クリスタル・ロード 0057 情報集めと冒険者稼業
「特別な仕事・・・ですか」
冗談なのか本気なのか、領主様がそんなことを言い出すとは?
「私は本気だよ、衛士候補の試験で候補生トップをあっさり負かしたそうだし、それが見た事もない技だっただの、狼の群れを一人で屠っただとか聞かされりゃ、使わなきゃもったいないと思うよ」
「恐れ入ります」
父さんが代わりに答える、地味に得意げだ。
「君はまだ子供だから警戒されにくいだろ、冒険者としてもこれからだし、他の仕事をしながらで構わないんだ、もちろん給与を払うし」
「それで、具体的には何をすれば?」
「情報集め!」
ここで領主は言葉を切って、こちらをじっと見る。
「情報、何についてですか?」
「あの狼についての事をお父さんから聞いてると思うけど・・・」
彼がちらりと見ると、父さんは黙って頷いている。
「あれは人が介在している、その前の魔物の群れも、たぶんだが、 ね」
魔物は統率されたような動きと言っていたか?
「誰が、どこで行っているかですか?」
「犯人を捕まえろ、とは言わないよ、 噂や不審人物、不審な物、等の調査でね、報告は父君を通してくれればいい、君がここへ来る必要は無いからね」
それはそうだ、出入りしてるとばれるからな。
「自分にどれほどできるか、わかりませんが・・」
「では引き受けてくれるね、助かるよ、優秀な人材は貴重だからね~」
おだてられてる分、役に立てるといいが。
「話はこれで終わりだけど、帰る前に少し手合わせ頼むよ!」
「また近習に小言を食らいますよ」 父さんが窘めるが、また?
「いいんだよ、たまには体を動かしたい、 さあさあ、これを持って!」
細身の剣を渡されるが、刃が鈍いので練習用だろう、金属製だが。
部屋が広いのでスペースは十分あり、すぐに打ちかかって来る。
軽く打ち合うが、力量は十分ある人と、すぐにわかった。
「本気出していいよー、 私も剣術は得意だからね、負けないよ」
そう言われてもな、間違っても恥をかかせるわけには・・・。
しかし少し打ち合うだけで済んだ。
「また・やってますな~!!」
ドアを勢い良く開けて、執事らしき人が飛び込んできたので、自分たちは領主様を尻目に早々に退散してきた。
父さんによると、あの方は執務が煮詰まると剣を振り回したがるのだそうだ。
温厚そうな割には戦場を駆けたいタイプなのか?
平和そうな町でも領主の仕事は大変なのだろうか。
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帰るとすぐに馬車の補強に取り掛かる。
車輪や車軸も最上の物で、荷台は魔物の皮と金属、屋根を付け革張りにし骨組みももちろん強化、魔物相手にも耐えうるようにするつもりだ。
ドラゴンなど大物相手とはいかないが。
畑の脇で作業していると4人組が見に来る。
「何々、これ自分の馬車?」
「ずいぶん金かけてるんじゃないか? 車輪なんて軍用だろ?」
「しかも屋根付きですか、これなら寝られますね」
「小さめだが、丈夫そうだな、 これは良い物になるぞ」
皆、気に入ってくれたようで良かった、今までの金をつぎ込んだ甲斐がある。
「これがあれば冒険者としての依頼もこなしやすいし、協力してくれますよね?」
「おお、もちろんだ、任せろ」
「父さんの許可を取ったし、もう冒険者に復帰できますよ」
「「やった!」」
「でも畑仕事も悪くないよね、ギルドでいい仕事が無い時なんて」
「確かに、 安定収入になるからな」
やはり生活の為にはそちらもある方がいいのか?
「できれば、こっちの仕事も続けたいよね、 臨時程度でも」
「たぶん大丈夫ですよ、手伝いは必要だし」
などと話していたら、ムーアさんもやって来た。
一人畑仕事に慣れてないのか、腰が痛そうに押さえている。
「あ痛たた、何してんの? 修理?」
「じゃなくて、馬車の装甲化! 軍用顔負けの、な」
「へ~、 やるじゃない、冒険者稼業の為?」
「それで前に買った爆弾やら、煙幕弾やらをまた欲しいんですけど」
「毎度~、どんどん売るよ~、 えへへへ ♪」
「それで、造るのを手伝いますか? なるべく多く欲しいんで」
「あ、それ助かる、最近売れてるから造るのが追いつかなくて!」
「俺達も手伝うか?」
「え、良いの? きゃ~っ」
「その分安く売ってくれ」
などと言いながら、冒険者としての準備が進んで行く。
「でも、皆さんしばらく休んでて腕がなまってませんか?」
「「「ぎくっ」」」
あ、まずい事聞いたかな? でも今の声は3人分だったような?
「自分は毎日訓練してるからな、問題ないぞ!」
グロフは引き締まった顔で言う、さすがは実質のリーダーだ。
「私は、そこそこ練習してますからね、なまるほどでは・・」
「わたしも~、 まあまあかな? カンが戻れば」
「だ、大丈夫だ、直ぐ・取り戻せる、うん!」 この人が一番やばそうだな。
ポーションも用意しなきゃ、魔石は?、どの辺に行くか、依頼を受けるか、魔物狙いかなど色々話しながら盛り上がっていく。
その日は夜遅くまで各々の武器、道具の手入れや訓練で慌ただしくなった。
ついでにフレアに魔法の手ほどきを受ける、まだ初歩ではあるが。
情報集めの仕事は秘密である、これは一人でやらねばならない。
知っているのは当面父さんだけだ。




