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98 『面影の鏡』、其の七

「ふふ。いや、アンタならそう言うと信じていたけど、そんな言い方をするのかと思ってね」


私の答えを聞いて、『魔術師』は心底満足そうにそう言いました。嬉しそう、誇らしげ、そんな感じの朗らかな笑みが眩しかった。


何処か、心がスッと軽くなる音がしました。フウリンの音のような、スズの音のような。


「残念だったね、『騎士』。彼女はずっと強かったようだ」


「いえ、全く」


興味ないように、彼の目が再び伏せられました。揺れた髪にヒデナイトが見え隠れしてしまう。


ものすごく目立つ宝石という訳ではないのに、傍観を貫きながらも、意志の堅そうな目。

まるで静かに世界を見渡しているような瞳。それなのに、世界を見渡せるのに、見ているのはたった一人なのですね。


……別に、私は宝石がすごく好きという訳はありません。ただ、身近で話を聞かされていただけ。

私的には、本物でも、偽物でも、希少価値が高くても、低くても、輝いたものが美しいと感じる性分ですから。ダイヤの原石よりも、磨いたガラス玉の方が好ましく思います。


それでも、今まで濁って汚い瞳の宝石を持つ方には出会ったことがありません。


あの一番でも、綺麗なイエロージルコンの瞳でした。あの方と全く同じ宝石。その輝きは、私が生まれてきて最も美しいものだったと断言出来る程。


「アンタの問いの答えを言うと」


『魔術師』の言葉が思考を遮る。そのことが不快という訳ではなく、私はただ耳を傾けました。

彼女の言葉はきっと、経験が詰まった貴重なものだと分かっていたから。


「ワタシの持論だが、生まれること自体に罪はない。生まれるとは、当然だが新生であり、言葉通り生まれて初めてその子はこの世で行動を起こせるのだから。大犯罪者の子供だろうと、生まれてくる子に親の罪を被せるもんじゃない。血は繋がっていようと、子は子で、親は親。罪は代々償うものにあらず、個人が背負うものだ。生まれた瞬間に残酷な運命が決まっているのはあんまりだ。少し違うが、それこそ、かつて一度この地に訪れた有名な女優の夫の悲劇を思い出すねぇ」


過剰に反応してしまったのは、仕方がなかったと思います。カップが割れなくて本当に良かった。

それよりも、続きが気になってしまった。彼女の目には、彼女のタンザナイトには、母、……いえ、父はどう映っていたのか。


「舞台で多くを化かしてきた魔性の女はルジャダに生まれたが、同じ場所に留まるのが我慢ならず、世界へ飛び出していった。彼はそんな彼女に心惹かれ、愛し合い、子供も生まれたが、その幸せの土台はやはり女優だった。彼女が居なくなり、家族はしばらくしないで崩壊した。罪ではないが、彼に至っては、そうなることが確定した運命だった。そういう変えられない星の巡りだった。女優と出会うことが、一目で恋に落ちることが、愛し合うことが、依存することが、そして先に逝かれることが。夫の方に会った瞬間に漠然とそんな未来が見えたのを、よく覚えている。あそこまできつく結ばれた赤紐の結び目みたいな未来を見たことがなかったから。あぁ、その女優の名前は確か――」


「お菓子、おかわりいただいても良いっすか?あと話、脱線し過ぎですよ」


「……あぁ、構わないよ。話が逸れた。まぁ、間違っても、もう生まれることを悔やんじゃダメだよ」


……運命、星の巡り。彼女には、父の依存や執着はそう映ったのですね。


素敵じゃないですか。運命の出会い、定められた愛。両親がそうだったなんて。そうあれたのなら、ロマンティックで。そういう出会いを求めるから、少女たちはロマンス文学の児童文庫本を強く握りしめ、自分だけの白馬の王子様を待つのですから。


だから、そんな大切な運命の相手を亡くしたから、悲しくて悲しくて、どうだって良い実の娘を捨てたのですね?


私には、確かにあなたの運命の相手の血が半分流れているのに。顔や体だって、断然母親に似たのに。


仕方がなかったですね、どうしようもなかったですね、しょうがなかったですね、手の尽くしようがなかったですね。

だって、運命の相手が見るも無残な死に方で、目の前でその命の灯を消したのですから。あなたも、私も、あの時何も出来なかったのですから。


 ――な訳あるか。


運命の相手との子供?なら、私も運命ってことになりませんか?別に運命が一つだって決まっていませんし。


人が安全に生まれる確率は低く、生まれた後も様々なリスクがあって、”私”が生まれる確率はさらに低いそうです。

そういう低い確率を全部引き当てて、”私”はあなた達の元へ生まれました。多分、望んで生まれたと思います。所業とか、そういうのは無視して、あなた達の元に生まれて良かったと思っています。少なくとも、三人の旅はものすごく楽しかったです。


あの頃に戻れなくても、私はあなたにもう一度会いたいと思っています、お父さん。


運命なんかで、家族を選ばないでください。運命の糸が切れただけで、家族を捨てないでください。


私は、あの時。お母さんが死んだ後も、確かにあなたを愛していました。

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