42 ため息
キジェとカダチを呼んで事情を説明し、ディールスに彼を負ぶってもらい、貰った手書きの地図で土地勘のある私が先行し、少し長い間、私達は歩き続けました。
大通りで変な目で見られ、裏路地で泣きながら叫ぶ酔っ払いに絡まれ、吹雪が激しくなってきつつあった時、彼の家らしき所にたどり着きました。
……一人暮らしと聞いていましたが、一人で暮らすには大きい気がしますね。
この国特有のレンガ造りの家、屋根に積もりに積もった雪、心細い家先のランプ、よく手入れされた庭に花を咲かせる低木がありました。
ピンクの花が小さくとも愛らしい。雪に、寒さに、負けず必死に頑張っている姿に心を打たれました。
「――コノエハコ、だな。寒帯、冷帯に見られる常緑低木で一年中白い花を咲かせる珍しい特徴を持っている。花の香りや形の可愛さから昔から根強い人気があって、この国ではわりかしスタンダードな庭木だぜ」
「……へぇ」
うーん、前半何を言っているのかさっぱり。
時々ディールスが別世界の言葉でも話している気がしてしまいます。学の差、ですね。悲しいですが。何せ私、まともに学校行ってませんし。
勉学は嫌いですが、少なくとも同い年の友人と過ごす掛け替えのない時間、”青春”には興味はあるんですけどね。仕方がありません。
そんな人生でも、家族と共に過ごした時間は幸せでしたから。
……あれ?目の前のコノエハコはピンクの花が小さく愛らしい。少なくとも白ではありません。
「ディールス、この花はピンクに見えますよ」
…………ん?
「んあ、それにはこの雪山よりも高ーく、ここからは見えない湖よりも深ーい理由が……」
「いえ、起きてらっしゃるのなら先に言ってください」
「……えへ、バレた?」
「これでバレてないと思われていることに驚きを隠せませんね」
驚き、というよりも呆れ。まぁ、流石に彼も本気で言っていないと思いますが。というか途中まで気が付かなかったことは黙っておきましょう。
「まぁまぁ、わざわざ狸寝入りして送ってもらった身だ。茶でも出すからあがれよ。歓迎、するぜ?」
皮肉な笑みを浮かべた彼は、鍵すらもかけていなかった家のドアノブを回し、奥へ消えていきました。
――まぁ、本当に食えない方。驚嘆を通り越して今度は怒りを覚えてました。
ここまで来たのです。癪に障る、……いえ、少々性格に難のある方ですが、何も得ず手ぶらで帰りたくないと思ってしまいました。
ため息をつきながら冷たいドアノブを回しました。




