1 舞台の上で偽物を演じる
遥か昔、彼女が目を醒ましました。
彼女は、神々を、宇宙を、惑星を、星々を、水を、生き物を、そして人間を創りました。
慈愛に満ちた彼女はその全てを愛し、その全てに愛されました。
その後、神々は彼女に名前の贈り物をしたのです。
――彼女の名前はアイシェル。
「不滅」の名を戴く彼女は、この世で最も尊く、最も愛されている創世にして予言の神です。
――世界創世記 第一章より
* * *
灯りが当たり、まぶしさに微かに目が眩む。
ここでだけは自分と自分の感情を忘れようと、深く、深く呼吸を、する。
大丈夫。刺繍入りの僅かに紫がかった白いドレスに鉄製の胸当て、大粒の宝石が埋め込まれたネックレス、細身の銀色の剣、踵の高いヒール、長い純白の髪、流石に瞳の色までは変えられなかったけど、今の私は紛れもなく、あの方だ。
今だけは全ての光と視線は私だけのもの。
誰にも目を背けさせない。誰も、私以外を見させない。見させてたまるか!
「――我が名はアイシェル。全てを創り、全てを愛する創世の神。ディディである貴様がこの世界に仇なすのなら、私はこのツルギをもって正義を遂行しよう!」
この劇最大の見せ場を完璧にこなした。
拍手を受け、ゆっくりと剣を鞘から抜くと月の光か、はたまたランプに照らされたのか、刃が銀色に鈍く光り、剣の重みに僅かに緊張がほぐれる。
ようやく戻った視界に観客席が映る。小さい村の、小さい教会近くの、小さい野外の仮設舞台で行われる小さい贈名祭だが、例年に比べて人が多い。
毎年見に来てくれる八百屋の老夫婦、家族で来たであろう目を輝かせるリボンの髪飾りの少女、木こりのたくましい壮年の男性、珍しい貴族のような姿の男性。
――そして、私を見て優しく微笑む目につく黒髪の青年。……来てくれたんだ、……そう。
何処からか力が湧いてくる。今だったら、どんなものにも勝てる気がする。
あの黒瞳に見つめられただけで何でも出来る気がしてしまう!思わず不敵に微笑む。
あの瞳がこの先ずっと、私だけを見つめ続けて欲しい。
一歩を力強く踏み出し、少女は見事な剣舞を披露する。
観客が息を忘れるほどの、相手の演者が反撃できないほどの、その全員の意識を呑み込むかと錯覚するほどの、圧倒的で我儘な剣舞。
鈍い金属の交わる音とヒールで地を踏みしめる音が辺りに響く。そんなことは、どうでも良い。
――ただ、今を楽しみたい。