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56 それでも立ち上がる

短い夢を見た。正しくはあの方から受け継いだもう一つの記憶、を追想していた。

分からないことが多い。一回頭を整理したい。


でも、それは後回し。あぁ、ダメ。ヘルトがディールス達の所へ行ってしまいます。


剣を杖代わりに立ち、息を大きく吸う。体はもう爆発していないが、彼に始めに殴られたお腹がズキッと痛んだ。内臓が潰れていてもおかしくない威力でしたからね。


肺一杯に空気を取り込み、わざとらしく大きな声で叫んだ。


「――まぁまぁまぁ!今度のお客様は随分とお急ぎのご様子で!まだカーテンコールどころか本編すらも始まってなくてよ!」


「ん?もう立てねぇと思ってたんだがなぁ。いやはや、伸びてた方が楽だっただろうに」


私の言葉を気にしない、というように彼は振り返り、淡々と言いました。

確かに彼の言う通り、気絶していた方が痛くなかったでしょう、苦しくなかったでしょう。


しかし、ここで立たなかったら?再び目を覚ました時に何もかも失っていたら?


過去を想い、未来に目を背けるのは違うだろ。


戦うと決めた。

過去との清算をつけるため。


戦うと決めた。

今持つ大切なものを失いたくないから。


戦い抜くと決めた。

彼の明日が自由であるために。


だから、改めて


「――傷付ける覚悟を持ったのは、大切な仲間を守るためだから!」


剣を構え、堂々と胸を張って啖呵を切る。寝てなんていられない。起きろ、立て、武器を持って戦え。


仲間を大切に思う気持ちも、誰も失いたくないと思う恐怖も、輝かしい明日への希望も、きっとこの想い全ては私にとって不要なものじゃない!


この全てが!私を「リディア」たらんとするものよ!


「……あァ、そうだ。それで良い。そうでなくっちゃなぁ!」


この時、彼が初めて構えの姿勢を取った。


時が止まったような感覚。今だけはこの世界に彼と私しか居ないような錯覚。

よく視える。よく聞こえる。よく感じる。腕に力が入る。落ち着いて呼吸が出来る。地を踏みしめる。


ヘルトと全く同じタイミングで走り出した。

軽い剣は私でも振りやすく、弾かれた瞬間反撃に出ることが出来る。彼は素手で剣を捌き、こちらにも殴りかかってきた。私に出来たのは辛うじて攻撃を致命傷ではないものにすることだけ。完全に受け流すことも、避けることも、防ぐことも出来はしない。


それでも私の傷は戦闘中でも着々と治ってきている。自動回復。長期の戦いであれば確実に私が有利であるはずだが、そう思えないのは相手が武神だからか。


しかし、彼に付いていける。彼の行動が見える。

先程よりも私は速く、強くなっていく。


心臓の音がうるさい。まるでいくつも体の中に心臓があるみたい。


彼の大振りの拳が飛んでくる。身を低くして躱し、潜り込み、再び彼の間合いに入った。

前回のような避け方をされないよう、狙う所はもっと低い場所。反撃に備え、片手だけで剣を握る。


あと少し――!

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