50 憤怒と憎悪
「それで?君はどうする?」
「自首してください、ウィリアムさん」
「おいおい、君に言われる筋はないぜ。その言葉、そっくりそのまま返してやる」
「こちらこそ、あなたに言われるまでもありません。これは、私の、——私だけの懺悔の旅です」
「懺悔の旅、ねぇ……。そこの三人は含まれないのか。いや、そもそも手配書の男性の方はどうした?」
……その彼を連れ戻すための旅でもあるのですけどね。
あなたには関係がない、という代わりに沈黙をしました。
「あぁ、すまん。脱線した。おれは君に親近感を勝手に抱いていたが、どうやら明確に一点、違う所があるらしい」
勝手に親近感を持たれても迷惑なのですが、そんなことを言っている場合ではありませんね。
「――おれは自分がしたコトを悔いていない」
——。
「必要な犠牲なんて言わないが、『司書』には相応の罰だったと自負しているよ、おれは」
……罰?それは内戦を起こした罰なのでしょうか?
「政治的な意見の衝突、って言ったよな。君達にこの国について説明した時。何についてだと思う?」
「貿易や関税について、……でしょうか?」
一生懸命に頭の隅から政治に関する言葉を引っ張り出してきました。それは正しい答えではなかったようで彼は首を横に振りました。
「あいつらはな、——どこの国と戦争をするか、でずっと揉めていたんだ」
――は?
「人口が少ないであろうトネリカを攻めるか、貿易を止めて困窮したグレスターを落とすか。そんなくだらないことで『司書』は二分化し、どちらにもつかなかったオーウェン卿を殺して、やがて内戦を始めた」
本当にそんなことが……。オーウェン卿は戦争を辛うじて食い止めていたキーパーソンだった……?
だから彼は全く別の二つの事件として語っていた……⁉
彼の言葉が真実であるとするなら、それはなんて残酷な――
「――なぁ、こんな馬鹿げた内戦、誰が止められた?」
シンと静まり返った空間を切り裂くような彼の声。私は、……何も言えませんでした。
「こんな強引な手を使わなかったら、あと何人死んでた?何年続いた?答えてみろよ!」
声が、出ない。いえ、出す気力すらもなかったのかもしれません。
「オーウェン卿が、——お父様が目の前で殺されて!クソみたいな理由で戦争が始まって!次々人が死んだのにあいつらは死なねぇ!何なんだよもう!勝手に死ねよ!」
あぁ、彼の憤怒が、憎悪が、伝わってくる。彼の憤怒も、憎悪も、私は一片たりとも分かってあげられないのだろうけど、彼は分かられようとしていない。彼はただ、ぶつけているだけだ。
「殺したよ!自分で小細工したり、人を雇ったり、勝手に死ぬよう誘導したり!」
やけになったように叫ぶ彼。そこには先程までの彼の余裕も、皮肉も、友愛もありませんでした。
「おれが正義だ。おれは、悪くない…………!」
涙交じりの苦しそうな声、痛く細められたアンダリュサイト、自分に言い聞かせるような言葉が、余計に彼の首を締め上げている気がしました。




