黄金の庭園
毎晩、彼は同じ場所に降り立つ。広大な城の庭園は、いつも黄金色に染まり、風は柔らかく、香り高い花が一面に咲き誇っている。その場所には、現実世界の常識も限界も存在しない。彼はこの場所では、絶対的な王としてすべてを支配していた。
現実の彼、川村レンは誰もが羨むイケメンだった。仕事は順調、周囲からの信頼も厚い。何をしても成功する、完璧な男。しかし、夜になると、彼の本当の自由が始まる。夢の中の王国では、彼の願いが何でも叶う。誰かを空へ浮かせたり、瞬間移動をしたり、思い通りに天候すら操ることができた。
ある夜、レンはまたその場所に足を踏み入れた。庭園の中央にある豪華な噴水の前で、彼は手を広げ、目を閉じる。すると、無数の鳥たちが空を舞い、太陽が瞬く間に沈み、夜空には無限の星々が瞬き始めた。
「やっぱりここは最高だ。」彼は口元をほころばせた。
だが、その夜はいつもと少し違っていた。遠くからかすかな声が聞こえる。誰かが呼んでいるようだった。レンは眉をひそめ、その声に耳を傾けた。
「王様、王様…」
「王様?」レンは思わず笑った。夢の中で自分をそう呼ぶ者はいなかった。だが、声は次第に大きくなり、足元の土が揺れ始めた。突然、庭園の向こう側から一人の少女が現れた。彼女は透き通るような青い目をしており、真っ白なドレスが風に揺れている。
「誰だ、お前?」レンは思わず問いかけた。
「あなたの王国にやってきた、訪問者です。ずっとここを見ていました。」
レンは驚きつつも、彼女に微笑んだ。「面白い。だが、ここは俺の世界だ。お前が来ることは許してないはずだ。」
少女はただ微笑んだ。「ここはあなたの世界であり、あなたの思いが形作った場所です。でも、どこかに隙間があるのかもしれません。私はその隙間からやってきました。」
レンはしばらく彼女を見つめ、やがて肩をすくめた。「まあいい。ここでは俺の言うことがすべてだ。お前も楽しんでいけ。」
少女はゆっくりと首を振った。「それがどうかしら。あなたの支配が完璧だとしても、すべてを支配することはできないかもしれない。」
その瞬間、空が不意に暗くなり、庭園の花々が枯れ始めた。いつもは思い通りになる夢の世界が、初めて彼の意志に反するかのように動き始めた。レンは驚き、何が起こっているのか理解できずに立ち尽くしていた。