クリスタル・ロード 0135 一騎打ち
「今、俺を斬ると言ったのか? ああ?」
細身のそいつが目の色を変えた。
憑りつかれたようなあの目は見た事がある、ずっと前にだ。
あれは狂気の混じった目だ。
この遺跡に強力な武器があるのはわかっていたはずだが、それでも来るのはそれなりの奴だろうとは思ったが、まともではないだろう。
生かしておくと碌なことはない。
「言ったぞ、それがどうした?」
「お子様が言うじゃないか? 俺が誰だかわかってるのか?」
有名人なのか?
「知らないが、まともでないのはわかるぞ」
「傭兵団モリブデンの 右の牙、ゴーズ だ! と言ってもお前はすぐ死ぬが」
「盗賊団じゃないのか? 誰が雇ったんだ?」
「あ~~~、 悪魔に雇われたんだ・・死神だったかな? 疫病神だっけ?」
国王とは言わないか、依頼人の秘密かい?
「遺体は国王に送っておくよ、花束を入れて」
「どこから斬るか・決まったぞ! まずその口を一文字に、次に舌を切り取る!」
にやけながら、目がますます狂気に彩られる。
やっぱりイカレタ奴だな、戦いでは急所をすぐ狙うべきだ。
遊んでいる場合か・?
「自分も決まった、 じゃあ始めるか!」
他の兵達は武器を構えながらも、こちらの戦いを見つめている。
これではまるで一騎打ちだな? 乱戦よりありがたいが・・・罠だろうかとも思う。
向こうは大きめで厚めの剣で細身の割には軽く振り回す。
こちらは薄くて小さめではあるが、遺跡の特別製だから切れが違う。
こちらは遊ぶ気など無い。
真剣勝負など、何年ぶりだろう?
体の血がたぎっていく・・剣が全身を導くように体が動いていた。
風の音が嵐のように聞こえる。
刃が奴の首を斬る為に向かうと火花が飛んで金属音が響いた。
「うおっ!!」
敵は剣で受け止めていた。
「こいつ、本当にガキか?!」
狂気の目に驚愕が混ざっている・・が、こちらも驚いた。
奴の剣が折れていない! 遺跡の剣を受けたのに?
「やたらにいい剣を持ってるようだが、こっちも特別製でな、 竜の牙入りだ」
竜?! ドラゴンソードってのか?
聞いたことはあるが、本当にそんなのがあるとは!?
だから遺跡の剣に張り合えるのか。
「言ったろうが、俺は右の牙! 竜の牙使いだ」
偉そうな口ぶりから大仰な動きだが、横振りから来る剣は重い!
次は縦、次は斜め下からと重い攻撃が来る。
大きな敵と戦っているようだ。
見た目よりずっと力があって、相当鍛えてあるのがわかる。
だがこれほどの相手なら・・全力を出せる。
遠慮など要らない。
相手が息を抜いた時、こちらの攻める番がやってきた。
全身の気を剣に集めて飛び込んで行く。
受けられるなら、やってみろ・ 秘技 兜割り!! 頭を狙うぞ。
一段と大きな音が辺りに響き、皆が驚いて見つめる。
剣から破片が飛ぶのが見えた。
相手の剣が欠けていた、が、折れてはいない。
さすがはドラゴンソード、か。
奴は両手で剣を支えていたが、手が震えている。
「こ、この野郎! なんてやつ・だ」
その時、炎の塊がいくつか飛んできた、魔法攻撃か!?
だが「シールド!」 とクリーグの声とともにそれは防がれて、ほっとした。
「おい! 邪魔するなと言ったろう!」
男がターバンに向かって叫んでいる・あいつの攻撃か。
「押されていて何言ってるんだか、子供相手にモタモタと!」
「違う! せっかく味わってたんだぞ」
「あ~~ ハイハイ、付き合ってられないね・・・ さっさと決めるよ」
そう言うと遺跡の中に強風が吹いて、氷の矢がばら撒かれるように飛んできた。




