表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/111

60 死の神、其の二

「……モール」


どうした?今日は覇気が無いように見えるが。余程問題に自信が無いのだな。


「違う、違うんだ、っモール」


ならば何故だ。我は人の機微には疎い。人程忙しなく考え事をしておらぬ。葦の考えていることが分からぬ。

言葉にしてくれ。


それくらい簡単ではないか。それ以上の難解な問題にいつも我々は取り組んでいるのだから。


「……おれ、結婚するんだ」


 ――。そうか。


「そ、それだけか?もうここには頻繁には来れない。勝負もお預けだ。おれはまだ勝ててないのに……!」


めでたいことではないか。それこそ、こんな所で時間を潰すよりも余程有意義だ。


「……何だよそれ。君にとってこの時間ってそんな無意味だったのかよ!好敵手(ライバル)って思ってたのっておれだけ⁉」


貴様は、ここで腐る人ではないということだ。


『司書』の家の一人息子なら、いつかはこうなることは分かっていた筈だ。貴様も『司書』の役割に誇りを、祖国に愛を、持っている。こうなるのは決まっていたのだ。定めとか、運命とか、そういう星の元に生まれたとか、そう言うのだろう、お前達は。


「はは、それ、()が言っちゃうのかよ……」


おい、何処に行く?まだ話は終わっておらぬ。


「うっせぇ!」


我は、いつでもここで待っている。頭を冷やしたら、また来るが良い。


「……」


……行ってしまったか。


あれは賢いが、激昂しやす過ぎる。それさえなければ、あれは『司書』としてこの国を支えることも容易かろう。


さて、次の勝負はいつかな。







「久しぶり」


……それ程時が経っていたか?


「経ったろ。結婚式とかで忙しくて一週間すっぽかしたんだぜ」


そうだったか。お前達は忙しないな。我には耐えられぬ程、いつも何かに追い立てられている。


「あぁ、これから本格的に忙しくなる。あんまりここには来れねぇ」


そうか。それでも、我は待ち続けよう。ここから追い出すのであろう?


「……あぁ。また来るよ」




































「……久しぶり」


あぁ、久しいな。本当に久しい。


「悪いな。もうこの体じゃ『図書館』になんてとても行けなくてな」


だからと、我に家まで来させるなど不敬にも程がある。手間を掛けさせるな。貴様でなかったら、許されなかったぞ。突如として勝負しに来なくなるのも、不快だ。


「そうだな。ごめん」


ラチ。貴様そんなにも頭が白かったか?そんなにも頬が痩せこけていたか?手が皺だらけだったか?


「そんなもんだよ。……もう『図書館』に行けなくなって三十年も経つから。もっと速く、会いに来てくれると思ってた」


少しすれば来るだろうと思っていたら、三十年経っていた。それだけだ。今までの時間を埋めるように、また勝負すれば良い。


「……それはどうかなぁ」


曖昧な返事は好まれるものではない。きちんと断言せよ。


「…………なぁ、モール。お願い、聞いてくんね?」


話を聞け、葦よ。貴様はいつでも自分勝手だな。……良いだろう、言うだけ言ってみろ。もう慣れた。


「ありがと。……おれはもうダメだ。長くは生きれない。だから、おれの子供達の成長を見守って欲しい。悪いことをしたらガツンと叱ってやって、良いことをしたら思い切り褒めてやってくれよ。おれの代わりに」


……勘違いと思いたかったが、貴様、やはり死ぬのか?


「あぁ、病気だ。治療法の無い、タチが悪いタイプのね」


それなら心配いらない。今すぐ治せる神を連れてこよう。心当たりはある。


「いや、遠慮しとく」


何故?


「君の唯一の好敵手(ライバル)は始めから最期まで人間で在りたいのさ」


理解出来ないな。だが、貴様なりの考えがあるのだろうから、我はもう口を出さん。


そして、先程の貴様の願いだが、そこまで干渉してやる義理は無い。と言いたいが、貴様の願いだ。善処しよう。


「んふ、サンキュ。君は甘いもんなぁ」


心外だな。我は人をあまり好ましく思っていない派閥に属した神だ。あやつらは殺し過ぎる。生きるためではなく、快楽のために多くを傷付け、無用に殺す。同族をもだ。実に愚か。


「ん、違う。——君は、おれだけに甘いんだよ」


……そうだな。言い返せんよ。


「なぁ、もう一個」


図々しいぞ、ラチ。


「……おれに触れてくれよ」


 ——死ぬぞ。


「知ってる。言ってたもんな、生まれてから一度も生き物に触れたことないって。生みの親にすら。どんなものでも、触れたら死ぬって。君が梯子から降りなかったのって、もしかして手違いでもおれに触れるのが怖かったからか?」


……気でも狂ったか。


「死ぬなら、君の手で殺して欲しい。でもさ、何でだろ。——おれは君に触られても死なない気がする。何となく、さ」


死に、例外はない。輪廻の輪も、冥界も、存在はしない。人がそうあれと望んだ幻想であり、理想だ。


矮小な存在よ。脆弱な存在よ。短命な存在よ。それでも、我の良き好敵手よ。

貴様が我に勝つことはない。しかし、ここまで競った人もまた居ない。誇れ。


「それだけじゃ、足りないんだ。……頼むよ。——おれは君に触れたい」


待て、ラチ。頼む。……考えさせてくれ。


「おれが待つ番かぁ。おれはそんなに待てないぞ……」






 ――ラチ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ