クリスタル・ロード 0191 緊急招集
「グリーン公国がカルト教団の襲撃を受けているとのことだ」
父さんからの話があった翌々日の朝に、今度はそんな事を言われた。
今は食事の前なので以前よりはましなタイミングだが。
カルト教団と聞いて思い出すのは遺跡の事に妙に詳しいようで、失われたはずの魔術を使うやら神出鬼没な行動やらでとても厄介な存在であることだ。
「なんですと?! 本当ですか!」
「多分、嘘だな」
そんな事を言われ倒れそうになって何とか踏みとどまったが、顔から地面にダイブしそうになったぞ、危ないだろ! 畑だから作物だって傷んでしまう。
「何ですかそりゃ」
カルト教団と聞いて嫌な事を思い出したのに、それは無い、朝から一体何を言い出すのか! 本当に。
「お前を呼び出す為の口実だろ?、お前が仮病なんか使うからだぞ」
「父さんが言ったんじゃないですか」
「仮病を使えとは言ってないぞ、俺のせいにするな」
真顔でそんな事をぬけぬけと言う、いつもの父さんである。
「あの国とは親善の関係だしドラゴンソードを贈ったんだから手を貸せと、そういう事だな、国同士の戦じゃないから大国に頼むほどではないと」
「だからうちの国ですか、あんな剣貰わない方が良かったのでは?」
「そうもいかんだろ、我が国だって味方は欲しいし贈り物を断るわけにもいかん」
そりゃあそうだろうけど外交とは何て面倒な事だ、力任せの行動の方がいかに単純でいいかなどとつい不穏な事を考えてしまう。
いけないいけない、力づくの行動ではろくなことがない、どんなに面倒でも外交その他をよく考えなければならないのだ。
「はあ、じゃあやっぱり行かなければならないですか、あの剣も持ってですよね」
「うむ、領主がすぐに連れて来いとな! 馬車に乗れ」
「え? 朝食がまだですよ」
「領主の館に何かあるだろ、向こうで食えばいい」
すぐに用意をさせられてバタバタと荷物をまとめる、なんてせわしのない朝か、帰って来るのはいつになるかわからないし、憂鬱な朝になった。
「あら、もうお出かけ? 朝ごはんは無しで?」
馬車に荷物を積んでいると戸口から母さんが顔を出した。
「ああ、緊急招集がかかった、 帰りは数日後になると思うがすまんな」
「そう、わかったわ」
よくある事なので母さんは動じていないが、こちらは今から疲れている。
数日で戻れますようにと心の中で祈る事にしよう。
すぐに馬車が動き出しガタガタと揺れ始める。
「気を付けてね~」
笑顔で送り出してくれるが、この先にはあの図太い娘の嫌な笑顔があるのだ。
嫌な朝、嫌な出発だなあ、母さんのせいではないが。
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領主の館に着くと兵士たちが既に数十人揃って準備ができている。
それはそうか、カルト教団の襲撃に対する名目なので自分だけのはずが無いのだ、こちらは兵士を貸すという事になるのだから。
そこへすぐに領主がやって来た、留守にしていたはずだがいつ戻ったのだろう。
「やあ、みんな朝早くからすまないね、グリーン公国から頼まれてしまってねえ、親善が始まったばかりで断るわけにいかなくてね」
相変わらず緊張感の無い態度に話し方だが、この人は外交に聡いので公国が口実を使っているのはわかっているだろう、たぶんこの後の展開も予想していると思える。
「ネビィ君も朝からご苦労様、父君に色々指示してあるから後で話を聞いておいてくれるかな、必要に応じて追加の連絡もするからね、魔法郵便で」
父さんも行くことになっているのか? 領主代行だから残るのかと思ったが・・領主本人が戻ったから構わないのかと父さんを見ると、黙って頷いている。
今度は隊長として同行らしい。
「街の外にドラゴンが待機しているから、皆それで行くことになるからね、すぐに公国に着くから楽なもんだよ、よろしくね」
え、今なんて言った? ドラゴン? ドラゴンて言ったのか?!
周りがざわついている、やはりドラゴンで行くと言ったのか、本当に?
「竜王国の王子が訪問中とのことで、あちらがドラゴンを貸してくれたそうだよ、緊急事態なら使ってくれとね。竜使いが付いているから心配ないよ、落ちない限りは」
街の外にいつの間にか竜が降りていた、それも大型のが3頭。
よく騒ぎにならなかったと思うが、隠蔽技術でもあるのだろうか? 事前に連絡があったからなのか静かな朝だったのだが。
次男王子が使うのだけあり、かなり大きい。
しかもごつくて迫力がある、本気で暴れたらこの街はひとたまりもないような気がする、4位王子のより一回り大きいと感じるのは多分正しいだろう。
そしておそらく長男や王のそれはもっと大きい。
こんなのを揃えている国を相手にしなければならないのか、本当に?
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一つ増えるたびに部屋を転げまわって喜んでおります。
今後も頑張らせていただきます。




