クリスタル・ロード 0090 未知の力を
水たまりの中で足が溶けていく。
目がかすんで敵がぼやけて見えなくなっていき、手足から力が抜ける。
剣が手から滑り落ちる。
もう反撃のしようが無いのか。
そう思った瞬間、辺りが明るくなった。
何の光か、眩しいぐらいに通路を照らし動いている。
小さな光が後ろから飛んで敵へ向かっていくが、あれは何だ?
一つではない、連なって渦を巻くように飛んでいき、敵が反応した。
また黒い液を撒くが光はよけながら向かう。
そして光の筋は3つに分かれて敵を囲み飛び回った。
光はよく見ると鳥の群れだ。
光る鳥が数十羽?数百羽?が飛んでいるが、あれはどこから来た?
敵は慌てているのか、急いで液を四方にばらまくがどれも当たっていない。
鳥たちは囲みを徐々に狭め体近くを高速で飛び、敵は光の塊のようになった。
その光は熱を発し始め、どんどん高温になっていきここまで熱が伝わる。
熱い、周りの黒い水たまりが湯気を上げ始め敵の体は煙を出し、火が点いた。
叫び声が聞こえる。
フードの敵が初めて発した声だ、あれも人間だったようだ。
敵は逃げようと叫びながら暴れ手を振り回すが、鳥は離れずますます発熱し囲み高温の炎の塊となって崩れていった。
光る灰が飛び散り舞い上がる。
眩しくてもう目を開けていられない。
そして気が遠くなっていった。
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目が覚めると敵は消えていた。
敵のいた辺りは床が焦げて白い灰が少し有るだけだ。
黒い水たまりも消えていて、少しあとが残っている程度でよく見ないと気付かない。
溶けたはずの体が元に戻っているのに驚いた。
あれは幻だったのかと思ったが、吐いた血の跡が服に少し残っているし服はぼろぼろだ。
フレアが回復してくれたかと思ったが、まだ気を失っているようでグロフが様子を見ていて、少ししてフレア達が目覚めレフは頭を振りながら立ち上がった。
まだ体に痛みが残っている。
「あ痛痛」
レフが足を抑えて顔をしかめる、皆ケガは無いが痛そうな顔だ。
「あいつは一体何だったんだ?」
「あの光だって、何なのまったく!」
「まったくだ、訳が分からないが助かったようだな?」
あいつは例の信徒だとは思うが、それを言って良いのだろうか?
領主に秘密と言われたはずだよ・・・な。
ここは黙っているべきか。
「荷物を狙ったんですかね、自分達が一番成果上げてるから」
「そうか、なるほど盗賊か? しかし一人とは大胆だな、強かったがな」
「それに一人じゃ大して運べないですよね?」
フレアも回復して起き上がっているし、皆もう大丈夫だろう。
「でも、誰が回復してくれたの? フレアじゃないよね?」
「え? 違いますよ!」
そうだ、誰が回復をしたのか?
すると、あの杖が目に留まった。
ゴーレムの上に置いたままで忘れていた杖が、存在感を放っている。
誇らしげに鈍く光っている。
そうか、杖の上の鳥の飾りといい、あれは鳥の力を有した魔法か。
相当の力を持っているとは思ったが、あれほどとは。
それに誰も使っていないのに発動したのは、自らの意志で動くからだろう。
杖を手に取ると、皆が見つめている。
「もしかして、それですか?」
「そうらしいです」
杖から力が伝わってくる・・・神聖な力が体に流れ込んでくるようだ。
これは回復も出来るのか、それも凄い能力らしい。
「自ら発動するとは、伝説級のアイテムじゃないのか?」
グロフ達が茫然としてつぶやく。
「あいつ、もしやそれを狙ったんじゃないか?」
「それなら、これが有るのをわかっていたのか? どうやって?」
「ここは発掘されたばかりだしな・・・」
「そうだよね~ 、わけわからないよ、まったく」
確かに、どうやってここの事を知ったのか?
ここへ入るときは、一人だったのか? 顔を見られずに入れたのだろうか?
まさか街の人なのか?
しかしあいつは消えてしまったし、最後まで顔が見えなかった。
死体さえ残らないのは少し困ったな、これでは手がかりが無い。
敵のいたあたりを見るがナイフ一本さえ残っていない。
あいつは金属の物を持っていなかったのか、全て燃えてしまった。
「さて、これからどうする?」
「進むべきか、戻るべきか・・だな?」
「おなかすいた~ とりあえずご飯にしようよ!」
「そうですね、くすくす」
あいつの事で追及しないのは助かるな、 うん。




