に対しても、子供達の対応は依然変わりませんでした。相変わらずベタベタくっつき、馴れ馴れしく話し掛け、人懐っこい笑みを浮かべる。


「そういう所が好かれるのでしょうね、先生?」


「勘弁してください。別に自分は教師やってる訳じゃないんで。自分がやってるのは怪我した奴の治療だけです」


なるほど、教師(せんせい)ではなく、医師(せんせい)でしたか。


「それじゃ、今度こそ失礼します」


「……さよなら」

「またねおねーちゃん!また会えるといいな!」

「せんせい、ぼく『魔術師』様とあそびたい、……です」

「せんせーいたい!もっとやさしく!はこんで!」

「じゃあな!」


ある子は『騎士』の腕の中で文句を言い、ある子は彼の陰に隠れてこちらの様子を伺い、ある子は元気よく進んで前を歩き、ある子は彼の服の袖を掴んで辺りを見回し、ある子は彼の脚にしがみ付きながらも怪我をした子を気に掛けている。


彼らの背中が遠のいていく。それでも、『御子』は『騎士』を追いかけるのではなく、いつまでも私のことを眺めていました。


……綺麗な肌にクリっとしたラピスラズリの瞳。金色の星屑がまぶされたようなのに、何だか光が宿っていない。私の方を向いているはずなのに遠くを見つめているように見えます。彼の行動に意味はないのでしょう。


……あれ?どうして今まで気付かなかったのでしょう?


 ——彼、トネリカ人じゃない。


褐色の肌ではないのもそうですが、体付きがこの国の人じゃない。ここの国の主食は穀物が中心のようで、中々肉付きの良い人が見当たらない。しかし、彼は違う。体の、特に肋骨の辺りと二の腕の筋肉の付き方がルジャダやグレスター寄り、……に見えますね。


鎖国してきたトネリカの今代の御子が、トネリカの人ではなかった。

これはバレたら大目玉でしょうが、そもそも何処から来たのか分からない人を定期的に『御子』としてもてはやしているいるこの国もこの国でしょうに。

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