クリスタル・ロード 0140 呪い返し
呪術士のグラナダさんから、もっと離れろと合図が来た。
何だろう、敵兵だろうかと思いつつ小走りで向かう。
「来るよ!」
小さな声であの人が言った。
紫の炎が城の直前で広がったように見えて、そこから戻り出し速度を上げた。
「やはりね、呪詛返しだ!」
炎が横にどんどんと広がりながら向かって来る。
炎が家を超えるとき、燃え上がっている家もある・・ 火事のようだが?
これが呪い返しの被害なのか。
しかし普通の火災とは違う様で、実際に燃えてはいないのか?
炎が最初の位置まで来たとき更に広がって、風が吹きつけて来たが冷やりとして鳥肌が立ち、さらに嫌な気配が伝わった。
湿り気が有るような、沼の近くにいるような匂いまでする。
皆イヤーな顔をする。
自分もだ、これが呪い返しか・・離れているので実害は無いが気分が悪い。
「来たね、だけどこれからだよ、返しを受けて次の呪詛が発動する!」
次の? だから魔石を2つづつ置いたのか?
また炎が上がったが、今度はさらに大きく暗めの青緑で渦巻いている。
が、大きくなっただけで動かない・・・ ?
「ん? おかしいね」
グラナダが渋い顔で見ているが、まだそのままだ。
予定では城に向かって移動するはずだが。
「おい、囲まれてるぞ!」
レフが叫び、グロフやジャンヌが反応して外側を見ると、黒衣の者達がいた。
いつの間にか近くまで来ている。
気配を感じなかったのは、向こうも隠蔽術を使ったからか。
人数は向こうが多い・・・。
しかもこれだけとは限らないか?
黒衣達の中に少し大柄なのがいて、近づいて来るのが見えた。
「よ・う・こ・そ 、呪いの罠の中へ・・・ 待っていたよ、よく味わってくれ」
そう言って片手を上げるとその後ろから戸板が運ばれてきた。
戸板? 乗っているのは何だ? 暗いがよく見ると人のようだ。
一方が上げられ、戸板を立たせると・・人が磔になっているのか!
「君らをもてなすための肉だよ、晩餐会の始まりだ!」
戸板は一枚では無かった、その後ろに数枚があるのが闇の中に見えた。
「生贄かい、まったくえげつない事を!」
グラナダが老いた顔に、更に皺を浮かべて言った。
「では私は退席するがね、ゆっくりして言ってくれ、それではな」
大仰に手を振りつつ離れて行くあのしぐさは・・ 国王か?!
何度か見た事がある・ 顔は見えなかったがそうだ!
戸板から黒々とした煙が上がり始める。
これも呪い返しなのか? 先ほどより嫌な気配と匂いが伝わり気分が悪い。
黒衣達は戸板を立てたまま離れて行くと、煙が迫って来る。
「生贄で効果を上げるとはやはりあの王は、いけ好かないね」
「どうします? 強引に突破しますか?」
グロフが槍を構えるが・・相手は呪いなのだ、どうやって?
「やれやれ、これは使いたくなかったがしょうがないね・・ 少し待ちな」
懐からアイテム?を取り出し周りに並べていく、6個だろうか?
「一つ幾らするやら、希少品だよ、もったいないね~」
などと言う間に煙に囲まれて、ますます匂いがひどく気分が悪い。
吐き気がしてきた。
「呪詛神へ奉納いたす、お受け取りとお聞き届けを願い候、 発っ」
すると全身がけば立つような悪寒が広がり、先ほどの動かなかった炎が震え、たけり狂う様に渦を巻きつつ煙を吸い込み、城へと進み始めた。
同時に戸板が黒くなって消し炭のように崩れていく。
これは呪詛返しが破れたのだろう、素人にもそれはわかった。
勝ったつもりでいた国王は今どうなっているだろう?
そして黒衣の者達は? 姿が見えなくなったが・・・・・・。
「みんな、引き上げるよ、急ぎな!」
呪詛の余波を受けてか、皆顔色が悪く足がふらつきリーシャはと見ると口を抑え、何とか耐えているようなので、体を支えて歩調を合わせた。
リーシャの母さんも反対側で支える。
フレアは両手で口をおさえ、グロフに背中を押されて走っている。
「みんな遅れるなよ、もう少しだ・走れ!」
街の外まで離れる頃、かなり大きくなった炎が城を包むのが見えた。
グロフやジャンヌ以外は息が切れ、足がふらついている。
自分は何とか息を整えた。
「ふう、私をこんなに走らせるとは・・殺す気かい、まったく!」
あの人の指示で動いたのだが、誰のせいだろう?
追手が来るかと思ったが、誰も来なかった。
向こうにとって予定外だったのか、呪詛返しに忙しかったのか?
「みんなお疲れさん、後は効果待ち・だね」




