クリスタル・ロード 0089 黒いフードの相手
「誰だ?」
「一人? はぐれたのかしら?」
「おい、どうした、仲間はいないのか?」
声をかけたがその相手は返事も動きもしない。
だが嫌な気配を漂わせている、仲間を殺られたのだろうか?
グロフがゴーレムを止めた。
「皆、武器を構えろ! こいつは・・・」
そこまで言ったところでレフが剣を抜いた。
他の3人と自分も武器を構える、こいつは冒険者仲間ではない・・気配が違う。
戦士とも違う、歪んだ殺意の塊のようだ。
それにこの服装には見覚えがある。
これは、あの妙な宗教の信徒と似ている・・・あいつ等とは気配が違うが。
「おい、お前は何だ!? 何か用か?」
レフが聞いても何も言わず、ゆっくりと近づいてきた。
顔も手も衣で覆われて、暗く、見えない。
黒い服で凹凸さえよく見えない不気味な相手だ。
そいつが両手を軽く振ると、床に黒い液体が何か所も飛んだ。
何かを撒いたのか? 薄く煙が広がって行く。
「何だ?」
そいつがまた袖を振って、今度は天井やこちらの近くまで飛んできた。
嫌な匂いが広がって行く。
「毒か? 皆、吸うなよ!」
慌てて口を塞ぐが、毒とも違う気がする・・・これは?
天井から滴った黒い液が床に落ちると煙を出しながら、床を溶かしているようで床が小さく泡を立ててふつふつと音を立てる。
ゴーレムの体にも垂れてきて、それを溶かし始め濡れたススのようになっていく。
「野郎!」
レフが剣を構えて向かうと、また袖を振るった。
あんなものを浴びたらどうなるか?
れふの足元に液が撒かれ床が溶ける! しかしそれを避けながら飛び込んで行き剣を振るった。
しかし体を軽く揺らした程度で刃を避け、腕を振ると剣や体に液がかかり煙を上げながら溶けだした。
服も溶け、その下の体も・・。
「ぐおっ!」
レフが体を抑えて叫び、グロフが槍を構えて敵へと飛び込み突き出すと踊るように避けながらまた液を撒く。
グロフは液を巧みに避けながら槍を繰り出すが、当たったように見えても躱している。
そのうちグロフの足元に黒い液があちこちに水たまりのようになっていて、足場が減っていく。
これはまずい、自分も剣を抜き構え、ジョーイは弓で狙うがグロフに当たりそうだ。
フレアは強化の詠唱を始めたが、その時天井から液が垂れてフレアの杖にかかった。
そして杖が溶けていく。
驚いて詠唱が止まってしまう。
そしてグロフの足元はいよいよ危うくなり、黒い水たまりに足が入ると煙を上げて靴が溶け始めた。
「ぐっ」と顔をしかめながら槍を繰り出すが、やはり当たらない。
ジョーイがついに矢を放つが何本も躱されてしまう。
そのうち液が飛ばされてジョーイの弓と腕にかかり、両方が溶け始めた。
叫び声が聞こえる。
その時には自分も剣を抜いて飛び出したが、勝算は無いと感じた。
まるで切れる感じがしない。
しかし見ているわけにはいかないからだ。
足元には黒い水たまりで歩けるところが減っていく。
構わずに進むしかないが、何歩行けるだろうか?
黒い水がはねて靴が溶けていく。
しかし飛び込んで剣を突き出すが躱されて服に当たる程度で手ごたえが無い。
何度剣を振っても、当たったはずでも切れていない。
敵には体が無いのか? 幽霊を相手にしているかのようだ。
そう思った瞬間、腕や体に液が掛けられた。
煙を上げながら音を立てて体が溶けていき、焼けるような痛みが広がり強まる。
それでも剣を振るうがやはり当たらない。
レフやグロフも痛みに耐えて斬りかかるが、躱され3人がかりでも一太刀も当たらず
皆の体が溶けていく。
最後の攻撃をと飛び込むがその時、自分の口と胸から黒い血が噴き出した。
胸に穴が開き、ごぼごぼと泡を立てている。
目がかすんできて痛みで体が動かなくなっていく。
呼吸ができなくなり、苦しい。
敵の動きが止まっている、その姿がぼやけていく。
5人がかりでもかなわないのか? こいつは何だ?
これほどの相手は初めてだ。
これで終わりなのか?
黒い水たまりに膝をつくと煙が上がり溶けていく。




