クリスタル・ロード 0186 往生際
「くくく、こうでなければ面白くない、来い! ドラゴンソードよ」
物凄い強風と音の中、王子は笑いながら叫ぶ。
こちらは笑うどころか剣を持っているだけで大変なんだが、あいつは俺でなく剣と戦っているつもりらしい・・・ 何て奴だ。
こうなったら吹き飛ばしてやろうか、それなら死にはしないだろうしあいつだってそれなりに満足するんじゃないか?
閣僚たちだってその程度なら仕方ないと思うよな、よな。
剣を振り抜くため思い切り横へ引き力を溜める、くらえ、4位王子!
しかし振り出す瞬間、あいつは懐から引き出すように何かを投げて来た。
避ける間もなくそれが体に軽く当たる・ 小さな刃物かと思うとそれが体に食い込んだ? これは鉤爪か?! しかも細い鎖が付いている。
「いてっ」
しかもすぐにそれをもう一つ投げていた。
反対側の腰にそれが食い込んだ・・ 小さな爪だから死にはしないが痛い。
「これで飛ばされんな、さあ勝負だ、行くぞ」
鎖はあいつの体につながっていてそれをグイグイと引っ張りながら近づいて来る。
他人の体を何だと思っているのだこっちは痛いというのに、似ている物を父さんも造ったけど身内意外だと許せんぞ。
風だけだと生ぬるいのか、他の攻撃はできないか水とか炎は?
従わせろと言ってたが命じたら出るのか、炎を・出せ! 細い炎でいいから出せ。
アイツに熱い思いをさせるだけでいいからすぐ出せ。
などと思っている間に目の前まで来たが、これでは間に合わない?
奴は片手に鎖を巻き付けているので一方の剣しか使えないだろうが、まだあの速さは健在だろうしどうやって封じるか、これでは斬るしかなくなるぞ。
「牙を剥け、双頭虎!」
アイツは剣を振りかぶり切り付けてくる寸前だ、こちらもやるしかない。
「火を放て! ドラゴンソード!!」
もうこれしかないと叫んだが、果たして出るのか?
アイツの剣はブレてぼやけ、うなりを上げ向かって来る。
受け止めようと剣を上げると色が変わって来て熱くなり、光り出し力がみなぎっていく。
剣が交わると火花が飛びそれをきっかけのように火が上がった。
そして炎が伸びていく。
「ぬっ」
「来た!」
炎があいつの顔の前まで伸びて火が強く明るくなり、前髪をチリチリと焦がしていく。
アイツが離れなければ顔が、体が焼けるぞ! まだやるか。
「おのれぇ」
打ち合わせぎりぎりとなるアイツの剣が赤熱していき、手がジュッと焼けていき煙が出て焼ける匂いが漂う。
「ぐっ」
堪えて剣を握りしめるが手が震えている。
反対の手は鎖を巻いて強く引くのでこちらの体に刺さったかぎづめが食い込んでなお痛い・・ このやろうが、なんて意地っ張りなのか。
「ふん!」
手が緩んだところで剣を弾いてあいつの体ごと飛ばしてやると、鎖の手も緩んで体が離れ、転びそうになって踏みとどまった。
こちらの剣の炎はますます強くなって伸び熱を放ち、あいつは腕で顔を覆う。
髪はますますチリチリと焦げて煙を上げるがまだやる気かあいつは?!
しまいに体が焼けるぞ。
「もうおやめください! 王子、それ以上は!!」
王子の体を後ろから掴み抑えている若い男がいるが、あいつの部下か?
二人、三人と増えていく。
「もうおやめください、無茶です!」
「ええい、離せ! 邪魔をするな、まだ負けておらぬ!!」
髪が焦げ手が焼けていながらまだ剣を離さず戦う気が失せないとは、どこまで血の気が多いのか、何て奴だ。
しかし部下達は自分達も火傷をするのも構わず剣を掴み体を抑えて引き離し、引きずるように王子を離していく。
「放せ、我はまだやるぞ! 放せ!!」
王子の叫び声がだんだん小さくなるが、止まりはしない。
とんでもなく往生際の悪い奴、まったく嫌になるし呆れてしまう。
あんなのに仕えるとは部下が全く気の毒になる。




