クリスタル・ロード 0185 竜王戦 - 本
なるべく気づかれないように、早い打ち込みを軽くやみくもに行うかのようにブレさせて急所を外し気味に・だ。
時折足がもつれたふりで腕輪を狙い軽く打つ。
何度か当たるとまた宝石などがはじけ飛ぶ。
「ほう?」
4位王子が目を薄めてニヤリとする。
気付かれたか? だが今更やめるわけにはいかない。
アイツの動きが鈍っていくのを感じるから、このまま続ければいずれ反応が遅れる。
「なかなか目ざといな、良い良い、では我の番だ、受けてみよ!」
そう言ったかと思うと動きが変わって左の剣が飛んで来た、それも速い。
それを剣で受けるともう一本が追うように、しかし波打つ動きでやや下から来る。
まるで別人の持つ剣の様で体の動きに合っていない? 剣技とは足から胴、腕と力が流れるように生まれるのでこんなことは通常あり得ないが。
初めの剣を滑らせながら次の剣を弾き、体を躱し横へと抜けた。
背中に冷や汗が流れているのを感じる。
「今のも躱すか、ますます良いぞ、見どころのある小僧だ!」
今では満面の笑みとなって足を開き胸を張って立っていて、ますます隙だらけの様子だが強いのは確かと今ではよくわかる。
「では少し本気でやるか、めったに見られんことだぞ、よく見ておれよ」
そうしてあいつは腰に巻いていた帯のような布をほどき、同様な両足首の小さな布を取るとどちらにも宝石をちりばめた装具が現れた。
金にものを言わせた王族め! 成金王子が・・・ 全身か、全身宝物尽くしか!!
こちらがそんなふうに思っているのに構いもせず、尊大な態度を続け両手の剣を胸の前でクロスさせて叫んだ。
「わが意に従い力と成せ、双・頭・虎!」
すると全身の装具から金粉が噴き出すように煌めく霧が吹きだされ体を覆い、渦巻き始めた。
魔力の発現まで金なのか、成金趣味か! カネをつぎ込んだのか。
などと思っている間に目の前にいた王子の姿が、ボッ と風切り音とともに消え真横に一瞬現れたがすぐに消え、次は後ろに現れ、次は上へと先ほどまでよりはるかに早く、しかも空中に壁があるかのように上で方向を変えた。
「驚いたか、これは竜王国の誇る魔宝具、我だけが使える宝ぞ! お前もドラゴンソードの力を見せろ、でなければ死ぬぞ」
目で追うのがやっとの速さで飛び回りながら叫んでいるが攻撃は来ない・・
こちらの本気を見たいのか、しかしこの剣はドラゴンがいないと威力が出ないはず、それはあの後何度も試した結果だ。
どうしたらいい? 手加減していたら勝てる相手ではない。
ドラゴンソード無しでは本当に殺すしかない・・・ が、それは・・・・・・
四位とはいえ王子を殺すわけには。
「ではお前が死ぬか?!」
いきなり目の前に現れてそう叫ばれた、まるで心を読んだように。
そして二本の剣が自分の首を狙って向かってきてかろうじて受けたが、ハサミのように自分の前でクロスしてぎりぎりと首に迫る。
ドラゴン・ソード、前に使ったときは、どうだったか?
何か言っていたような気がするが、あれは何だっけ・・・ 何とかを・・
何かをしろと言ったような・・・・・・ ?
何を、何をしろと言っていたのか・・・・・ あれは、あれは・・・
「お前の首、もらい受けるぞ!!」
刃が更に迫る。
そうだ、あれは言っていた、剣を従わせよ、それが剣士である と。
『出でよ 、ドラゴン・ソード!!』
突如、剣から爆風のごとき気が噴き出して辺り一帯に吹き荒れ、人さえも吹き飛ばしそうなほどの風が渦巻き、あいつが離れて床に手をついている。
髪が巻き上がり体が浮きそうな様子で耐えているのはなかなかの見ものだ。
閣僚たちはやや飛ばされて床に転がっているのもいる。
王子は這いつくばりながらもニヤケた面でこちらを睨んでいるが、どこまで尊大なんだ。
「やっと来たか、待ちかねたぞ! 我と戦え、’竜殺し’ よ!!」
台風のごとき渦巻く風の中、あいつはかろうじて立ち上がり腰を低く、飛ばされないよう耐えながら剣を構え向かって来る。
こちらも剣を飛ばされそうでしっかりと握るが暴れるように動き、静止しない。
びりびりと館が響き崩れそうな音を立てる。
風の音で耳が聞こえなくなりそうなほどだ。
こんな状態であいつはまだやる気なのか? こっちだって飛ばされそうなんだぞ。
しかしあいつの目は爛々とし、獲物を狙う獣のようだ。




