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14 素月に照らされた空

長い悪夢を見ていた気がした。

働かない頭でぼんやりと思い出していたら、真っ先に目に入ったのは三つの月の一つ、黄色っぽい白の月だった。


「リディアさん!良かった、目が覚めたんですね……!」


あまりに大きな声だったので、驚いて完全に目が覚めた。


嬉しそうにこちらを覗き込む少年。まだ少し鼻をすすっていた。

しかし、身を挺した結果として、可愛らしい笑顔を見られたので良かった。


不思議だ。旅をしてからの方が守りたいものが増えてしまった。

いつかは皆、幸せにできるだろうか。私なんかが出来るだろうか。その幸せに私は居ないのだけれど、それが当然だ。


「随分と寝坊しましたね、もう夜ですよ」


その幸せには、実は貴方も入っていたりするのよ、ディールス。

私のせいで不幸になった神様。彼も自由にしてあげたいものだ、縛っている私が言えないが。


「何笑っているんですか、気持ち悪い」


「あの!リディアさんに失礼ですよ!大体アナタ、リディアさんに怪我させたじゃないですか!謝ってください!」


「はぁ……」


彼の正体を知らないからか、少年はぐいぐいと彼を責める。少年からしたら、ディールスは知らない人のはずだが、まるで家族に説教をしている場面みたいだ。


責められているはずのディールスは、少年を相手にせずリディアに対して報告し始めた。


「貴方の表面上の傷は完治しました。今回は重傷だったので、しばらく歩けない程の疲労感があると思います。あと飛んできた槍は消えたのですが、残った矢で彼の足枷を壊すことが出来ました」


「あの槍って、秩序の神のよね。何でここに飛んできたのかしら……」


「さぁ?彼に痛い思いをさせて外に行かせる気力を無くしたかったのでは?オルドルの性格は社会統制の横暴性を表していると思うんですよね、私」


すこぶると饒舌かつ毒舌なディールス。

彼の言うシャカイトウセイはいまいち分からないが、秩序は横暴なんかではなく、必要なものだと思う。

……神と議論する(負け試合)をするつもりは無いが。


「責めないんですか?貴方は私に傷つけられたのに」


いつもの無表情が少し訝しげに見える。責められたいのか?いや、その気持ちが何となく分かった。


 ――殺したい程の相手と旅をしている彼に責められた方が楽だと感じる私と同じだ。


「必要なことだったと思うし、何よりあなたには私に復讐する権利がある。あんなの、甘んじて受け入れるわ」


何より再び罪を、罪への向き合い方を、覚悟を、確認することが出来た。


それは極端に省略された彼の行動のおかげだろう。

一言言って欲しかったが、言われた所で私が反発しただろう。合理的だったと言わざるを得ない。


ディールスの反応は無かったが、彼は黙って教会の隅に移動し、本を開いた。彼は本を二冊所有しているらしく、あの夜以外はもう一冊の方を読んでいた。


その反応を見るに、彼の欲しい言葉ではなかったのだろう。


「あ、そうだ」


勢い良く立ち上がり、今度は置いてけぼりだった少年に向き合った。きょとんとした顔も本当に愛らしい。


「今日から君も旅に加わるんだし、名前。無いとちょっと呼びずらいかなって。だから、――キジェ。素月に照らされた空っていう意味なんだけど、どうかな?」


「やめた方が良いですね。大体、月は――」


「キジェ!すごく素敵ですね。ありがとうございます!」


「喜んでもらえてよかったわ」


二人で長くなりそうなディールスの小言を無視する。会ったばっかりなのに息ぴったりだ。


しかし、気に入ってもらえたようで本当に良かった。この短時間で必死に考えたかいがある。

キジェとの旅が楽しみになってきた。それと同時に私の正体を伝えることに億劫になってしまう。


 ――彼は知った後でも、同じように接してくれるだろうか。


そこはかとない不安を彼に知られないように押し殺す。

少年 ――キジェに手を差し伸べ、彼がその手を掴み、立ち上がる。その瞬間、体から力が抜けた。どっと疲れが押し寄せる。


「馬鹿みたいですね。先程の注意をすぐに忘れるなんて」


戻ってきたディールスの辛辣な一言が心に刺さり、思わず「うっ……」と声が漏れる。


なにせ二人して床に横たわって夜空を仰いでいたからだ。

よく考えたらキジェは長いこと、ここで座っていたのだ。立てるはずもない。本当にバカだ、私。


「夜ですし、今日はここで休みましょう。あぁ、渡そうと思っていたこれ、置いておきますね」


ディールスの呆れた声が耳に辛うじて届く。


彼は再びリディアに近づき、少女の隣に拙い花束と古びたオルゴール、――見覚えのあるエドワーズの私物を置いた。あの夜にでも持ち出したのだろうか。


起きたばかりなのに、すごく眠い。彼に申し訳なく思う気持ちが、眠気に負けてしまっている。

意識が遠のいていく。でも、それがとても心地よかった。

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