クリスタル・ロード 0030 興奮冷めやらぬ
大きな杖を持って空へと手を広げた小さな子が、そのままゆっくり後ろへ傾いていく。
「おっと」
フレアがすぐ背中を支えると、力が抜けてくたっともたれかかった。
「あらあら」
リーシャ母さんが女の子の落としかけている杖を掴み、代わりに抱える。
拍手が徐々に小さくなり、ざわめきが大きくなっていく。
「おい、なんだなんだ?」
「どうしたんだろね?」
「えっ、なになに?」 これはリーシャだ。
伸び上がって前を見ようとしているが背が低いので見えていない。
「倒れたのか?」
どこかで声が聞こえる。
「すまん、どいてくれ!、通してくれ!」
後ろから大声が上がり、人をかき分けて大きな男が前に出ていく。
ギルド長だ。
フレア達の所へ行くとしゃがみこんで女の子の様子を見ている。
そういえばギルド長の姪と、言っていたか。
「やはりこうなったか、大きな魔法を使うとよく倒れるのだ、まだ幼いからな」
気を失ったのか、魔力枯渇だったっけ?
「え、ちょ、ちょっと、ね、ね」
リーシャまで前に出ようと人をかき分けていく。
自分の腕を掴まれ、リーシャに引っ張られて自分も行くことに。
あの子のそばまで行くと、ギルド長の太い腕に抱えられスースーと寝ている。
「少しこの子を休ませたいんだが、どこかないか?」
ギルド長に言われて、リーシャが自分の部屋へと案内していった。
ベットに寝かせて、フレアとギルド長が付き添っているそうだ。
その後取りあえずと、みな休憩となった。
おやつとしてリーシャ特製のお菓子が配られる。
自分も手伝い、皆に配った後二人で木陰へ行って座って食べることに。
いつにも増して美味い、精進しているのか腕が上がっているなあ。
昼食用としてパン屋の屋台まで来ていて、こちらは有料だがおやつを食べ終わった人が見に行っている。
この辺は店が無いので、塾のある日は来ることになったそうだ。
店主は「また儲かる」と、機嫌が良い。
商魂たくましい。
「あの娘の、凄かったねー、綺麗だったー」
リーシャが溜息をつきながら言う。
確かに、自分も見とれてしまった あんな魔法の使い方があるとは。
「あんな小さい娘がなあ・・」
「ほんと、私は魔法の練習したことないけど・・私も出来るようになるかな?」
「え?」
したことない? 母親があれほどなのに?
「母さんは、無理にすることないって言うの、私はお菓子造りの方が向いてるって」
「そう・・・か」
「でも、あんなことできるなら、やってみたいなーって・・・・」
そうだな、自分もこれからだけど、なんかやる気がでてきた。
周りでも「あの子は凄かった」との話で持ちきりだ。
まだ興奮冷めやらぬ・・か、盛り上がっている。
休憩後、Dランクの残り2人の魔法も出たが、パワーや技術は有るがあの娘と比べると地味な感じが否めなかった。
それは当人達もわかっているようで、やりにくそうで気の毒だった。
昼食後はCランク以上の人のテストかと思ったが、それは後日だそうだ。
今後の講義予定が説明され、次回からはDランク以下は午前、Cランク以上は午後と
分けて講義することになった。
そうか、先生は一人だし、上位の人が初心者の講義に付き合ってられないよね。
夕方になって、目が覚めたあの子を連れて、ギルド長が馬車で帰ることに。
リーシャが、またねーと手を振ると、あの娘が振り返していた。
「可愛いよねー、私もあんな子欲しいな~」
子供を欲しがるのはまだ早いのでは? と思ったが黙っていた。
確かに可愛いからね、 リーシャもね。




