クリスタル・ロード 0148 大男二人の対戦
パイソンというでかい男は太い棍棒を片手で握る。
かなり重そうで、先の方は金具が打ち付けられ、なまじな剣は折ってしまいそうだ。
グロフの槍も太い方だが、まともに打ち合うのはまずいだろう。
パイソンもそう思うのか、ニヤニヤと見つめて軽く棒を振る。
折ると言わんばかりの態度だ。
「さあ来いよ、遠慮はいらんぞ~~」
重いはずの棍棒を楽々振り回し、ブンブンと音が辺りに響く。
観客からおおお~と、ざわつくように声が上がる。
しかしグロフは動じない、落ち着いて相手を見ている。
並みの兵士ならあれだけで気押されるところだが、彼は鍛えられているのだ。
振り回される棒の隙間を狙うかのように槍を突き出し始める。
それは早く、相手の一振りに付き三度、四度と突いて牽制をしている。
相手が踏み込んでくるとそれをかわすように回り込み、槍を振るう。
パイソンの顔の際まで槍が迫る、が、向こうも際どく避けた。
そして棍棒が振り下ろされるが空を切って地面を打つ。
ドーンと、地響きが観客まで伝わった。
皆、迫力で硬直している。
「いいぞ~~! 迫力~~~! 二人ともやれやれ~~~っ」
ジョーイのお気楽な声援が上がると観客もまた騒ぎ、ドンドンと太鼓がやかましい。
「ふ~~ん、 思ったより手ごたえがあるな?」
パイソンが少し緊張した顔で言うと手を止めた。
「ふっ そっちもまあまあだな? 振り回すだけの奴ではなさそうだ」
次の瞬間、パイソンは一気に踏み込み上段から振ってきた、速い!
だが一瞬グロフは槍を横から振り棍棒を打った。
棍棒はわずかにそれて地面を叩き、グロフに当たらない。
が、そこから横に振りつつ突いて来て、足を狙っている。
グロフは軽く飛び上がり体をひねって槍を振り出し、首を狙う。
が、パイソンは左手で槍を弾く。
手甲を付けているので切れはしないようだ。
またも観客から溜息のような歓声が上がる。
これは接戦になりそうだ。
二人とも大柄な割には動きが速いし正確だ。
見てる方さえハラハラしてくる。
当人達はかなり真剣になってきているが、周りはお祭り騒ぎなのが実に痛い。
また賭けが始まっているのでなおさらだ。
今度はグロフが先に仕掛けた。
足を狙って突きと斬りつけの連続で、相手は棍棒で応戦するが重いので振りが遅い。
遅れがちで足が徐々に危うくなり、靴が切れた。
「ぐっ」
顔をしかめて下がるとそこから血がにじんでいる。
また「おお~っ」と声が上がるが、パイソンは睨むようだ。
「小細工か? つまらんことをしやがる」
「そうか? なかなか痛そうだがな?」
グロフは平然と言う。
そして睨み合った。
「しょうがねえ、本気でやるか・・・ 死にたくなきゃ逃げろよ」
ゆっくりと息を吐いた後、体が大きくなった気がして気配が変わった。
これは、ハッタリでないようだ。
次の瞬間、棍棒がブレた。
手がぼやけるほどの速さで振るわれ、地面が揺れる。
土埃がそこら中に上がるほど地面を打ち、削り、凄い速さで攻撃される。
今までの数倍の速度だ。
客たちのほとんどには見えないだろう。
これは上級者の戦いで、既に領域が違うのだから。
二人の姿もぼやけてきている。
皆あっけに取られて騒ぐのを忘れている。
ジョーイさえもが酒を持って固まって見ているだけだ。
レフもだいぶ腕を上げたが、グロフも数ヶ月でかなり上げている。
特に速さと正確さが付いている。
以前なら負けていただろう相手だ。
接戦が続いているが、これはどちらに傾くだろうか?
しかしなかなか決まらない。
と、地面が荒れてきているのに気付いた。
棍棒が当たっているせいかと思ったが、・・・あれは槍の跡なのか?
グロフの槍が勢い余って、では無いか?
パイソンの足元が怪しくなってきた。
足を取られているか、踏み込みが伸びず、体が流れていく。
そして、甘くなった一瞬グロフが突きを放って喉元へ迫る。
踏み込みは十分、そして決まる?!
だが、槍の先は砕け散った。
棍棒に打たれ、穂先も飛んでいく。
歓声が上がり、太鼓や鐘の音が辺りに響く。
これは・・・・・・パイソンの勝ち・・・・のように見える。
だが、今のは、 寸止めだ!
止めなければあいつは喉を刺され、死んでいた。
棍棒を当てるのが一瞬遅かった、が、ほとんどの人には見えなかっただろう。
これは、 どうなるか?
審判役?は、いるのか?
「え~~~っと、今のはパイソンで? 」
戸惑いつつ言っていると、ギルド長が苦笑しながら出て来た。
やはりあの人には見えたようだ。
「あ~~、今のはだな・・・」
説明しようとするとそこに兵士が走って来る。
「敵襲だ!!」
兵士が全員に聞こえるように叫び、場が硬直した。
新連載始めました。
「異界の刀鍛冶 ~1日5分だけ最強勇者!!~ 」 です




