クリスタル・ロード 0003 渡された危険物
数日後、店に行ってみると20人ほどの列ができていて、忙しそうだ。
ケーキや肉入りパンが昼までに売り切れそうとのことで、まずまずの人気となっている。
「これ、君が考えたって?男の子が大したもんだ! 売り上げ倍だよ」
店のおかみさんが満面の笑みで、「ありがとよ!」と背中を叩かれた。
痛い。
「これ、アイデア料だよ、取っといて」
と銀貨をくれる。
「え、こんなに?」
子供に渡す金額ではないのでは?
「まだまだ儲かりそうだからね、いいんだよ」
ニカッと笑う。
「でもこれは貰いすぎでは?」
というと、おかみさんは何か取り出し、
「じゃあ、これ配ってくんない? そのお駄賃ってことでどう?」と、
チラシだろうか、数十枚を渡された 新商品が手書きしてある。
なるほどと、引き受けてまずは冒険者ギルドに行ってみよう。
あそこなら腹をすかせた大食漢が多そうだし、携帯食にもなるだろう。
その次は宿屋かな?後は・・卸市場か、畑や炭鉱は遠いよな、たぶん。
護衛騎士の詰め所もあるか、父さんに頼むかな。
そんなことを考えていたらギルドに着いた。
始めて来たはずだが見覚えがある。
場所だって知らないはずが、来れたな この体の記憶か?
入って、まず受付へ向かう。
受付のお姉さんはグラマーというより逞しい、ジャンヌ・ダルク風で、
凛々しいタイプだ。
冒険者か騎士団員のようだなと思いつつチラシの話をすると、「掲示板の下ならいいですよ」と言うので張らせてもらった。
もう一人の受付さんは小さくて中学生のようだが、元気がいい。
チラシを見て「おいしそう~」と、はしゃいでいる。
今度試食用を持ってきますというと、私一番~と、勝手に決めてる。
その声が聞こえたようで、そばにいたごつい冒険者の男がチラシを見て
「美味いパンか、美味い物は大歓迎だ 明日持って来い」
睨むように言って来た。
「ちょっとフォスターさん、相手は子供です、脅しはいけません」
ジャンヌさんが言う 見かけより優しい。
「脅してない 催促だ」と強面の男。
「フォスターさんの顔だと脅迫です」
お姉さんが睨みつける。
「そういうあんたの顔だって」
「- 何・ですか? -」
ますます睨む
「・・・・・・・」 気迫負け?
お礼を言ってさっさと退散することにしてギルドから出た。
後はどこにしようか?
そう考えながら立ち止まっていたら、荷を山積みの大きな馬車が目の前を通り過ぎた。
馬車じゃ無いか、大型の魔獣が引いているので魔獣車だな。
それはともかく、あの荷はどこへ運ぶんだろう?
荷が多ければ人が多い所か? 街の外から来たなら仕入れだよな。
幸いゆっくりと進んでいるので走れば付いていけそうだ。
そう思って追いかけると意外に早く済んだ ここは・・卸売り市場かな
案の定大勢が働いていそうで、売り込むのにいい所だ。
魔獣車は誘導されて荷を下ろし始めていて、近寄ると声を掛けられた。
「よう坊や、魔獣が珍しいか」
ああ、そっちと思われたか、まあいいか。
「これ、良く操れますね大きいのに 暴れませんか?」
「俺は子供の時から魔獣扱いが得意でな、俺が付いてれば暴れないぞ」
へえ~ テイマーだったっけ? 魔獣扱いの能力かな。
「坊やはここの街の子だよな、 この辺に屋台か食堂無いか?
今日は弁当が無くてな、昼飯をな・・」
「屋台なら少し行ったところに、 」と言ったところで自分のビラに気付いた。
「これなんてどうですか? おかずが挟まってるパンで、評判ですよ」
と、ビラを見せる 売り込みのチャンスである。
「ん~?パンか ちと変わっているが悪くないか、どこで売ってんだ」
「自分が配達しますよ 昼まででいいですよね」
この人には労を払ってでも売り込むべしと、自分の商人としてのカン?が言っている テイマー能力者だからだろうか?
「届けてくれんのか、すまねえな、俺はヒューイってんだ 昼まではここの一階にいるんで頼むな」
「はーい」
午後になった。
売り込みは成功し、事務所へ試食用にパンをいくつか置いてきたが取り合いになっていたほど好評だった。
数日後から売店を開けるようになったのでリーシャと相談だな。
ヒューイさんは「うまい!!」と言ったきり、バクバクと食べていたし
時間のある時にテイマーの心得など教えてくれることになった。
どちらもラッキーだ。
どんなチャンスも逃してはならないと、すごくそんな気がするのだ。
なぜそんな気がするんだろうか?
うーん と考え込んだがわからない・・・ まあいいか。
そのうちわかることもあるだろう。
と、ゆっくり歩いていると露店がある、屋台さえなくシートだけだ。
「やあ坊や、見て行ってよ」
ウェーブ髪の妖しげなお姉さんに声を掛けられた。
商品は・・魔術アイテムかな? でも自分は魔術などできないし。
「簡単なのもあるよ、これはどうかな?」と、小さな人形を出した。
「呪いの人形! 敵に当てると小一時間呪いで苦しむ」
・・・・・ 「子供に売る物ですか、これ」
「大丈夫! 死ぬわけじゃないし~」
お姉さんはノリノリだ。
「もう少し穏便なのは?」
「じゃあこれ、でかい音と光と煙で脅かす、誰も怪我無し!偽爆弾!!」
スタングレネードってやつかな。
「今なら5個で銀貨1枚! 安い!特売だよ! 坊や」
これだって子供に売るものかな?
「今そんなに持ってなくて・・」 本当に使える物かも怪しいし ね。
「ん- じゃあ今回は無料にするから後で感想聞かせてよ、改良すべき
点とかね」
「え 本当にいいんですか?」
「坊や、真面目そうだしね 信用できるし、興味出て来た」
顔が近づき薄目で見つめられる。
「ねえ君、本当に子供?」
見透かされているようでなぜかドキッとしてしまった。
「こ、子供ですよ 子供以外の何ですか?!」慌てる必要は無い。
「ふーん」
妖艶な目で微笑まれる 何だろう? 何なんだ?
「まあいいか、じゃあこれ、感想よろしくね~」と布の袋を渡された。
ずっしりと重い 本当に安全なんだろうか、正直怖いぞ。
こんなのを売っていて大丈夫かと振り返ると、他の客が2人珍しそうに見ていてお姉さんは怪しい色気で応対している。
犠牲者が出ませんように。