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46 土下座

「すげぇ音したけど、来てるなら言ってくれよ……」


眠たそうに目を擦り、頭を掻くラフな格好の青年が窓を開けて身を乗り出していました。


「ミスター・ウィリアム、今はもう昼近くです」


「知ってる、ディールスの旦那……。朝は弱いんだよ」


半分も空いていない目に小さい声。本当に朝弱いんですね。


「わ、ウィル髪下ろしてるー!」


「ははっ、髪下ろしてもウィルさんは色男だろぉ」


そう言いながら何処から持ってきたのか、淹れたての紅茶をすすり、少女の頭をポンポンと軽く触れました。嬉しそうに少女はされるがままになっています。


「ウィリアムさん、この少女は?」


「……え?」


夢と現実の狭間で揺れていた彼の目がはっきりと覚めた瞬間でした。カダチだと思っていたのでしょうか。


彼は今、気付いたのでしょう。一度も目の前の少女を目視していないことに。


恐怖心と葛藤しながら、ぎこちない動作で目線を下に向けて、必死に手に触れている少女の姿を見ようとする彼。まるで今触っている少女に心当たりがあるが、違う人物であってくれ、というような。


「――おはよ、ウィル!」


やがて、少女の姿を視界に入れ、その声を聞いた瞬間、青年は見たことがない程真っ青な顔と悲鳴にならない悲鳴で、卒倒しそうにふらふらと数歩下がり、勢いよく窓を閉めました。家の奥からガチャガチャとやかましい雑音が響き、やがて勢い良くドアを開けて彼が戻ってきました。


昨日着ていたしわの付いたスーツ、雑に上げたであろう前髪、靴は踵が潰された状態で履いていた。


「…………大変申し訳ありませんでした、エーリゼお嬢様」


 ――流れるような、完璧な土下座でした。


タイミング、角度、声の張り、抑揚、メリハリ。ぐしゃぐしゃの服装と場所が雪の上でなければ、思わず拍手していました。それを加味しても、謝罪としては八十九点の高得点ですね。

何よりも意地もプライドも捨てたと言わんばかりの額の付け方が、彼の性格を知る者ならあり得ないと思わせるには十分でした。


「もう、そんなにあやまんなくてもいいのに」


少女 ——エーリゼは少し頬を膨らませ、ウィリアムの腕を掴んで強引に彼を立たせました。頭を撫でてもらったことが、実は相当嬉しかったのでしょう。


「いえ、休日だろうがわたくしはディケオスィニ家の使用人であるコトには変わりません。従者が主に不敬を働くなど、とてもではありませんが許されることでは――」


「はなしが長ーい!おじゃまします!」


「お嬢様ー⁉」


……圧倒されている、あのウィリアムが。


それはそれで大変愉快、……面白いのでエーリゼに付いていった。

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