49 素人の推理ですが。
『図書館』の閉館時間が迫っていたため、私達は退館しました。今はウィリアムの自宅へ向かっています。お礼に紅茶をご馳走してくださるそうで。
夜も更け、三つの月の一つ、赤銅色の月がこちらを覗き込んでいます。空気が澄んでいるからかはっきりと見える。空には高く飛ぶ大きな鳥が二羽。
私の隣にウィリアム、少し後ろにディールス、さらに後ろをカダチと並んでキジェが歩いています。
カダチとキジェ以外の間で特に会話はありませんでしたが、私としてはこの位置は好都合。周囲に人が居ないことを確認し、覚悟を決めて彼に話しかけました。
「これはただの予想ですが、一つ、お伺いしてもよろしいですか?」
「ん?別に構わない。それに敬語も止めてウィルって呼んでも良いんだぜ?」
「それは遠慮します」
「泣くぞ、おれも」
全然悲しくなさそうに彼は言いました。こんな軽口を言われるとエドワーズを思い出しますね。
「では……」
少し強引になってしまうでしょうが、仕方がないと割り切っていきましょう。
軽く息を吐き、息を整えて彼に問いました。
「――あなたですよね、この国で『司書』が次々と死んだ怪奇事件の犯人」
「…………ふ、ははは!」
彼の大きな笑い声が辺りに響きました。予想外の反応ですが、……うん、うるさい。
「リ、リディアさん。それは流石に失礼ですよ!」
「どういうことなのよ。説明を求めるわ、リディアお姉様」
「……いや、失敬。構わないさ。さて聞かせてくれ。——君はなぜ、そう思った?」
「きちんとした根拠はありません」
「……君なぁ~」
出鼻を挫かれたように、もしくは呆れたように、不満げなアンダリュサイトの瞳がこちらを見ていました。
私を探偵か何かだと勘違いしていませんか。華麗な推理とか、期待されても出来ません。学がないからと大体直感で生きているような女ですよ、私。
「最初の疑問はあなたがこの国の情勢を話してくれた時でした。あなたは十七家の説明をしてくださった時、オーウェン卿だけまるで別の事件に巻き込まれたように話していました。普通でしたら、怪事件の始まりとして、一人目の犠牲者として、卿を語るはず」
事実、彼はまるで全く別の二つの事件のような口ぶりでした。しかし、オーウェン卿が内戦前に殺されたことも事実。これだけではただの偶然や言い方が悪かった、と逃げられるかもしれません。不十分です。
「それに不思議だったのです。あなたが私の手配書を見ていたことが。あなた自身が『司書』しか知らないと豪語したにも関わらず」
実際、彼は不明瞭な点が多過ぎる。生い立ちが平民のようにしているが、行動の隅々で育ちの良さが出ている。おいおい追及させていただくつもりですが。
「そこで思ったのです。あなたは何かしらの重要な情報を握っている人物であり、私達に何か隠している、と」
彼は私達に絶対、何か隠している。これまでも、これからも。
「これより先はただの想像ですが、愛国心の強いあなたは内戦を始めた『司書』達を憎んだ。様々な手段で『司書』達を殺していった。きっとあなたのその道は私が想像もつかない程長い道だったと思います。そして、三週間前、ついにディケオスィニ卿を自殺に見せかけて殺害し、あなたの長年の悲願だった平和が叶った。オーウェン卿を除いた十六人の犠牲で」
彼の言葉が真実なら、オーウェン卿は別の事件に巻き込まれた可能性が高い。その事件もおそらくは政治的な意見の衝突に関係するもの。明確な目的を持った殺害事件ですから。
……彼が殺していないと信じたい。
「証拠がないぜ。君の言う通り、今のは全て君の妄言だ」
……そう、証拠がない。そもそも、難癖付けられない程、彼の犯行は完璧。
私がこんなにも確信を持って言えるのは直感だから、としか言いようがありません。
そっとウィリアムの頬に触れました。彼は動かず、ただ立ったまま。
指で軽くなぞると、彼の肌色と同じ色のおしろいが付きました。すっぴんに近い、とても自然なメイクで気が付くのに時間が掛かりましたが……。
「顔、隠していましたね」
「化粧くらいおれもするぜ。『司書』の家系に仕えるものとして当然だろ」
「にしてはおかしい。あなたは昨日も、寝ぼけていた今日の朝も、今も、全く同じ化粧をしていますね。流石に寝坊した今日の朝はそんな暇なかったと思いますが。しかも、わざと目元を上げて、……印象を変えるメイクですよね?それ」
だが、これも弱い。もう一押し、絶対的な証拠がいる。
しかし、一点。私でも気が付く、明らかに不自然な点があった。
「……どうして、屋根には雪が積もっていたのに庭はあんなにも手入れがされていたのでしょう?」
……あぁ、今、露骨に顔が曇りましたね、ウィリアム。
そう、少女一人が埋もれてしまう程、屋根には雪が積もっていたにも関わらず、庭は最近手入れされたばかりだった。
「何でも、植物は吸った液体の色によって花の色を変えるんだとか。トネリカ聖教国の美しいサクラの下には死体があるそうですが、——あなたの庭のコノエハコの下、何が埋まっているんでしょうね?」
「……いつからだ。いつから君はおれは疑われていた?」
「初めて会った時から」
やっぱり、木の下に何か血痕の付着したものでも埋めていましたか。
それにしても、こんなあっさりと認めてしまうとは。
「本に触ってはいけない『図書館』で梯子に登って、あまつさえ落ちる人など居ないでしょう」
「悲しいねぇ、初めからだったとは。あぁ、君の言い分は大方合っているよ。まさか会って二日の殺人犯にバラされるとは。……君なら共感してくれると信じていたのに。友達だと思っていたのはおれだけだったってこった」
ガックリとわざとらしく肩を落とし、大きなため息をつくウィリアム、……いえ、この名前も偽名でしょう。
それでも、私は彼の呼び方を「ウィリアム」しか知らない。




