クリスタル・ロード 0070 見覚えのある人物が
目の前のテーブルにはこの街の地図が広げられている。
領主の会議室に呼ばれ、ムーアささんと自分が座り説明を受けている。
地図には失踪者の家の位置が示されていた。
今のところ、7か所か。
「この配置から何かわかるだろうか?」
領主が聞く、 これは呪術に関してだろうから自分は黙って聞いている。
「これだけでは・・・ 街全体に広がっているので規模の大きな儀式って事しか」
「どんな儀式かまでは、わからないかな?」
「それは・・人柱を使っているのでかなり悪辣で、強い呪術だろうかと・・・」
「それはそうだろね、しかもまだ発動してないからまだ何人もの犠牲が出るな」
領主は頭に手を当てて、渋い顔をする。
「呪術に使われた図は、これだ」
現場に貼られていたあの図が、数十枚広げられ、その配置図も別にある。
「これは・・私の知っている呪術体系と違うので・・・ 意味が不明で・・」
「そうか・・ 今のところこの街にいる呪術師がキミだけでね、少しだけでも」
「う~~ん、 この図、一部なら・・ これが空間の意味?、こっちは地中か地獄?
これは悪魔?、それとも死神かな?、呼び出そうとしているかな?」
「悪魔か死神? そんなものを召還しようとしているのかな」
「召還なのか、もしかすると自分がなろうとしているかも・・」
なろうとしている? 人間が? そんな事が可能なのか?
「妙な宗教のようとは思ったが、中身もかなり奇妙なようだね~」
本当に、そんな宗教など聞いたことが無い。
「私ではそれ以上の事はわからなくて・・・・」
ムーアさんが遠慮がちにそう言ったとき、ドアがノックされ執事さんが来た。
「お招きした方がご到着いたしました」
招いた? 誰だろう?
「あ~ 、来たか! 良かった、早かったね~」
領主がずいぶん嬉しそうだが、どんな人だろうか?
執事さんが連れて来たその人には見覚えがあった。
隣街で会ったあのお婆さん、ムーアさんの師匠との、その人だ。
師匠さんの元から逃げたとか、徒弟制度がどうとかで会いたくない相手が来たようだが、当然領主はそんなことを知る由もない。
「げっ」
ムーアさんがそう言って固まり、相手は睨みつけている。
「おや、見覚えのある娘がいるね、意外な場所で出会うことになるとは」
「んん? 知り合いだったかな?」
領主はそんなことを言っているので、二人が見つめ合っている間自分から領主に説明をしておくことになった。
=====================
一通りの説明が終わり、領主は納得をしてくれた。
「なるほど、二人は師弟関係だったか、色々確執あるようだけど私に免じて今は抑えてもらえるかな? この街の為に協力してほしいんだ」
領主は笑顔で言い、睨みつけていたお婆さんが落ち着いたようだ。
「不詳の弟子の事で、お恥ずかしいです」
お婆さんの名は、マギア・グラナダ、 有名な呪術師とのことだ。
ムーアさんが嫌な顔をしているが、逃げる気はないようで渋々座っている。
隣には師匠が陣取って、逃がす気はないらしいけど。
「ギルドを通して呪術師を探していたんだけど、師匠さんだったとはね、でも二人になったからこれで進展を期待するよ、よろしく頼む」
そして今までの話について、説明をすると呆れたように溜息をついた。
「やれやれだね、私の所で何を学んでいたんだか・・その程度かい?」
「・・・・・・・・・・・・」
ムーアさんはむくれたようにうつむいていて、何か言いたげに上目遣いだ。
「見たままじゃなくて、応用を効かせろとさんざん言ったろう? ん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「この図形を見て、悪魔や死神を呼び出そうとしていると思ったかい?」
「自分らがなろうとしてるって? はあ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「幼い時からさんざん教えてるのにその程度とは、全くあんたは覚えが悪いね」
「・・・・・・・・・ だって、向いてないし・・」
むくれたように、やっと口を開いた。
「甘えんじゃないよ!!、 習う以上は向いてないで済むかい!」
いきなり怒鳴ってテーブルを叩く。
「まあまあ、お師匠さん落ち着いて! 向き不向きだってあるだろうし、協力してやってもらえば気付くこともあるだろうから」
「そうですよ、呪術以外の事を色々調べているようですし、今まで役に立ってくれているんですから」
自分からも何とか、かばいだてしておこう。
「そうかい? まあ、領主様とあんたから言われたんじゃしょうがないね、ここは収めておこうか、 二人に感謝するんだよ」
「はい・・・・」
仏頂面ながらそう言った。
そして師匠さんが言うには、この図形は悪魔などを呼び出すのではなく、悪魔のような魔物を造ろうとしていると、そしてそのためには街の人々を材料にするだろうとのことだった。
彼らの目的は自分たちが悪魔になることではなく、使役するためだろうと言った。
「まだ想像の範疇だけどね、この図形から読めるのはそういう事だよ」
領主も自分もポカーンとする他ない話だった。




