クリスタル・ロード 0176 ソードの目覚め
持っている剣にびりびりと響く。
だがドラゴンの咆哮だけではない。
呼応するかのように熱を帯びて剣が響かせる。
ビリビリと剣が吠えているかのように。
ドラゴンを斬ると叫んでいるのか、ドラゴンを滅ぼす為の剣が目覚めたのだろうか。
その時、ドラゴンと争っていた獣の声が変わった。
既に獣が劣勢になりドラゴンに焼かれ、振り回されていたがひと際長く高く吠えた。
この声は聞いたことがある。
仲間を呼ぶ声だ。
たとえ敵がどれほど強かろうと群れを成して反撃せよとの叫びだ。
聞いたことがある、あの時は狼だった。
一匹だった狼があっという間に数十匹に増えて一斉に村を襲った。
そして今、あの獣が同じように吠えている。
「グロフ、群れが来る!」
「なに?!」
遠くの林から一斉に鳥が飛び立った。
驚いた鳥達だろう、見回すと辺り全体から飛び立っていく。
自分達の前方からも。
囲まれている。
「ねえねえ、何かまずくない?」
「そうみたいですね、どこか隠れる場所は・・」
「隠れるったって、どこにだよ? 平地だぞ、木の上か?」
「あいつ等なら並みの木だと平気でなぎ倒しそうだな」
グロフ達の言う通りここには隠れる場所など無い。
開けた場所に来たのが仇になった。
「地面に穴を掘るのは? アイリス、できる?」
「たぶん・できる」
「それしかなさそうね、障壁を私が張るけどあんなのが相手ではもたないと思う」
リーシャが言うとアイリスと先生が応じた。
「じゃあその間、俺達は護衛だ、 全力で守るぞ!」
「ひいい、急いで掘ってね」
「では私も障壁を張りますね、先生のお手伝いを」
「待て、フレアはそれより攻撃魔法をぶちかませ」
「そうだそうだ、魔法全開解禁だぞ!!」
フレアが嫌な顔で振り返る。
「何か引っかかりますね、もう! わかりましたよ」
一本の太めの木のそばでアイリスが魔法で穴を掘り始めた。
「ここ、土が堅い 粘土と石が多い」
「ごめんね、私がもっと手伝えればいいんだけど」
リーシャも杖を振るがアイリスほどの魔力は無い。
そして地響きが聞こえ始め徐々に大きくなっていく。
やがて恐竜のような大型獣の姿が現れた。
正面から少しずれた所を真っすぐに向かって来るので剣を構えると、ますます手の中で熱くなりビリビリと音まで聞こえてくるが他の人には気づかないのか?
既に獣は8頭ほど見えるがこちらには気を留めないのか真っすぐ走って行く。
正面近くの一頭が細めの木をへし折りながら駆け抜けると枝が飛んでくるが、魔法障壁によって弾かれた。
「ひい~~っ」
「怯えるな、弓をしっかり構えてろ」
獣たちはドラゴンしか目に入らないようだが、邪魔となればこちらをなぎ倒すだろう。
ドラゴンソード、本物なら力を貸してくれ、あいつらを止める力を。
大型獣を切り伏せる力を。
ーーーーーーー 力に縋るなかれ、剣は振るうためにある ーーー
その時、声が聞こえた気がした。
「なに?!」
「正面、来るぞ! 射撃、魔法 用意!!」
グロフが叫びジョーイが全力で構え、フレアが詠唱し、レフ達が武器を構える。
特に大きい一頭が向かって来て邪魔だと言わんばかりに吠えると大口を開けて肉食獣の牙をむき出す。
先ほどの声はずっと前に聞いたような? それとも剣が発したのか?
-------- 剣を従わせよ、それが剣士である ----
従わせる、剣を振るう。
「出でよ、ドラゴン・ソード!!」
自分がそう叫んでいた。
熱い。
全身が燃える様に熱くなっている、ドラゴンの炎に包まれたように。
でも剣を離すわけにはいかない。
皆が自分を見つめて叫んでいるようだが、何も聞こえない。
剣から炎が伸びて体を含め天高くまで伸びていく、金色の輝く柱のごとく。
向かって来る獣たちがようやく目を向けるが足は止まらず突っ込んで来る。
それでいい、今更逃げられては困る。
振りかぶり横一線に薙ぎ払う。
夜明けのように水平線が光り、辺りに光が満ちる。
次の瞬間轟音と振動が満たし、大地がびりびりと震えて体がちぎれ飛びそうだが足を開き剣を握りしめて必死に耐える。
体が消し飛ぶまで諦めるわけにはいかない。
辺りが見えない。
獣に当たったのか倒れたのか、あるいは吹き飛ばされたのか、何も見えない。
光りと轟音、それだけだ。
だいぶ体調が回復しました。
これからもよろしくお願いします。




