クリスタル・ロード 0184 竜王戦 - 序
場所は館の中庭、こちらの閣僚と向こうの取り巻き達とお騒がせ娘(名前なんだっけか思い出したくない)が付き添い、継承権第四位王子(以下四位王子)と対峙した。
「ドラゴンソードの準備は良いか! 早うせい!!」
こちらの国でなんでこいつはこんなに偉そうなんだ、ここの王子じゃないだろうが、配下になった覚えは無いぞ!
しかしこちらの人達はバタバタと剣を持って来た。
家に置いていた剣がなぜここにあるのだ、誰が勝手に入って持って来た?!
そこまでしてこいつに合わせる必要があるのか。
「剣を持て! さっさと始めるぞ、我に遠慮など要らぬ、殺す気で来い」
この野郎は・・・ほんとに殺してやろうかと思うが、居並ぶ閣僚たちが絶対ダメという顔で睨みつけてくる。
そしていつの間にか現れた父さんは、腕を組んで好きにしろと言う態度で見ていた。
あんたはあんたで問題だと思うぞ。
ドラゴンソードを持って鞘から抜いたが、真の力の発現はドラゴンがいないとありえないはずで普通の剣術で行うだけだが、それでこいつが納得するだろうか?
「では良いな、我の剣をよこせ!」
そう言われて侍従が慌てて差し出すのは大きな2本の剣で、どちらも宝石や金細工で飾られ、さも高価な品で剣というよりお宝のような代物だ。
見栄の塊のような・・・こいつの好みそうなものだが、あんな大きな剣で二刀流とはまともに振れるのだろうか。
だがそいつは構わずその剣を抜いて両手に構えたが、手足を広げ隙だらけ? とても剣士とは思えない構えなのだ・・ こいつは素人なのか?! それとも冗談か?
しかし両手で剣を振り回し始めその音に酔うかのように笑いを浮かべ、目をつぶる。
「うむ、今日も良い音だ、さあいつでも来い」
あんな構えで本気で言っているのだろうか? 素人としか思えないのに手合わせなどと、もしや配下からゴマをすられるばかりで自分の実力を知らないのか? 自分が強いと思い込んでいるだけなのか、それじゃ完全なバカ野郎だが??
父さんの方をちらりと見ると薄笑いでこちらを見る。
やはり同様に考えているようだが、この場合どうすればいいのか、適当に相手しておだてればいいのだろうか、それは凄く不本意なんだが・・・外交的にそうすべき?
「来られないなら我から行くぞ、怯えているのか!」
笑いながらそんな事を言うとは身の程っ知らずも甚だしい。
少し痛い目に合わせるか、そう思って剣を振りかぶり、 手足に気を込める。
深く息を吸って爆発に備え・・・・。
「来るか、そうでなくては・」
そこまで話したところで自分は瞬時に間合いを詰めていた。
驚いた相手の顔目がめて剣を振り下ろす、斬るつもりはないが肝を冷やしてわからせるためにだ!
風切り音と共に刃が顔に迫る。
アイツの動きでは尻もちをつくだろうと思った。
が、次の瞬間顔の前で剣がクロスされて金属音と共に自分の剣が受け止められた。
な?! まさか、直前まであいつの剣は動かなかった。
間に合うはずが無いのに。
「おう、やるではないか、 幼いのにドラゴンソードを贈られるだけはある、くくく 面白い、これは面白いぞ!」
さも愉快そうに笑いながらまだ素人然と剣を振るが、あの速さは素人ではなかった。
何なのだアイツは、素人風の芝居なのか? わざとそうしてからかうつもりか。
しかし足運びも視線も捌きもどう見ても素人で、芝居なら恐ろしく上手い芝居だ。
父さん含め数人が驚いた顔で見つめているが、他は戸惑う程度、つまり剣術を知っている人ほど驚いているわけだ・・あの剣技では素人のはずと・・・ しかしあの速さは一体何なのか、まるで魔法のような・・? 魔法?
魔法と思いついて相手を見ると、手首と二の腕に・・腕輪、魔法具らしき物がある、それも両腕にだ。
あれなのか? あれに秘密があるのか? それなら合点がいくが・・・。
あれにも宝石がちりばめられて装飾だと思っていたが、それならば、だ。
こちらも速さ重視で剣を振ることにして、あれを狙おう、それに合う技は昔学んだあの流派の。
歩法を変えて小さく素早く向きを変え緩急を付けながら、間合いを詰めるとあいつは眉をしかめて首をかしげてみつめる。
「うん?」
それに構わずこちらは剣を体に近づけつつ動作を小さく早く振り、瞬時に向きを変えながら細かく斬りつける、力は出ないが軽く早い剣で。
ギギギン・と向こうも素早く受けるが少し驚いたようで顔に出る、足元がやや怪しく不安定でやはり素人のようだ --- そしてこちらも足元がふらついたように剣をブレさせ腕輪を狙って振るとキンッ と軽い音で腕輪をこすり宝石など装飾が飛んだ。
「おっ」
更に早く足をさばき剣を細かく振りながら数十回の振りを連続で打ち込むと、驚きながらも双剣で受け止め、流し、跳ね返す、やはり素人とは思えない反応の速さだが傷をつけた腕輪の方がやや遅くなっている。
やはりあの腕輪に秘密がある! おそらく魔法具だろう。
ならば、徹底的にあれを狙うのみ、なるべく気付かれないように、だ。




