59 死の神、其の一
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「ちょっと~、そこの存在感がすごい君、もう閉館時間なんてとうに過ぎてるよ。あと、『司書』以外が蔵書触っちゃいけないんだぜ」
……うるさい。
神にそんなもの関係ない。むしろ、貴様のほうが規律を破っているまである。ここは彼女が我のために作ってくださった図書館だ。この図書館が立ってから、ここ千年。ずっとここは我の財産である。
不遜である。不敬である。この財産の持ち主である神を前にそのような発言は許容出来ぬ。
「うわっ、君、頭に直接響くような声してんね。というか、この辺りじゃあんま見ない服装だし、観光客?」
話を聞け、人間。人間は考える葦なぞと評されているが、貴様は例外か?
「というか、神って言った?何の神様?一旦梯子降りね?」
……彼女から生を受けた十三番目の神、死を司るモールである。
「へー、おれはラチ・オーウェン。『司書』の嫡男。ラチでいいよ。んじゃモール様。おれと勝負しないかい?おれが勝ったら、今日はこの『図書館』から出てってもらう」
くだらん。何故、我が貴様の進言を受け入れねばならぬ。本来ならば、貴様が頭を垂れて許しを請う立場である。
ラチ、と言ったな。そこの茶髪。
平服せよ。服従せよ。人は、神に生かされている。
「――自信ねぇの?」
——。
ほう、人間如きが物怖じせず、良くぞ吼えた。良いだろう。その蛮勇に免じて貴様の誘いに乗ってやる。
「勝負は三回。内容はこの図書館の本からクイズをお互いに出す。正解数が多い方が勝ち。ただし、解釈によって答えが変わるのはNGだな。……あと、そろそろ梯子から降りない?」
くどい。……さっさと始めるぞ。
「嘘だろ、三対一で完敗かよ……。自信あったのに、マニアックな問題出しやがって……。しかも、本を手に取ることなく問題作成から解答までしてみせやがった……」
当然である。我はここの書物の内容は全て頭に入れている。
「……ズルでは?」
いやなに、神は人間のように忘却なんぞの欠陥が無いのでな。あんなにも息巻いていたが、やはり人間相手では手を抜いた方が良かったか?
「…………もしかして、今も梯子から降りないのって見下ろしているからか?」
……さて、決着は付いた。もう干渉するでない。
「うっわ、性格悪っ⁉」
「おーい、モール様~。追い出すために今日も来たぜ~」
……その口調を改めぬか。
加えていい加減、くどいぞ。よく飽きないものだ。もう分かっただろう。
断念しろ。諦めろ。人の身では神に勝る部分は一欠けも無い。
「良いじゃねぇか。もう三ヶ月も負け続けてんだ。根は負けず嫌いの俺も、流石に一勝は上げたくもなる」
……良いだろう。こうなっては、貴様が絶望するその時まで、付き合ってやる。
「え〜、何だっけなぁ!?」
何だ、今日はもう終わりか。張り合いがないではないか。
「はぁ!?神様はちょっと待つことも出来ないんですかぁ?」
……さっさと考えろ。
「流石に今日入館した本は分かんないだろ!」
そう思うのなら出してみると良い。
「……少女向けの童話は?」
神は全能故に神である。取り零す知識も、蔵書もありはしない。
「…………ちょっと問題考え直すわ」
そうすると良い。
「モール、今日は良い問題が出来たぜ!勝てる!」
最近ではこの勝負、競る程になったな。
人間が神と並ぶ日も遠くはないかもしれぬ。いつか、我は梯子を降りて貴様と肩を並べる日が来るやもしれぬ。
貴様と勝負をする毎日を我は好ましく思っているぞ。
今日も受けて立とう。




