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105 二番、其の六

二十歳になった年、グラディアウレウスは仕事終わりに、日課のように頼まれた買い物を済ませていた。野菜や魚などの食材、生活日用品、それから、たまたま目に入った一輪の淡い桃色のバラを衝動買いした。


何てことのない日だが、彼はソルニーゲルの誕生日を知らないから、思い付きで日頃の感謝を伝えたくて、へそくりから出したお金で買った。少し季節が外れていたから、値段が高くなっていて、貯め始めだったへそくりはほとんど吹っ飛んだのは秘密だ。


しかし、バラを買ったのにはもう一つ理由がある。


ソルニーゲルかもしれないナニカが、予想だにしなかったサプライズで本性を出さないかと、決定的な偽物の証拠を出さないかと淡い期待を抱いていた。そんなことで分かったら、十四年の間に既に化けの皮を剝がしていたはずなのに。


会計を済ませた花屋を出ると、店先で一人の男と目が合った。


まず始めに金髪と生気のない暗い桃色の瞳が目に入った。目の下の濃いクマは大分濃く、かなり痩せこけた長身の細身だが、決して今日のご飯に困っているような身なりには見えなかった。


彼とは初めて出会った。なのに、外見も目を引くものだったが、なぜか彼の瞳から目が離せなかった。

性格や容姿ではなく、まるで彼の本質のようなものに自然と惹かれていた。感覚としては、生物が息をすることや生き延びるために狩りをすることに近い気がする。気が付けば、まるで生物として当然の事象のように彼に焦がれていた。


「えっと、こんにちは。アナタも花を?」


「…………どもー」


……マズイ、渋々声を返された感じだ。話し掛けられたくなかったかな?だとしたら、申し訳ないことをした。気まずさで声を掛けたのはこちらなのだから。


会話が続くはずもなく、早足で速く立ち去ろうと店に背を向けると、


「ン。それ、譲ってもらえません?」


意外にも、向こうが声を掛けてきた。指された指の先には、ついさっき買ったばかりの新鮮なバラが一輪。

可憐だが、華美過ぎず。淡いが薄過ぎず。……あぁ、目の前の彼の瞳と同じ桃色のそれが、風に吹かれて首がもたげてしまいそうだ。


うーん、初対面の相手に、なかなか図太いお願いだ。


……でも、素直に譲らなかったら、ただじゃ済まない気がする。殺してでも、奪われそうな気がする。

そう、直感が働いている。


とはいえ、別にこのバラに並々ならぬこだわりがある訳ではないし、今さら気恥ずかしさを覚えてきた所だから、逆にちょうど良いとさえ感じてしまった。


「構いませんが、どうなされるのですか?個人的にちょっと興味がありまして」


「姉さんにあげたいんです」


「そうですか、それは素敵ですね。どうぞ。お姉さまもきっと喜ばれますよ」


「はぁ」


何をしていても何処か気だるげそうな彼は、バラを受け取ると、暗くなった空に掲げ、ほんのりと初めて口角を上げたように見えた。


余程お姉さんが好きで、大切な家族なのだろう。家族仲も良好で、きっと仲睦まじいはずだ。こんなにも想ってもらえるなんて、そのお姉さんは幸せ者だなぁ。


「ン。あー、昔、姉さんと一つだけ約束してもらったんです。貰った物や恩はきちんと返せー、って。だから、はい」


そう言った彼が投げてきたものを、必死に両手で受け取る。危なかった。下手をすれば、落としていた。

彼が投げてきたもの、それは黒光りする鉄の塊だった。いや、鉄の塊にしては随分と軽い。


それに、見た目が何処か火縄銃に似ている。しかし、火縄銃はもっと重く、太く、長い。

対して、手の上のこれは比較的軽く、細く、短い。非常に高い技術力で精巧に作られたものであることが分かる。……流行のインテリア、でしょうか?


「自作したものです。何もかも信じられなくなったら使うと良いですよ。自分の頭に当てて引き金を引くだけ。それで全てが終わります」


……まるで麻薬のような言い方に戸惑いを隠せない。それに、花一輪のお返しにこんなにも高価そうなものは受け取れない。


「じゃ」


「……え?ちょ、あ、あの!」


彼から受け取ったものから目を離すと、その姿は何処にも見当たらなかった。

この至近距離だ。走って行ったなら、後ろ姿が見えるはずだ。なのに、彼は音も、影も、匂いも、何も残さず、風のように既に居なくなってしまっていた。


困った。返しようがない。それに、結局手の上の鉄の塊の正体を教えてもらえなかった。


でも、何もかも信じられなくなった時に使うと良い?


 ――それって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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