クリスタル・ロード 0051 衛士隊本部へ
宿屋での訓練を見られていた?
なんで? 父さんは寝ていたはず 音で起きたのか?
なるべく静かにやっていたつもりだが、甘かったか?、 剣の音には敏感か。
まさか見られていたとは、~~~~~ どうする?
「そのですね、あれは・・その、適当に、でたらめなイメージでやっただけで」
「・・・・・ 違うな、あれは型になっていた、 剣筋が定まっていたのが見えた、あれがでたらめの訳が無い、達人レベルだ」
うう~ん、やはりごまかせないか? 素人じゃないからな、無理か?
「あ、あれは・・そう、夢で見まして」
「夢?」
「夢です、夢であの動きを見て、その動作が見事だったので真似ただけで」
「夢? 夢でだと?・・・・」
これでも騙せないかな? あながち嘘でもないんだけどな。
「夢で? 夢で見たと・・・ 夢での動作・・」
無理があるかな~ 、これでだめなら何と言ったらいいのか?
「夢、そうか!」
ん?
「つまり、武芸神の降臨だな!」
は? 武芸神? 降臨?
「そうか、降臨とは・・・神からの祝福を賜ったか、・・・そうか」
何か一人で納得しておられるが? え?
「私でさえ、それは叶わなかったが、そうか・・・、祝福とは・・」
「・・・・・・・・・ 」
納得してくれるなら、それもいいか、 納得だよね?
「よし、それなら冒険者登録だな、それとも衛士の推薦枠か・・それもいいな」
え?
「どうりで最近のお前の上達ぶりは目を見張った、そうか!」
そ、そうですか、まあそうか、うん。
冒険者登録ね、それも悪くないと思う、衛士登録は? 宮仕えか・・どうだろう。
実力を認められれば、昇進なり人脈作りができるか?
どっちにしろ、まだ子供の体だしやれることは限られてしまうだろうが、状況をよく見た上で考えるとするか。
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翌日、父さんにいきなり衛士隊に連れて行かれる。
「職場に息子を連れて行くとは、いいんですか? 親バカと言われますよ」
「狼討伐の件があるしな,構わんのだ、皆が連れて来いと言ってた」
そんな事鵜呑みにして良いのだろうか?
職場の冗談程度では?
まあ仕方がない、父さんがそれで満足するのなら。
衛士隊の宿舎に入ると、10人ほどの衛士から注目される。
「狼討伐の息子さんですか」
「思ったより小さいな、これで群れを全滅させるとは凄い」
父さんの部下達で、見知った人もいるが、ほとんど初対面だ。
「衛士の推薦枠でテストを受けさせようとな、取りあえず連れて来た」
「おおお」
周りから声が上がる。
「普通はもっと大きくなってからだよな?」
「隊長の息子さんならとは思うけど、強いしな、でも確かに小さいし」
「まあ、駄目なら仕方ないが、 試しに受けさせてみるさ」
などと言いながら、父さんはかなり自信ありげだ。
やはりあれを見られたからだろうな。
こことは別の場所に衛士隊の本部があるそうで、そこに連れて行かれるという。
大隊長や他の隊の隊長などが試験を見るそうで、そんなの聞いていないんだけど、ホントに急な話である。
そりゃ、やれと言われれば、やりますけどね。
本部は街の中心部にあり、ひときわ高く丈夫そうな建物で、役所関係と併設だろうし領主の邸宅にも近い、ここはめったに来ないところだ。
父さんはすたすたと入っていくので、遅れないように付いていくがゆっくり見て回りたい所なんだけど。
進むほどに辺りは広く、立派な造りになっていく、城ほどではないが金のかかった建物で、床や壁が輝いているのは普段の暮らしでは見ない場所で新鮮だ。
だが、同時に懐かしい感じがある、ずっとずっと昔の事だが。
本部の一室、会議室だろうか、誰もいない部屋で待っているよう言われ一人になる。
15人ほどが入るスペースで、座って待つが手持無沙汰である。
持っている剣、父さんから貰った短めのものだがこれで試験となるのか、取りあえず抜いて素振りをしてみようかと思う。
少しテーブルを動かし場所を作り、剣を構え振り始める。
傷をつけるとまずいので、その場での型だけ、動作の小さいのを行う。
準備運動程度から、徐々に気合を込めて、早くしていく。
昨日したよりも、ずっとカンを取り戻しているようだ。
気が体を流れていき、血や肉と合流して力となるのを感じていく。
呼吸とタイミングが合い、今までと違う漲りとなる。
父さんから習ったこととは少し違う、向こうの世界の剣術を思い出す。
これを使っていいのだろうか、父さんは戸惑わないだろうか? 今まで教えてくれた事を思い出す、自分が来る前の事もだ。
物心ついた頃からずいぶん懇切に指導されたようで、細かい指示まで覚えている。
肘や足の位置や、向き、力の入り抜きまで、様々な情景が思い浮かぶ。
自分が習ったのはもっとおおざっぱで、荒っぽかった。
少々のケガなど当たり前で、痛みがあるのもしょっちゅうだったのだ。
仲間などは練習で大けがをしてしばらく動けなかったこともある。
噂では死んだ者もいるとの事だった。
そんなことを考えていてら、少し胸のあたりが痛んだ気がした。
「?」
手が止まる、 この程度で筋肉痛など無いはずだがと、胸を触るが異常はない。
「自分は弱いから」
その時、そんな声が聞こえた気がした。




