63 朝が来る
「あ、リディアちゃ〜ん!またね〜!そこの寝てるカダチちゃんにもよろしく!!」
「速く帰ってください」
「おい、デイビッド。お前さんまた性懲りもなく……」
うわ……。と言う所でした。危ない。
わざわざ戻って来て言うことですか、それ。人を見る目が無いというか、随分と年下に……、一言で言えば趣味が悪いですね。
そして、彼らの姿が本当に見えなくなった所で、私達の戦いは終わりました。
「キジェ、ありがとう。もう十分です」
「分かりました。……無理はしないでくださいね」
「えぇ、分かっています」
キジェがこちらを苦虫を嚙み潰したような目で見ています。……分かっているつもりですよ。
「……ディールス、怪我は?カダチは大丈夫?」
「ご心配なく。私達は神ですから。怪我はありませんし、カダチは眠らされただけです」
「そう、……良かったわ」
良かった。本当に良かった。確かに二人の服はボロボロなだけで怪我や血はありません。指先でそっと触れたカダチの手も温かでした。
「ウィリアム、あなたは?」
「……あ、あぁ、別におれは平気だ。結局モールと話しただけだったしな」
「そうですか」
良かった。彼も無事でした。
「その、君の方が怪我が酷いだろ……?大丈夫なのか……?」
「え、……あぁ。大丈夫です。もう大体塞がりました」
「そ、そうか……。え⁉」
「ウィリアム、お別れです」
「え、え⁉」
「私達は人々が起きる前にここを発ちます。これ以上の長居はあまりにも人目に付いてしまう。絵の完成まで手伝えないことは残念ですが、了承してもらえたら幸いです」
「……」
「さようなら、ウィリアム。どうか、私のことだけでも忘れてください」
彼がディディと過ごしたことは、当然ですが極力秘匿するべきです。特にあの方を殺したディディなんて……。
キジェやディールスやカダチのことまで忘れてくれなんて言えません。彼らに罪は無い。この旅は私が付き合わせてしまっているだけなのですから。
「――いや、おれも連れて行ってくれ」
「――は?」
「前から薄々思っていたんだ。国に平和をもたらすため、なんて言って大量に殺人したおれがこの国に居てはいけないって」
「な、何を、言って、……。あなたはこの国の人々のために、平和のために、その人生の多くを犠牲にしたあなたが⁉何よりもこの国を深く愛しているあなたが、国を出ていくですか⁉」
「あぁ、もう決めたよ。おれは人を殺した、たくさん。そんな殺人鬼がこの国に居て良いハズがない」
「でも、そんなのって……」
人を殺すことは悪。どんな状況でも、世界はおおよそそれに良い印象は抱いていません。
それでも、あなたがそのために多くの人を殺めたとしても、誰にも知られずに平和を為し、起こったかもしれない大きな戦争を未然に防いだ一人の少年のことを誰も知らない。誰も讃えない。誰も憧れない。誰も愛さない。
ただ人知れず、愛した国のために動き、自戒で愛した国に自ら追放されるなんて……。
「あなたが、報われないじゃない……!」
「……良いんだぜ、それで。それが、——正しいのだから」
結界のようなものはいつの間にか消えており、辺りは明るくなってきていました。
誰一人欠けることなく越した夜。そうして迎えた日の出。
――朝が来る。




