クリスタル・ロード 0052 衛士候補生
今の声は、誰だ?
周りを見るが誰もいない、 気のせいかと思っていると足音が聞こえて来た。
ドアが勢いよく開いて、父さんともう一人が入って来る。
「これが息子だ、よろしくな!」
「おお、君が狼討伐の英雄か、小さいのにやるじゃないか」
この人は本部の隊員かな? 上司だろうか、スリムな方だが長身で逞しく、上品な感じがする。
「始めまして、ネビィです」
「私は本部の主査で、ローン・クリフトだ、 お父さんとは長い付き合いでな、子供の時から鍛え合った仲だ よろしくな」
「子供の時分にはお互い泥だらけになって殴り合ったもんだ、木刀でもな!」
野性的な二人で気が合うのだろう、自分にはそんな相手はいない。
居ればやりがいに繋がるだろうが、こればかりは仕方がない。
「それじゃあ会場に案内するか、来てくれ」
二人でついていくと中庭らしき所で、衛士達が10人ほど集まって立ち話をしながら待っていたようで、一斉にこちらを見た。
その中で、特にこちらを見つめて? 睨んでいるようなのがいるが、あれは?
「レックス、来い」
さっきのクリフト主査が呼ぶと、睨んでいたのがこちらへズカズカと来る、大きな剣を持ち偉そうな態度で。
「なんだよ、こんなのとやるのかよ、小さいしヒョロいな!」
子馬鹿にしたように薄笑いで言う、自信過剰タイプのようだ。
「レックス、隊長の息子さんだ、失礼だぞ!」
「はいはい、すみませんね」
「すまないな、最近調子に乗っててこの調子だ」
うんざりしたように言うが、この人の弟子か、部下なのだろうか?
「こいつは俺のいとこでな、候補生だが『対等の相手がいない』とだらけけていて訓練に身が入らんし、手を焼いてたとこだ」
なるほど、こいつを相手にと、 ・・それはありがたい!
父さんの上司だと恥をかかせるのはまずいと思っていたが、そんな相手なら。
遠慮いらないな、ありがたい配慮である。
しかもレックスというのは、身長はそれ程では無いが幅があり逞しいぞ。
丈夫そうで、少し荒っぽい程度のは平気そうでとても助かる。
「むっ なんかこいつ俺をバカにしてねえか?」
おお、見た目よりカンがよさそうだ。
「馬鹿にしてるのはお前だ、さあ準備しろ、対戦だぞ」
いつの間にか見物人が増えて20名ほどになっているし、上司らしき年配もいる。
「ネビィ、遠慮はいらんぞ、叩きのめせ」
父さんが寄って来て耳元で囁くので頷いておく。
「じゃあ二人とも、中央へ」
そう言ってから、年配の方へ目くばせをする。
「いいぞ、始めるように!」 彼からそう言われて、その場の空気が変わる。
相手が大剣を抜く、相変わらず偉そうな態度で、だいぶ緩んでいるようだ。
「ではこれより、衛士候補生テストを行う! 戦いは3本勝負で剣を落とすか降参したら負けだ、 双方、構え!」
候補生のテストか、入団テストかと思っていた。
父さんの説明が少ないんだよ、いきなりだもんな連れて来たの、まあいいけど。
「始め!」
相手はいきなり突っ込んで来るかと思ったら、構えたままニヤニヤと見ている。
すっかりこちらを舐めているらしく、いたぶるつもりなのか。
相当思いあがっているらしい。
「ネビィ、構わん、あれを使え!」
などと父さんが言う。
あれですか、向こうの宿で見られたあの型?
あれは実戦用だから、手加減しにくいのに・・・ 父さんてば。
「さっさと来いよ、怖くて無理か、ビビってんのか?」
こっちはこっちで、あんなこと言ってるし、はあ・・・・やりにくいな 。
ではと剣を頭の横上段に改めて構え、やや腰を低くしそのままゆっくりと間合いを詰めていく、少し変則な型だが。
「?」 相手がやや戸惑っているか?
ギリギリ届かない辺りまで近づいて、一度止まる。
「?、 ?」
まだ気配に気づかないようで、こいつは闘気に鈍いのか?
そこから一気に間合いを詰めて振り下ろす。
もう体は接し、顔が目の前だ。
「うおっ !!」
やっと反応し、剣で受け止めるが、だいぶ遅い。
周りから おおっ と声が上がる。
それ程ではないはずだが、この体では全力とはいかないしな。
刃がこすれ合い、ぎりぎりと音を立てるがこの感じは懐かしい。
戦場の空気を思い出す、しかし楽しむわけにはいかない。
相手はかなりのぼせているし、早めに終わらせるべきだろう、しかし殺すわけにはいかないし、さてどうするか?
「くっ、この野郎!」
ゆっくりと押し戻してくるのが、さすがに力強い。
この体では技があっても力負けしそうだ。
では、あれを使うか。
右掌底を刃に当てて、気を丹田から腕に込めて発する技。
右足を踏み込みつつ、呼吸を爆発させ打った。
「震!」
足からびりびりと地面へ、辺りが響く。
ギィン ! と大きな音と共に相手の大剣が根元から折れ、地面に落ちる。
あいつはポカンと口を開けて剣を見ているが、首元に刃を当てられているのに気づいていないのか?
辺りはシーンとしている。
こちらから声をかけるのは、はばかられるか? 少し待つほうがいいか。
どのくらい待っただろうか? ようやく審判? から声が出る。
「しょ、 勝負あり、 勝者ネビィ 」
剣はもったいないが、ケガさせずにすんだな。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「面白い」、あるいは「まあまあだな」と感じた方は下の欄の
☆☆☆☆☆への入力、ブックマークに登録などをしていただけると
作者への強化や回復魔法となりますので、ご助力をお願い致します。
m(__)m




