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101 二番、其の二

すぐに彼女は赤子を連れて宮殿に返し、元々王子に与えるはずだった名前を付けて世話を命じた。息を吹き返した第一皇子として。


メイドも、執事も、皇帝でさえ、それが嘘であると分かっていた。確かに皇子は死んでいたのを確認したし、王妃が昨夜の数時間行方知れずになったことも報告されている。それでも、名ばかりの女と、居ても居なくてももはや変わらないからと、放っておいていたのだ。


むしろ、今の状況の方があまりにも都合が良過ぎた。だから、誰もが皇后の嘘に付き合うことにした。


その赤子、ヴィーレス・グローリア・アウルム・クラネージュという大層過ぎる名前になった男児は緑の瞳に、ホワイトブロンドの髪がうっすらと生えていた。

皇族が持ちあわせる、神獣から力を譲り受けた証の金色の髪色と桃色の瞳ではなかったが、幸いにも瞳や髪の色は皇后と少しだけ似ていたので些事だと判断された。


結果から言えば、彼が両親の身分を理解する前に、両親の名前を呼ぶ前に、自分の脚で立ち上がる前に。……彼が皇后に拾われた三日後、民衆にお披露目された当日の夜に国は滅亡した。その原因は彼のせいだ。


先程述べた通り、ヴィーレスの容姿を皇帝は些細な問題であると解釈した。だから、髪の色も変えず、目も隠さずに民衆の前に姿を現させた。しかし、民衆からすると、そうではなかった。


まず、民衆は皇后の不貞を疑い、実際日夜その噂が絶えなかった。だが、次第に民衆はより最悪で、より邪悪な想像へと膨らんでいった。


 ——この国の皇族は、神の加護が無くなったのではないか?、と。


その国の大半の人間は鉱夫で、安い給料で命の危険がある仕事をしなければならず、採掘した金を安く買い叩いた上で加工して販売する貴族が私腹を肥やす格差社会。多くの不満はあれど、金脈を探し当てて一発逆転の生活を夢見ていた鉱夫達の間では、革命よりも先に鉱脈探索の方が優先順位が上だった。大層な大義よりも、日々の生活を今すぐどうにかしたかった。


元から不安定な盤の上の国だったのだ。それを、ついぞ崩落させる存在が現れてしまった。


 加護を失った皇族に価値はない。我々ともはや何も違わない。随分と威張り腐ってくれたものだ。もう従う道理もなし。


強く思い込んだ民衆は、革命を始めた。思い込みは強固で、酷く歪んで、悪質だった。ヴィーレスをお披露目した二日後には、帝王と皇后が公開処刑された。いや、正確には公開処刑のはずだった。断頭台に押し寄せた人々により、彼らは殴殺された。惨い死体となった後は、誰も近寄ろうとしなかった。


それでも、民衆は残る皇族を見つけ出すことに躍起になり、そのせいで多くの犠牲が出た。ディディ狩りの如く、容疑者は片っ端から殺された。一日の間に何人が亡くなったことか。


親が死んだ。子が死んだ。隣人が死んだ。知り合いが死んだ。知らない人も、たくさん死んだ。

倒れた焚火から火の手が広がり、誰かが生きたまま焼けていた。潰された死体から流れた血が川の色を変えた。互いを疑った人達が相打ちの形で命を落とした。


この世に地獄があるのならば、それは間違いなくここだった。醜く、汚く、醜悪で、……見るに堪えなかったのだろう。


 混沌とした国の中心に、一羽の不死鳥が現れた。


純金で出来たような黄金の羽と桃色の瞳を持った、神々しい大鳥。確かにクラネージュ帝国の皇族が受け継いだ加護の特徴や建国の伝説と同一の特徴を持った鳥だった。


民衆は愚かにも、この国の加護は既に失われど、寵愛は今だ健在だと確信した。

何より、神がこの惨劇を止めてくださることに、皆感謝していた。


その鳥(カダチ)は、見るに堪えない光景に呆れ果てた、あの方から生を受けた三番目の神、時間を司るライカス様の指示でここに終末を告げに来たとは、国民は思いもしなかっただろう。


ライカス様が動いた。今まで長きに渡って沈黙を貫いていた彼が、それを破る程、その国に失望してしまった。

だから、彼は。不死鳥の言葉を聞いて、一人も国外へ逃亡させないように。素早く決着を付けた。罪を清算した。圧倒的な神秘の力によって。


他の神を従えていたが、彼はほとんど自力で、——()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


その日から月は三つになった。()()()()()()()()()()()()()()()

黄色っぽい白の月、赤銅色の月、フタロブルーの月。それから、一番大きな真っ白な月が宙に浮いていた。


残っていた国民の全てが、月のほんの一欠片の重みに耐えきれず、潰れて死んだ。


 ――こうして、砂漠の黄金郷は滅んだ。ヴィーレスというたった一人の赤子が現れたせいで、たった三日で千年の歴史が姿を消した。

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