クリスタル・ロード 0053 忙しくなりそうな・・・
剣を鞘へと納めて体の力を抜くと、全身から湯気が上がっていくような気がする。
向こうの武技をこちらで使ったのは初めてか。
子供の体でもなんとかなったようだ。
相手はまだ茫然としているか、折れた剣を見て突っ立っている。
周りでは、ほお~っ と感心して見ているだけで声になっていない。
審判の主査? が相手の方を叩いた。
「おい、大丈夫か? 気を確かにな」
そう言われてようやく正気に戻ったようで、ハッとしている。
「こ、このやろ、 俺の剣を!」
振り向いたかと思うと、詰め寄って来た。
「てめ、弁償しろ! いくらしたと思ってんだ?! 安物と違うんだぞバカヤロ」
周りから失笑が漏れる、が、本人はそれどころでないらしい。
「おいおい、レックス、やめろ!」
審判から腕で止められるが、意に介さずに迫って来る。
「これを買うのに3年だぞ、3年かかってるんだぞ、すぐ弁償しろ!」
勝負よりそっちの方が気になるのか、こいつは?
「よせ、折れたのはお前が未熟なせいだ、 それにお前の負けだぞ、負け!」
「? 負け? 俺が?」
「お前だよ、お前の、負・け!」
「??? ちょっと待て、3本勝負・だよな?」
「あのな、お前、剣が折れただろ? 素手で戦う気か?」
「え?」
「剣が折れたら終わりだよ、当たり前だろうが!」
「・・・・・・・・」
ポカーンとして微動もしてないな。
「ちょ、ちょっと待て、ちょっと、剣なら借りるさ、誰かから、おい誰か・・」
「馬鹿だな、お前戦場で剣を借りる気か? 敵が待ってくれるか?」
また失笑が漏れるが、めげていないようだ。
「待て、剣を奪うか拾うかだってできるだろ、まだ負けてないぞ、まだだぞ、おい、逃げるんじゃないぞ、まだだからな!」
こちらに言って来るが、なんて往生際が悪い奴だ。
「もういい!、やめろ見苦しい、 すみません後の事お願いします」
そう上司らしき年嵩の人に告げて、襟首を掴み引きずって行った。
「やれやれ・だな」と、言われた人が近寄ってきて、溜息をついた。
「お粗末な所を見せたな、すまん、あれでも候補生のトップなんだが」
「いえいえ、 どうですか、うちの息子は?」
父さんはずいぶん機嫌良さそうだ、謙虚なようで鼻高々かな?
「ああ、まだ子供なのに大したもんだ、 あの技は君が教えたのかね?」
「私は基本を教えましたが、あれは本人が考えて・・」
父さんはちらりとこちらを見て話す、話を合わせろと言う事かな?
「ほお、自分でか? 信じられんな、本当なのかい?」
「はい、父と訓練しながら」
ところでこの人、誰なんだろう? 上司だろうとは思うけど。
「ん? ああ自己紹介がまだだったな、わしは衛士隊の長官でな、現場はとっくに退いておる半分隠居オヤジだ」
「ブレイブ・マクルーハンさん、昔は凄腕で有名だったんだぞ」父さんが続ける。
「お逢いできて光栄です、ネビィです」
と言っておこう、噂は知らないけど。
「しかし凄い子だな、候補生になるには歳が足りんが、実力はわかった」
あ、やっぱりまだ入れないか、早いんじゃないかとは思ったんだよな。
顔見せ程度なのかな?
「推薦は私から出しておこう、じきに訓練に参加できるぞ、それでいいな?」 「「ありがとうございます」」
早々に本部を出ることになったが、父さんは超ご機嫌だ。
鼻歌が出るのじゃないかという感じだが、なんとかこらえてるらしい。
「正式な候補生は2年後だが、訓練には出られるからな、同じことだ」
「訓練は毎日?」
「候補生ではないからいつ出るかは自由だ、 毎日でも構わんがな」
それなら魔法学校と、かち合うことはないか、 仕事もできるし問題ないな。
いきなり衛士にされてしまうかと思った。
父さんはろくに説明もなかったもんな。
「冒険者登録もしておくか、ついでだしな、よし行こう!」
「そっちもですか? ええ?」
「大丈夫だ、簡単なのから始めればいい! 武神の加護が有るしな」
などと言って、強制登録されることになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドから父さんは先に帰って、自分は少し残ることにした。
なぜかと言うとロビィにリーシャがいたのだ、アイリス(あの小さな子)とだ。
「じゃあ、ネビィ衛士になるの?」
「決まったわけじゃないけどね、父さんが訓練だけでも受けさせようとしてる」
「魔法塾、来ないの?」アイリスが言う、はじめて話しかけられた。
「行くよ、たぶん毎週行けると思う」
「良かった! 頑張って魔法も覚えようね」
二人とも喜んでいる、これは休むわけにはいかないな、忙しくなりそうだ。
ロビィで話していたらなんだか注目されているような気がしてきた。
「狼狩りが、登録したそうだ」
などと噂が広がっている声が聞こえてくる。
皆殺し小僧か、などとも言われているのが落ち着かない。
リーシャに引っ張られ、3人で2階の部屋へ退散する。
ドアを閉めてようやく静かになった。
「ネビィが有名になって来たね」
リーシャがくすくすと笑いながら言う。
「なんか嬉しくない噂だけどな」
アイリスはリーシャと長椅子に座り、くっついている。
ずいぶん仲良くなったようですっかり打ち解けて、姉妹然としている。
お菓子を食べながら二人でカードを使ってお手玉のような事をしている。
魔法か? カードは二人の間で浮きながら回転し飛び交う。
始めは魔法と気付かなかったが、手の動きと合っていない? 魔法だよな?
「リーシャも魔法を使っているのか?」
「あ、わかった? 少しだけ! アイリスに教わってね、できるようになったの」
「え? もう? 重力魔法?」
「お姉ちゃん、覚えるの早い」
たどたどしく言うが、うーむ、確かに早い!
自分は小石を出せる程度だが、もう差が付いている?
ますます忙しくなりそうな気配が・・・・・・・ 。
帰ったら、練習しなければ。
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