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第四十六話 城塞都市

 十数分、衛兵のザキオーニと鉄格子を隔てて会話をしたのち、遂に牢屋から解放された。


 結局のところ、俺は何かしらの罪を犯したから投獄されていたというわけではなく、強盗か何かに襲撃され、大怪我を負い、この都市にある商人組合前の往来に意識のない状態で転がっていたところ保護された、とのことだった。


 たぶん、俺は、俺の元いた世界でいうところの前後不覚に陥った酔っぱらいを警察が保護室で、一時保護する的な感じの扱いを受けたということになるのだろう。


 それと、怪我の治療や薬を提供してくれたということから察するに、この都市は、よそ者にも優しい、わりかし平和で経済的にも余裕のある都市であるということが伺えた。


 あと、俺の世話をしてくれた衛兵のアメル•ザキオーニ。


 顔は怖かったが、話してみると、顔に似合わず冗談好きな陽気なやつで、俺が蛇蝎視する血も涙もないオニザキとはその瓜二つの顔を除いて、似ても似つかない愛想のいい紳士だった。


 しかも、自分の身に何が起きたのか詳らかにするために、俺が倒れていたという商人組合前の往来に行きたい、という旨をザキオーニに伝えると、彼は、古びた羊皮紙に簡単な都市の地図を描いて渡してくれた。サンキュー、ザキオーニ。


 地図に目を落とすと、この『城塞都市イルアルイルリネ』は、環状の城壁に囲まれた城塞都市で、東西南北に出入口が一つずつあって、それらの城門から伸びる幅の広い往来の交差点に巨大な円形状の広場があり、その広場の北東には、領主の城があるということが読み取れた。


 また、肝心の商人組合は、地図によると、どうやら東の城門と円形の広場のちょうど中間地点の南側に位置しているということがわかった。


 俺は牢屋から出て、牢屋の設えられた官舎の敷地をあとにすると、大きな往来を道なりにまっすぐ進んで、その商人組合とやらを目指した。


 十五分ほどかけて、やっとの思いで両脇にほぼ同じ見てくれの木組の家屋が並ぶ往来を抜けて、ようやく件の広場に辿り着くと、そこにはさまざまな屋台が並んでいて、祭りのような様相を呈していた。


 食べ物のいい匂いが立ち込めるそんな広場の真ん中には、リュートを演奏する吟遊詩人的風体の線の細い男がいて、その男に群がるように集まった都市の住民たちが、感嘆の声や黄色い歓声やらを間断なく彼へと浴びせかけていた。


 そんな食べ物の匂いに、人の声、楽器の音なんかが交錯した、雑踏を突き進んで、東門へとまっすぐ伸びる往来に足を踏み入れようとしたその刹那、思いがけず、視界の端の方に巨大な尖塔のようなものがチラリと映り込んできた。


 はて? と思って、よくよく見ると、それはゴシック様式風の城であった。


 橙色の頭をした家々の向こう側に聳え立つその城は、頑丈そうな石造りで、俺に偉容めいたものを感じさせた。


「あれが領主の城かぁ〜。すげ〜な。さすがファンタジーの世界」


 そう口にしながら、なんとなく、踵を返して、石畳の敷かれた広場に目を向けると、犬のような耳を生やした人間がいることに気がついた。


「へ?」


 そう零して、繁々見つめると、その人間の身体には、犬の耳だけでなく、尾骶骨の辺りからフサフサの犬の尻尾がのようなものが生えていて、それがあたかも意思を持った生き物のように左右にゆらゆらと動いていた。


 目を疑うようなその光景を前にした俺は、あんぐり口を開けながら、思う。


 もしかして、あれが、獣人ってやつなのか? と。


 エルフに獣人、マジで俺異世界にいるんだな、としみじみそう思っていると、不意に、頭に、真っ白い髪をなびかせ、一対の赤い瞳を輝かせるメアの姿がよぎった。


 そういえばあのエルフ、俺を裏切っていないのだとしたら、いったいどこに行ったんだ? 


 まさか、人攫いならぬ、エルフ攫いに攫われたとか? 


 うわ〜ありそ〜。


 あいつ、性格と素行は、あれだけど、見てくれはいいからな〜。


 で、あれだ、あの金に目がない感じのがめつい商人の爺さんが、実はそれだったみたいな?


「……」


 冷たい川のように流れる沈黙に身を任せ、その滔々たる流れの中で、血の気がさぁーと引く音を感覚した俺は、慌てて身を翻して一気に駆け出すと、一目散にあの商人の爺さんが所属していると言っていた商人組合へと急いだ。

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