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第五十三話 クエストボード

 夕刻、一階の出入口から見て左手にあるバーカウンターの、木でできたスツールに腰を据えて食事した俺とメアは、カウンターの真反対にある巨大なクエストボードと呼ばれる、依頼の書かれた羊皮紙が一部の隙もないくらい貼られた、コルクボードと睨めっこしていた。


 ボードには、トレント討伐やゴブリン討伐といったあまり強くなさそうなモンスターの討伐や、薬草やキノコなんかの採集、迷い犬や迷い猫の捜索、こういった類いの依頼が散見された。


 宿代や食事代で日に日に減じていくであろう手持ちのことを考えると、否応なく依頼をこなすしかないわけなので、こうしていい感じのクエスト(高額で割のいい)を探しているわけなのだが、どれもこれも安いように感じられる。


 今のところ見た限りではあるが、比較的一番難易度の高そうなモンスター討伐でも、たとえばゴブリン討伐はたったの九百ジャラチャリン、トレント討伐に至っては八百で、採集系のクエストはどれもこれも三百ジャラチャリン、犬猫の捜索系が百ジャラチャリン。


 仮にゴブリンを討伐するとしたら、三日分の宿代にしかならない。


 どうせやるなら、最低でも一万ジャラチャリンは超える依頼料のクエストに挑みたいのだが、良さそうなのがまったく見当たらない。


 そんな折、血眼になって高額なクエスト、かつ割のいいクエストを探していると、急にメアが声をかけてきた。


「夜雲! これなんかいいんじゃない?」


 言われて、「どれどれ?」と口走りながら、メアの指さす先を覗き込む。


「ん? 五万ジャラチャリン⁉︎」


 そこには、英数字で五、その真横には、電線に並んでとまる雀よろしく、零が四つも並んでいた。


 それから、数字の上に視線を転じると俺は言葉を続けた。


「井戸に棲みついた……スライムの討伐?」


 と、急に真横にいたメアがどう言うわけか顔をしかめて「あちゃ〜スライムか〜、ごめんなさい金額に目がいってモンスター名までよく見てなかったわ。別のにしましょうか……」と言った。


 その言を聞いて俺はすかさず朗々たる声でもってこう言った。


「なんでだよ! スライムってあのスライムだろ? めっちゃいいじゃん!」


 すると、メアが眉根を寄せて首を傾げる。


「あのスライムって、たしかにあのスライムだけど……本当にいいの? 後悔しない?」


 そう質された俺は、間髪入れずに「後悔なんかしねぇよ。じゃあ、とにかく、これにしよう、出発は明朝ということで、じゃあちょっくら受付に出してくるな」と言って歯に噛んで、ボードから依頼書をひったくるように取ると、そのまま意気揚々とカウンターに足を向けた。


「もの凄い自信ね……。でも、大丈夫……かしら」


 後ろ手からそんななかば感心したような、呆れたような声が聞こえたが、ちらっと目を落とした先にあった五万という数字が俺の意識を即座に掻っ攫ってしまった。

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