51 奇妙な4人組
「――お前さんが探してる奴。どいつだ?オーウィル・オーウェンって奴。また随分とふざけた名前だな」
道の先、遠くから知らない声が聞こえました。こんなにも離れているのにその張った声はまるで近くで聞こえました。おかしい、さっき人が居ないのは確認しました。声の主を見ようと目を凝らすと――。
……何というか、目を逸らせば良かったと後悔しました。
成人を大幅に過ぎたであろう大の大人が二人、今にも崩れそうに肩車をしているじゃありませんか。二人とも背が高いからか高い肩車なのがさらに見るに堪えない。下に四十五歳程の細身の男性、上に若い屈強な男性なので余計にアンバランス。なおかつ上の男性は腕が四本で頭に猫の耳のようなものが付いています。
……まるで修復に失敗した名画を見ているような気分。
私も、ディールスも、キジェも、カダチも、笑い飛ばしてくれそうなウィリアムまで、思わず引いて黙ってしまいました。シリアスな雰囲気は何処へやら。
「あの、師匠……。そ、そろその限界ですねぇ……!」
「あァ⁉弟子なんぞ取った覚えはねぇ!そもそも根性足りてねぇんだよ、お前さんは!」
「ミィー……」
「ほら、姉貴も呆れてらぁ。お前さんが根性足りてないって……、姉貴、痛くはないが髪をガシガシ噛むのは勘弁してくれ。分かったから」
「シャー!」
「分ぁかったから!降りるから!」
「た、助かったぁ……。そもそも、師匠こんなことしなくても見えたでしょう……?」
どうやら巨大肩車の正体は二人の男性と一匹の猫だったそう。近くにもう一人居るので合計三人と一匹ですね。
「あ、静かに近づこうとしたのにバレてらぁ」
「当たり前ですよ。もう、どうするんですかぁ……」
ケラケラと半笑いで喋るガタイの良い若い男性と、いまだに息が整わない訛った口調な初老の男性。
前の私ならこう言っていたでしょう。……なんだこいつら、と。
「よっ、カダチ。久しぃな」
「……?」
「まじかよ、覚えられちゃいねぇ」
この会話と彼の気配から神の一柱であることが確定しましたが、家族に忘れられていることすら笑い飛ばしましたね、この方。メンタルが強いのか、気にしていないのか。
「えぇっと、あなた達は……?」
「おぉ、お前さんが一番新しぃディディの半分か」
こちらのことは知られていますか。
「戦う前の流儀だ。名乗っとくか」
こちらに戦う意思はないのですが……。しかも、なんか準備運動始めていますし。
「俺ぁヘルト。彼女から生を受けた十二番目の神。戦いを司る神、いわゆる武神って奴だな」
日に焼けた肌、四本のたくましい腕、服の隙間から見える厚い胸板と引き締まった腹筋が素晴らしいですね。流石武神。
赤褐色の月光を浴びて美しい銀髪の髪に血飛沫が付いたよう。瞳は血塗られたレッドスピネルでしょうか。
何よりもその存在感が凄まじい。息が詰まります。
「こっちの若いのが、……お前さん、そんな老けてたか?」
「師匠、歳ぃ考えてください。ワタシだってもう良い年ですよ」
「こいつがデイビット。いつからか付いて来るようになったルジャダ人だ」
「えぇ……、ワタシの評価が雑ぅ……」
さっきから不憫そうな方が力なく応答しています。どことなくこの扱いの不憫さ、キジェに近いですね。
ヘルトとは違う所々白髪の混じった銀髪、力強いグレースピネルの瞳、深く刻まれた皺、アレンジが聞きつつも伝統の型を残したスーツを良く着こなしていますね。
「俺の頭の上がスパーツィオ。彼女から生を受けた九番目の神。空間を司る神。その昔、人間が嫌い過ぎて偏見の神に姿を変えてもらうよぅ取引したらしい。命知らずが過ぎるってもんよな」
……それが事実なら本当に命知らずですね。
彼から紹介を受けた神もとい猫。
オレンジの縞模様の茶トラ柄、クリソベリルと全く同じ金緑色の瞳、長い髭、長い尻尾と愛らしい、普通そうな猫。
神であることがいまいち信じられない方です。
今もにゃっと短く鳴いていらっしゃいますし……。
「そっちのがモール。彼女から生を受けた十三番目の神。死を司る神。こいつは死そのものだ」
紹介をされた後も彼……、——彼女?
どちらでしょう?いえ、そもそも神ですし、どちらでもあってどちらでもない方だっているのかもしれませんね。
とにかく、モールは何も言いませんでした。息をしている様子もありません。
長い前髪に顔全体が隠れていることもあり、表情も読み取れません。
男性とも女性ともとれる背と体格、背中から生えた痛ましい錆びた鉄製の翼、ボロボロの指先、青みがかった黒い長髪が床まで着きそうです。
未知数、という言葉がピッタリな神様ですね。




