73 サクラのお茶会、其の四
「――もう、良いんじゃないすか。まだこの話続きます?」
「…………『騎士』、さん……?」
お菓子を食べるのも止め、への字の口を更にへの字に曲げて青年はふんぞり返って腕を組んでいました。ヒデナイトの瞳があからさまな不快感を隠そうともしていません。
先程まで眼前のお菓子に夢中だった人がどういう心変わ、り――。
……これ、は、……拗ね、てる?
……のでしょうか?………………なぜ?
「何だい、『騎士』。珍しいね、ワタシの話に口を挟むなんて」
「別に、アンタが他の男の話してるのがただただ面白くないんで」
人の心の機微に昔から疎い私は、彼の心情が理解出来ませんでした。人が人の話をしたら、なぜ不愉快になるのでしょう。答えが分かるのは、多分ずっと先なのでしょう。
それでも、あなたのその言葉にその意思がなかったとしても、助けられたのは紛れもない真実。……本当に、助かりました。
「……あの、私達は一番目のディディを探してこの国に来たのですが。何処で封印されているとかご存じですか」
ここで、ようやく本題、一番聞きたかった質問を投げ掛けることが出来ました。
「……アイツが言っていたことは真じゃったか」
……アイツ?
「一番目のディディはな、数ヶ月前にこの国にフラッと訪れてきたよそ者。図々しくもワタシに契約を持ちかけてきた度胸があったんだよ」
「ぇ、……?」
――なんて?彼女は今、何って言った?
封印は?世界創世記に書いてあったではありませんか。
一番目の神、封印の神 カシェ様の封印によって今も何処かで眠っているって。
「向こうの要求は至って端的。”この国に留まる許可が欲しい”だったのう」
私の異変に気付いていながら、彼女は話を続けました。話を滞らせたくなかったのもあるでしょうが、反応が面白かった、というものもありそうな笑みを浮かべました。
「……あなた達はそれに見合う何を受け取ったのですか?」
「――情報と、釣り餌」
……釣り餌?彼女が釣られる程のものをそのディディは持っていたというのか?
「アイツはワタシに言ったんだよ。”ぼくを追いかけてきみが望む人物 ——四番目のディディの半分がやって来る。ぼくはこの国でやらなくてはならないことがあるから、きみ達の邪魔はしない。だから、きみ達もぼくに関わるな”ってね。だから、ワタシは特例でアイツを”一番目のディディ”ではなく、”この国が呼び寄せた腕利きの宝石商人”として入国を認めたのさ。アイツという釣り餌にまんまと引っ掛かったっていう訳。……本当は他のディディを入れることはおろか、例外的とはいえ鎖国を破ることも死ぬ程癪に障ったよ」
「……」
「いや、何でもない。最後は聞き流しておくれ」
この人達はテコでも、私以外のディディの存在を認めようとしませんね。千二百年分の怨霊ですか?……真相を先程聞いた私は、下手に口を滑らせれば死待ったなし、ですね。
「コホン、……とにかく、絶対に一番目のディディは絶対にこの国に居る。保証するよ。手伝いは出来ないけどね」
「いえ、そこまでしていただけたら十分です」
全員が話し疲れたように沈黙が続く。実際、私は結構疲れました。話すのは楽しいのですが、如何せん今回は気を張り詰めていましたし、情報量が多過ぎた。
「……この国に救世主は要らぬ。この国に革命家は要らぬ。久遠の不変、悠久の不動。それこそがこの国の全て」
突然、彼女は再び遠くを見つめて、独り言のようにそう呟きました。机に突っ伏したまま冠を弄る『御子』、絶えずお菓子を食べているものの視線が『魔術師』から離れない『騎士』、そしてここまで事細かに説明をしてくれた『魔術師』。
「改めてようこそ、神に愛された舎人火の地へ。この地の民、この地の王、この地に息づく全ての生き物は心から、アナタを歓迎、そして祝福します、小さな友人」
彼女は穏やかな微笑みで、こちらに話し掛けてきました。彼女のタンザナイトは敵意も無く、害意も殺意も無い。向けられるのは親愛の意。まるで古くから付き合いのある親友のように、しかし確かに礼節を持った口調で。
祝福……。そんなの、この旅で初めて言われた。
「――どうか、ここでの全てがアナタを幸せにしますように」




