クリスタル・ロード 0146 またお祭り騒ぎだ
今は大変な状況である。
領地と領主が国王に狙われ、隣町の領主はその一端で死んだ。
今度は国王が死にかけてうちの領主も狙われている。
場合によっては戦になるのだ。
そうなるとこちらは強力兵器を出さざるを得ない。
他の貴族達がどう動くかわからないが、勝ったとしてもかなりの死人が出る。
それに内乱で国力が落ちれば他国が攻めてくることも有り得る。
ますます犠牲が出るだろう、そんな状況なのだ。
それなのにどうだ? これは何だ?!
今、自分の眼前ではお祭り騒ぎが起きている。
賭けだの弁当の売り子だのの声が響いて、酒を飲んでいるのもかなりの数だ。
皆ここの状況をわかっているのか?
戦の直前なんだぞ!!
「な~~に 難しい顔してんの? あ、緊張してる? クスクス」
ジョーイが、にやけながら隣に座るが、酒臭い。
手にはジョッキがあり、膝の上にはおつまみの皿が乗っている。
この人もか、抑えようとするが溜息が出てしまう。
反対の隣にフレアが座るが、こちらは大きな皿に食べ物を山ほど抱えている。
「一杯買ったよ、食べましょう はい、あ~~~ん」
フォークに刺したエビを差し出してくる・・・ これを食べろと?
さっきからお菓子の山を抱えたリーシャが前で睨んでるんですが。
「お、ずいぶん買ったな、俺にもくれ ほれ子供にはジュースがあるぞ」
レフとグロフがやって来て助かった。
「こっちはウインナーとハム、チーズだ、 いい品だぞ!」
リーシャを座らせてその両側に二人が陣取る。
わざとなのか知らないがいい配置だ。
リーシャを抑えておいてくれ。
前に置かれたお菓子を真っ先につまんで口に入れる。
大きいので噛むのに時間がかかるほどだ。
隣でフレアが「あ!」と言うが、聞こえないふりをしておく。
つまみを咥えたジョーイがニヤニヤと二人の顔を見つめる。
グロフは涼しい顔でハムを咥えてビールを飲んでいる。
レフは色々手を出して混ぜるように食べているが、あれで美味いのだろうか?
味は気にしないタイプなのか?
「それじゃー いいか~~~!! 皆そろそろはじめるぞ~~~」
ギルド長の大声が裏庭に響き、会場が熱気に溢れ皆が集中している。
どこから持って来たのか太鼓や鐘が鳴らされる。
前にも見た光景だが、どこだったっけ?
なぜこの街はこうなんだ、緊張感が無いのか・・・・・ ?
「それでは~~ 一回戦を始めま~~す、対戦者は~」
あれはギルド受付の小さい方の人だ。
いつものように笑顔で、おっとりほのぼのとした声が響く。
観客の3分の1ほどが緩んだ顔で見つめている。
あれはファンの人達らしい。
名前が告げられると「お、俺か!」と、レフが立ち上がった。
一回戦からとはせわしないが、食べたばかりだし酒が入っているのに大丈夫か?
しかも残ったビールを飲み干しているし。
「よっしゃ、行くか~~!」
剣を抜いて担ぎ前へ出ていくと歓声が上がる。
「絶対勝て~~~~!!」
隣でジョーイが叫んで実を乗り出しているが、こっちも酒を飲んでいる。
相手は誰だろうとそちらを見ようとすると、フレアの持ったエビを口に入れられた。
まだ持っていたのか?!
しかもグイグイと口に押込んで来る。
対戦相手が見えないので伸び上がるとフレアに頭を抑えられた。
「ちゃんと噛まないとダメよ、ほら」
くっつくように体を寄せてくるので、リーシャがお菓子を持って見ている。
二人とも試合が始まるのにどこを見ているんだ。
急いでエビを噛んで飲み込もうとするが、お菓子を持ってリーシャが迫っている。
グロフは構わず試合を見ているようだが、なんとかしてくれよ。
カ~~ンと鐘が鳴らされて、試合が始まった。
二人のせいでよく見えないが咀嚼しながら身を伸ばす。
レフの相手は細身の長身で、鞭の先に刃物を付けたような武器で、初めて見た。
器用に振り回しながらリーチの長い攻撃をしてくる。
手足が長い分なおさら有利のように見える。




