アルカ04
よろしくお願いします。
重厚な門をくぐり、コンクリート壁の長いトンネルを抜けるとそこは……花の咲き誇る見事な庭園だった。
「……何これ」
「……」
アホヅラの俺に、無言の爺さんは……馬鹿ヅラだった。
イメージとちゃうやん。
鉄壁な塀に守られているから、てっきりゴテゴテとした軍事要塞みたいな施設かと思いきや。
癒しの空間。月明かりに濡れる花園。それはそれは美しい庭園で。
ポカーンとするカニ爺と同じく、拍子抜けした俺も口をアングリと開けていた。
道に沿い徐行する車。左右に広がる沢山の色とりどりの花は背は高く。
花の隙間からときおり見え隠れするのは噴水のある煌めく池。その奥にはシンプルな造りの二階建ての建物も確認できた。
「あらまあ、これは薔薇ね。こんなに綺麗に咲かせるのは案外お手入れも大変なのよ」
「……そ、そうね」
浮かれる婆さんに眉をしかめるハルさんは適当な相槌を打つ。
背後の鉄扉は大人しめな警報音に合わせて閉まっていく。
バックミラーを凝視する。破天荒な奴等の侵入は……無い。よし。
車をとめて目視でも確認をした。
ひとまずは大丈夫と、安堵と共に肺の奥底から長い溜息が溢れた。
“ そのまま道なりに来てちょうだい ”
あの白衣のお姉さんの声だった。
どこかに設置されているスピーカーから指示をだす。
「……どうする?」
「どうするもこうするも。ワシは家には帰れんし、ここしか在らんじゃろ。行くしかあるまいて」
仰る通り。
爺さんに頷き返して、俺はアクセルペダルに足を乗せた。
小綺麗な遊歩道を泥だらけのタイヤで、愛車はゆっくりと進んでいく。
不思議な感覚だ。
外と隔離された空間はとても静かだった。
手入れの行き届いた美しいお庭だ。
なのに、薔薇に囲まれたこの庭園は何故か、人の消えた夜の学校みたいく怪しい。寒気がする。俺には少し怖いぐらいに感じたんだ。
フと運転席横の葉っぱに目がとまり、虫を見つけた。
若草色のバッタは驚いた様子でピョンと跳ねて、葉を揺らして、闇に紛れる。
仰げば満月。噴水の止まった池は鏡のようで、凪いだ水面に丸い月を写していた。
歩きの速度で愛車は前に進む。
燐光を灯す外灯は道を照らしている。耳心地のいい夏虫とカエルのコーラス。夏らしい生ぬるい夜風に撫でられ、咲き誇る薔薇達は一斉に踊りだす。
……地獄から天国だな。
数分前とのギャップに戸惑いを隠せないでいた。
必死こいたさっきまでの逃避行は嘘だったのかと思えてくる。
あるいは異世界、世にも奇妙な世界に迷い込んだのかもと、疑うぐらいに。
何にせよ、これでもう安心だな。
呑気に構えて肩の力を抜こうとしても。
ガチガチに凝り固まった肩の力はなかなか抜けず、逆に緊張感は増すばかりだ。
それもそのはず。
目の前にあるのはズタボロの愛車だ。
ドアミラーは左右、それとリアバンパーも欠損してる。
ボンネットに散乱したガラス片は煌めき。助手席には鉄砲が当たり前にある。
おかしいだろ。
カニ爺の薄汚れて疲弊しきった表情。後部座席の女子達も、ときおり笑顔を見せるが、疲労の色は濃い。
襲撃の痕跡が残る愛車とくたびれた三人が、先程までの過酷な現実を物語る。
これでもかと異常事態、緊急事態の渦中にいる事を突きつけてくる。
これからどうなるんだろう。
先行きも見えず、言葉にならない不安を抱えてしまう。出口のない迷路に放り込まれた気分だ。……そんなおり。
「……ねぇ。結局ここって何の施設なの?」
気持ちも沈みかけていたら、誰ともなしにハルさんは問いかけた。
「花と池と噴水じゃろ。ただのちびっ子公園じゃよ」
「違いますよお爺さん、ふふ。でもラッキーでしたね。このハウステンボス、ちょうど薔薇祭り開催中ですよ」
ちびっ子公園とちゃうし。あと婆さん、ここはハウステンボスじゃない。ハウステンボスは長崎にあるからな。
天然ボケの爺さんと婆さのお陰で、少しだけ気持ちも楽になった。感謝だな。
「はぁ。……一応、お届け伝票には『医科学研究所』って、なってたけどな……」
「そんなの入り口の看板に出てたから知ってるわ。私はその医科学研究所ってところが何をする所なのかを聴いているの」
「……さあな。俺も荷物届けただけだし、よう知らん。興味もねぇしな。どうせアレだろ、オツムのいい奴らが医科学をちまちまと研究する所なんだろ」
思うまま素直に答えたら。
「はあ……。バカに聞いた私がバカだったわ」
などと、俺を貶してくる。
助けた恩も忘れて、こいつ……。
イラつくこの女に、俺も負けじとイラつく。
「おい。聞こえてんぞ。悪口ならもっとボリュームを下げて喋れ」
「ボリューム? ふっ。あんたがキチンと自覚するようにワザと、聞こえるように言ったんだけど」
「……」
鼻で笑いやがった。喧嘩売ってんのか、このガキ。
おおかた怖い目にあった腹いせだろう。ツンケンとした態度のこいつにイラつきを通り越して、ムカッ腹が立ってきた。
「知ってっか? そうやって人様をバカ呼ばわりする方がバカなんだよ!」
「はあ? その発想自体、幼稚園で終わっているんですけど。図体ばかりデカくて、精神年齢は5歳児って……ほんと使えないヤツね」
こいつ、マジでムカつく。
「お前っ──」
「ねぇ、ねぇ。お婆ちゃん、知ってる? この男ったら、困っている私達を見捨て逃げようとしたのよ。信じらんない、血も涙ないゲス男よね」
「……これ、これ、ハルッ」
「いいのよ。こいつは悪魔みたいなヤツなんだから」
悪魔とな!? ぐぬぬ。
この女、まだ根に持ってやがる。しかも本人目の前にして身内にチクるか普通。
なんて陰湿で陰険なヤツなんだ!
わざわざ聞こえるように喋るバカ女に、俺の図太い堪忍袋の尾が切れた。
「んな、んな訳ねぇだろバカ。俺はひもじいハト達にも昼飯のパン屑を惜しみなく分け合たえられる、心根の優しい男だぞ! そんな優しさの塊である俺が人助けを拒むわきゃねぇだろ!」
そう、俺は立派な大人だからな。
「は!? ハトに餌? ご近所迷惑も考えずに? あんた、やっぱりバカでしょ。ハトのフン害って知ってる?」
チクリ女のクセに、ドヤ顔で俺を説教をたれてくる。
ぐぬぬ。ハトはミスチョイスだったか。目ヤニ満載の野良猫にしとけば良かった、ッくそ!
ハトも野良猫も同じ結果になるとは思うのだが。怒り心頭のジンタンは口から火を吐く勢いでやり返す。
「フン害だと、俺の方こそお前に憤慨してんだよ! お前らを見捨てようとしたとか、ありえん嘘ばっか言いやがって!」
「嘘じゃないしぃ、本当の事だしぃ。それに私は生まれてこの方、嘘なんてついた事ないしぃ」
ぺたんこの胸を張って、ホラ吹き女は堂々と嘘つきの発言をする。
ほんと腹立つ!
婆さんの前だからって、調子に乗りやがって、ムキーッ!
これを皮切りに口喧嘩は始まった。
狭い車内でジンタンとハルは烈火のごとく罵り合う。二人の語彙力態度は、まるで5歳児だ。
「……仲がいいこって」
「「よくない!」」
冷やかしてきたカニ爺を怒鳴りつけた。不本意にもこの減らずぐち女とハモってしまった。
チッ! この爺さんの目ん玉は空洞か? ビー玉か何かが嵌まってるだけか? どこをどう見れば、そうなるんだよ! ジンタンの愚痴は止まらない。
バカにお前呼ばわりされた、ムカつく。なんでこんな人でなしに文句言われなきゃなんないの! 死ねばいいのに、こいつ死ねばいいのに! ハルの愚痴も止まらない。
「これ、ハル。口を謹みなさい。仮にもジンちゃんは私達を助けた恩人なんだから……」
婆さんは胸に当てていた手を降ろし。
何か感慨深そうに笑みを滲ませ、ハルを手を取る。
「でもまぁ、ハルにも喧嘩が出来るお友達がやっと出来たのね。貴方のお婆ちゃんとして、嬉しい事だわ」
「お婆ちゃんっ、恥ずかしいこと言わないで! 私をボッチ認定しないでっ、わたしは友達を選んでるのっ、少数精鋭なのっ!それと、こんなのとは友達でもなんでも無いからね!」
こんなの……。
それは俺の台詞だ!
ガンくれてやろうとしたら、ボッチ女の殺意の満ち満ちた目と合ってしまい。
「「……ふん!」」
お互い秒でそっぽを向く。俺は日和っただけだけど……。
ちょっと顔がいいだけのこのクソ女とお友達? はあ?
悪ふざけも大概にしろってんだ! そんなもん、こっちから願い下げだ!
ハルさん同様、爺さんと婆さんの生温かい眼差しを無視し。鋼の自制心でムカつきを殺して、無事故無違反で車を走らせること数分。
よくある何の変哲もない建物の前に辿り着き。
白線の引かれた、大型トラックでも駐車できそうな広めの場所に車を停車した。
建物の入り口はガラス張りだ。
ガラス戸の奥で手を振るのは、白衣のお姉さんだ。
「この度はありがとうござ──」
「そういうのはいいから。ねえ、早速で悪いんだけど。そこの壁に立て掛けてあるデカ物をあなたの、えっとぉ。そうそう佐藤さん。佐藤さんの車の近くまで運んでちょうだい」
「え、えっ、すぐにですか?」
「すぐにお願い!」
車から降りてお礼でも思った矢先に。
薄っすらと額に汗をかいている彼女から仕事の依頼を承う。
でも『佐藤さん』か、偽名を語った事に罪悪感は残った。罪悪感を払拭すべく、俺は彼女の元へと走った。
彼女の指定した場所は入り口のホールの壁。
壁を見ると段ボールで梱包された大きな箱が三つも立てかけてあった。
「……ほんと、デカいな」
「でしょう。嵩張るから私ひとりじゃあ運べないのよ」
悠に100インチサイズのテレビが三つ四つ入りそうな、デカい箱が三箱もだ。
「アレを全部、車に?」
「そうよ。アレを全部。悪いけど何度も言わせないで、時間が無いの」
彼女自身も、台車に幾つもの段ボール箱を乗っけて運んでいる最中だ。
よっぽど急いでいるのだろう、彼女は超早口だった。
避難させてくれた恩人の願いだ、無碍にも出来ん。男を見せなアカン。
「……了っ」
「急いでいるから、お願いね」
こう言葉を残し、彼女は台車を押して駐車場まで小走り。
おし、ここは運送屋の矜持を遺憾無く発揮する場面だ。
ヤル気を漲らせて荷物を持つと、おそらく30キロにも満たない重さだった。
見た目ほどの重さもない為、爺さんと婆さんと……不貞腐れているハルさんの手を借りてサクサクと運んだ。とりあえずで俺の車に立て掛ける。
もちろん男のプライドにかけて、女子二人には力仕事なんてさせれません。段ボールが倒れぬよう抑え役で活躍してもらう。
愛車、デカ物、小荷物、そして俺らで、駐車場の白線の内側はパンパンだ。
「一旦避難所に降りるから。佐藤さんだけ、あなたは荷物が落ちないようにしっかりと抑えててね」
避難所に降りる?
どゆこと?
避難所はそこにある建物じゃないの?
俺らは困惑する。
ズレた眼鏡のまま、白衣のポケットからリモコンを取り出した彼女は、赤いボタンをポチッと。
駐車場の白線から手すりは生えてきた。
四方を囲み、ゴンドラ風になる。ガコンと地面は揺れて、俺らを乗せた内側の地面だけが地中へと沈んでいった。
駐車場がエレベーターなのね。スゲーなぁ。
頭まで沈み切った所で、元足元のアスファルト、今は天上が、ぶ厚い鉄板で塞がっていく。
壁に設置さたライトが下から上へと通りすぎてゆく。手持ち無沙汰で呆然と眺めていると。
「ほう〜」
「へぇ〜、面白い!」
いきなり視界は開け、爺さんとハルさんは感嘆の声を発し。
ビビりの俺は咄嗟に手すりを掴んで、目を見張った。
壁沿いのレールを走る地面。
機械音を響かせて順調に降りてゆく。
ひんやりとした鉄製の手摺りの感覚に、それを掴む手に力が入った。
視界を埋めるのは、煌々としたライトの照らす倉庫か何か。広さでいえば、テニスコート二面分もある地下空間。
通ってきたトンネルをもう一度見上げれば、厚みのある鉄板は次々と、何層にも続いて天井を塞いでいる。そして最後の一枚がこの地下空間の天井を閉じた。
「……まるで、漫画かアニメの世界だな」
感じたままの感想は、唇から漏れ出す。
固まる俺らに白衣の彼女はクスリと微笑み。
「ようこそ。『アルカ04』へ」
ズレた丸眼鏡直しながら彼女はここを、そう紹介したんだ。
♢
怖い、怖い、怖い。
お願い、誰か助けて!
駅前から離れた住宅地のひとつ。
三階建ての『山田銃砲店』はそこにあった。
三階部分の自室にて、この子は一人っきりだ。布団を頭から被り、歯の根をカチカチ鳴らして震えていた。
部屋のすりガラスに映るのは赤ばかり。
外からは聞こえる爆発音や破裂音は止むことはない。
誰かの辛そうな悲鳴や怒号が壁をすり抜け弾丸となり、早鐘のように打ち付ける心臓を容赦なく貫いていく。
怖い、怖い、怖い。
お願いだから誰か、僕に気づいて!
布団を被って祈るだけの存在だった。
何もできない、何をすればいいのか分からない。
息を殺して、ただただ嵐の過ぎ去るのを待つだけだ。
“タン、タン。タタタ、タタタタッ!”
“チュドオオン! チュドオオンッ!”
“ヒーン。ドン、ドンッ、ドドオオンッ!”
“ギャー! ぎがががが! おわっ! ぐぼおおおおおっ!”
“チュン、チュン、タン、チュンチュンッ!”
流れ弾が自宅を掠めた。
音だけでも恐ろしくて身を竦める。
尿意を催すも、怖くてベッドから降りれない。布団の中で股ぐらに両腕を突っ込んで尿意を我慢した。
スマホは突然ショートした。
もう、泣きそうだった。
ググれないから状況が見えない。何が起きているのか分からない。現状は理解不能のままだ。
ただ、映画で観たことのある『戦争』そのものだと、それだけは理解した。
“ ドォオオンッ! ガラガラガラ……”
「っひ!」
悲鳴を堪えた、隣家は崩壊、揺れる自宅、跳ねた体。そして……。
生温かい液体は股間と両腕を濡らす。
粗相をしでかして子供は、声を押し殺して泣き出してしまった。
誰か、誰でもいいから助けてよ……。
嗚咽と共に、布団の中にアンモニア臭は広がっていく。
子供は匂いの沁みた布団を握り締めて、半分にも満たないペットボトルを抱きしめた。
僕は死にたくない。まだ、死にたくない!
何を思ったのか……。
「ふん〜♪ ふふん〜♪ ふん、ふふん〜♪……」
耳を塞いで音を遮断する。
頭を空にして一切合切の恐怖を追いやる努力を始めた。
僅かな勇気を振り絞りこの子は、母親がよく口ずさんでいた鼻歌を歌い、妄想の世界に浸る。
幸せだった記憶にすがり、現実逃避をしたんだ。
大好きだった母親が語ってくれた『ヒーロー』の存在を、頑なに信じて──
♢
「……アルカ04」
俺のオウム返し。
白い壁、コンクリート。
懐かしい匂いがした。開店セールに釣られて、養護施設の皆んなと訪れたオープン初日のショッピングモールの匂いがした。
「ササ、早く降りて、降りて。お婆さんとギャル子ちゃんは小荷物をお願いね。お爺さんと佐藤さんは大きい荷物とそのボロ車、あなたの車を移動して」
地下に降り立ち。
休む間もなく彼女は、俺達に指示出してテキパキと働く。
「……失礼なひとね。私、これでも優等生で通っているのに、ギャル子じゃないのに……」
ハルさんは頬っぺたを膨らませて、どうでもいい事にブー垂れる。
「気に触ったら、ごめんなさい。でも、あと三往復はしたいから本当に時間が無いの」
膨れっツラのハルさんに、おざなりな弁明をする白衣の彼女。
今気づいたんだが、彼女の胸のネームプレートには『戸田』と書かれていた。という事で、早速。
「あのぅ、戸田さん。少しでいいから、この施設の説明をして欲しいんだけど……」
情報は大事だ。安全とは分かっているが、100パーじゃない。もしもの可能性だってあり得る。
「あ〜、そうね……」
面倒そうにしている。
だが、この人は、ほぼ初対面の人だ。
信用はしてない訳じゃないけど、信頼はしていない。
もしもで、悪人でマッドサイエンシスでサイコパスかも知れんし。監禁、軟禁でもされたら溜まったもんじゃない。
俺が選んだ場所だから尚更だ。
俺だけならともかく、他の三人を巻き込むのは流石に気が咎める。
「……でも、なんで私の名前を知ってるの? はは〜ん、佐藤さんは私の胸ばかりを見てたのね、いやらしい」
白衣に隠れた豊満なお胸を、シナを作り隠しだす戸田さん。ハルさんも犯罪者でも見るような目つきで俺を睨んでくる。
……解せぬな。
またか。
ウンザリするよ。
女共の貧弱極まりない発想。
男と見れば誰もが性欲の塊、痴漢の常習犯だと決めつける。個々を無視したその発想自体、俺には無性に解せぬのだ。
「ち、違えし。ぉ、オパーイなんて、見てねぇし……」
我ながら弱っ!
自分にガッカリだ!
だがしかし。
ああ、ガン見してたさ!
俺はオパーイを見てたよ! 悪ぃかよ!
これは男のサガだ。ロマンシング、サガだ!
実際そうだし。瞼の裏に留めるだけで満足できる、超絶自制心の塊である俺ですら、弁解は弱めになってしまう。
魂で叫びたい、口惜しい限りだぜ!
グーを握り、ほんのり頬を染めるジンタンに、軽蔑の眼差しを向ける女子ふたり。
「うぉっほん! ……して、この施設はどうなっておるんじゃ」
話しが進まんと、業を煮やした爺さんは戸田さんに問い掛ける。
「あら、失礼。コホン。……そうねぇ、ここは、地上はウイルス研究のラボで地下は見ての通り、核シェルターっ事ね」
簡潔すぎるだろ!
眼鏡をあげて、背筋をシャンと伸ばす戸田さんは仕事やり遂げた雰囲気を醸す。
「もっとも、まだ稼働前だけどね」
こう付け足し、ペロリと舌出しておどける彼女はちょっと可愛い。
稼働前か、確かに。
造りは頑丈そうなこの場所は、殺風景で何も置いてない。倉庫風なのに荷物と呼べる物は俺らの周りにある物だけ、これだけだ。
周囲を見渡しても。真正面の壁に非常灯の灯る非常階段と、隣に謎の扉は設置されていているだけで。あとは笑っちゃうぐらいの伽藍堂だ。
彼女は核シェルターとか宣ってはいたが、俺から言わせて貰えば、駅ビルなんかの地下駐車場と同じに見える。
「ほら佐藤さん。いつまでもボサッとしてないで、さっさと昇降機からあなたのボロ車を降ろして!」
とうとうボロ車って言い切ったよ、このひと。
ハルさんもそうだけど、この人も口悪いよな。
憧れは何処へ、女子に抱いていた柔い幻想は脆くも崩れていく。
戸田さんはおふざけタイムを挽回するよう、せかせかと荷物を降ろしている。
彼女には悪いけど、これだけは言わして貰わんとと、俺は勇気を出して前に出た。
「……あのう」
「なによっ!」
戸田さんにめっちゃ睨まれた。「ひぃ」とか、言っちゃたよ。
「い、忙しいとこすんません。えっとぉ、そのぅ、とりあえずコレで良くないっすか?」
「は? 何が!」
「いや、だから。無理して荷物の搬入を急がなくてもいいんじゃないかなぁ、なんて」
「何を言ってるの?」
「何って。外は暴漢だらけですし、妙ちくりんな生き物も暴れていますし。せっかく避難出来たんですから、無視をせずに安全を確認してから荷物を取りに行っても、遅くはないかと……」
媚びるような俺の提言。
「だから、何を言っているよさっきから」
彼女と話しが噛み合ってなかった!?
「暴漢? 妙ちくりんな生き物? あなたは何を言ってるの?」
「いや、だって、知ってて招き入れてくれたんじゃあ──」
「残念ながらあなた達の事情は知らないわ。あなた達こそ……面倒だから、コレを見てちょうだい」
そう言って戸田さんは、白衣のポッケからスマホを取りだし、民報某局のニュース映像を開く。
「……ます! 緊急速報です! ただいま国会議事堂は未確認飛行物体に攻撃されています! 陸海空自衛隊基地および、アメリカ軍基地も同様に攻撃を受けております! 国民の皆様は速やかに命を守る行動を起こして下さい。自家用車による避難は避けて、徒歩による避難をお願いします! 緊急速報です! ただいま国会議事堂は──」
なにコレ……。
ニュース映像に衝撃を受けた。
戸田さんのスマホには、マイクに唾を飛ばす男性キャスターと、目を疑うほどのライブ映像が流れていたんだ。
「ファイク映像……」
「……違うわ、リアル映像よ」
ヘリからのライブ映像だ。カメラは夜空に無数に飛び交う三角の物体と黒煙をあげる国会議事堂を映す。
パンと画面は代わり、今度は三角の物体にスクランブルをかける日の丸戦闘機だ。
戦闘機のミサイル攻撃は三角の物体には全く当たらず、外れたミサイルはぐるぐると回って街中で爆発、ビルを破壊する。
三角物体の不可視な攻撃だった。日の丸戦闘機は蚊取り線香を浴びた蚊のごとく、次々と墜落していく。
また画面は代わり、カメラは車道を埋め尽くす戦車隊に標準を向けた。
かまびすしい発射音。
車体は跳ねて、戦車は白煙に包まれた。
打ち上げ花火さながらに弾丸砲弾は闇を斬り裂き、三角物体の前で直角に折れ曲がる。次の瞬間には、謎の三角飛行機から閃光弾をくらって戦車隊は木っ端微塵となった。あっけなく鉄屑にされた。
新宿摩天楼の上空。
月夜を覆う三角飛行機。
都庁、タワマン、高層ビルは折れていた。スカイツリーも折れていた。火の手は彼方此方であがり、下町は燃え盛る。
羽田から飛び立つジェット機も、政府専用機も民間ヘリも落とされ、人々は逃げ惑い、国道は車で溢れかえる。
「これって……」
「……戦争よ」
戸田さんの一言が全部だ。
燃え広がる炎は真っ赤な竜巻となり、大都市を蹂躙する。悪夢の光景、まさしく地獄絵図だ。
大都市東京は終わった、日本の終わる映像だった。
そして……。
俺はライブカメラの捉えた物に目を見開いた。
フジのお台場海上。自由の女神の先。
巨大すぎる物体に目を奪われた。
直径数キロはありそうな巨大な物体は微動だにせず、空中に鎮座している。
理想的な三角のかたち。所々から光りを放つ馬鹿デカい飛行物体。俺には浮遊するその物体はSF映画にありがちな、宇宙母艦そのものに思えた。
「嘘でしょう……」
巨大船を凝視し、信じらんないとハルさんは絶句している。彼女同様、俺らも唖然とする。
「これで、分かったでしょ。ここだって、いつ攻撃対象にされるか判らないんだから。急がなきゃ、私の大切な物まで壊されたちゃう」
ニュース流しっばのスマホを俺に預け、戸田さんは腕をまくってせかせかと動き出す。
「だったらアレじゃあ。ワシらの遭遇した牛だかゴリラだか分からん生き物も、此奴らの仲間ってことかいのう」
「じゃあ、島さんや滝さんやご近所の皆さんが急に変になったのも、その所為って事なの?」
ピクリと戸田さんの動きは止まる。
「知り合いが変になったの。その話し、もう少し詳しく教えてちょうだい」
爺さんと婆さんの会話に彼女は食いつくいた。
婆さんの説明に耳を傾ける彼女。俺もニュースはながら見で婆さんの話しに聞き耳を立てる。
「……あっと、ここで海上にいた巨大飛行物体は光線を放ま──プツン」
いきなりシャットダウンした。
キャスターの驚愕の表情を最後にテレビ中継は強制終了、画面は真っ暗となる。間を置かずに。
「うおいっ! どういうこっちゃ!」
「ハル、ハルはどこっ!」
「お婆ちゃん! あたしはここよっ!」
核シェルター内の電気は一斉に消えた。
「おおっ! ……」
「っきゃ!」
突然の事にパニくる俺ら。
暗闇の中ワチャワチャしていたら、誰かが俺の足にすがりつく。
数秒置いて。
ポンポンとオレンジの非常灯はシェルター内を柔らかく照らした。どうやらこの施設には、ちゃんと停電時での機能は備わっているらしい。
未だ右足は圧迫されたまま。見上げていた視線を足元に落とすと。
「……なによ。文句でもあるの?」
気の強そうな黒い瞳を目が合った。
ハルさんだ。
彼女はパッと俺から離れて脇目も触れず婆さんに抱きつくと、子猫みたい甘えてる。
「……胸さえあれば、最強なのになぁ」
最低な感想をこぼし、俺は鼻の下を擦った。
でも。アレは……。
記憶に新しい、先程のライブ映像だ。
カメラが一瞬だけ捉えた動画。最後の場面を思い起こして俺は考えあぐねる。
緑のカーテン? オーロラ? かな。
キャスターに光線と表現されたのは、緑色で半透明の膜だった。
最後の最後にカメラが映したのはソレだ。刹那に放映されたこの膜を思い出して……って。
「えっ、えっ、なんで、なんでっ!」
もはや悲鳴だった。
俺は思考を中継。声を辿ると、ズリ落ちた眼鏡も気にせず、戸田さんはリモコンをカチカチしながら焦りまくっていた。
「どうしたんすか?」
「リモコンが、リモコンがっ、昇降機が動かないの!」
シューティングゲームに興じる子供みたく、涙目の戸田さんはリモコンのボタンを連打する。
「電源が落ちただけっすから、そのうち復旧しますって……」
気休めだがな。
戸田さんを落ち着かせようと適当な事を言う。
「電源……。電気……。電子機器の故障……あっ!」
固まる戸田さん。
ボタン連打も止まり、ホッとする俺。
しかし俺の早とちりだ。
戸田さんは落ち着いたんじゃない。
停電の原因を、彼女なりの答えを導き出していたんだ。
「……HEMP攻撃」
「は?」
戸田さんはポツリと呟く。俺からスマホを奪いとる。タッチパネルを操作して、また止まる。
「つあ〜っ、終わった〜! 私の電子顕微鏡〜、死んだ〜。まだ一回も使って無いのに〜っ!」
結果、背中を丸めて嘆きだした。
なんのこっちゃと、情緒不安定な彼女に恐る恐る近寄り、お声をかける。
「……だ、大丈夫っすか?」
「……佐藤さん。……私は死にました」
何言っての、このひと。縁起でもねぇ。
彼女は頭を抱えて膝から崩れ落ちる。
優しさの塊でもある俺は、澱んで沈みきった空気を変えようと、努めて明るく話題を振る。
「あー、HEMなんちゃら攻撃ってなんすか?」
「……HEMP。高高度電磁パルスの略。スマホにデリンジャー現象(無線通信の阻害)が起きたから、そう思っただけよ」
ブスッとした言葉が返ってくる。
俺も意味不明な単語が並び、言葉に詰まる。
「あのぅ。その電磁パルス攻撃って体に害はあるんですか? 例えば、放射能みたく……」
ハルさん、ナイスフォロー。
空気を読まない彼女に救われたぜ。
正直、言ってる意味が分からんから、質問のしようが無いってヤツな。
「……人体に影響を及ぼした報告は無いわね。……ただ」
ただ。ただは無料って意味だな。ゼロ円って意味だな、俺にも理解できたぜ。
「ただ、電子機器を使用しているあらゆる物を損傷、もしくは破壊するわ」
「ゼロ円で、あらゆる物を破壊すんの……」
ショッキングな事実に、思わず心の声が出ていた。
「ゼロ円? まぁ、そうね。自動車もスマホも……」
……車も!? マジか。俺の流星号がぁぁああ!
ふざけている訳では無いが。俺も戸田さんに倣い、頭を抱えて膝から崩れ落ちていた。
「それだけじゃないの。……まずは、発電所と送電システムなどの電力供給インフラは死ぬわ。使用されている電子機器の電子素子や部品、あるいは変圧器などに高電圧をかける事で物理的に破壊するの」
「んな!? オール電化の時代は終わるの!」
「……そ、そうね。佐藤さん、落ち着いて……」
ミイラ取りがミイラになる。戸田さんを元気付けようとして、俺がとんでもなく落ち込んでしまった。
「……ゲームも出来んし、エッチな動画も、エッチな動画も、エッチな動画も……。すんません。どうぞ、続けてください」
半分ヤケになり俺は呟く。
この世の終わりと、項垂れる俺の肩に手を置いた彼女は。
天使のような微笑みを溢して立ち上がり、ソッと眼鏡を直し。
「コホン。次に考えられるのは情報システムの損傷か破壊ね。鉄道、航空、船舶、バスなどの運用システム。金融、銀行システム。医療システム。上下水道システム。建造物、維持管理システム。電力を使用するその他のインフラも損傷か破損。使用不能になるわ。……あとは」
まだあるのかよ!
「政府、各省庁、自治体管理システム。自衛隊の指揮、統制、運用システム。警察の犯罪捜査システム。企業の各種業務処理用システム……」
朗々と語る戸田さんはHEMP攻撃で影響を及ぼすであろうシステム、組織体系を思いつくまま並べていく。
要は国や自治体、一般企業などの全ての機能と活動が麻痺し、国全体が大混乱に陥ると言いたいのだろう。
「ハハ、ハハハハ……」
なんだろう、空笑いが出てきたよ。
ニュースで見た崩壊する大都市の映像。
謎だらけの未確認飛行物体の襲撃と侵略。
人を狂わす訳わからん奇病の蔓延と、極めつけに散弾銃すらへっちゃらな馬鹿強い生物の出現。
あ〜、俺の日常が壊れていく。可愛い女の子とキャッキャッウフフの俺の未来は、無情にも閉じていく。
「……終わった。もう、お終いだ」
嘘みたいな現実が頭の中で渦巻いて、ごちゃ混ぜになって、結論が口から漏れ出ていた。
「なに言ってんのよ。勝手に終わらせないでよ」
「……へ?」
諦めかけていた俺に、戸田さんは強い口調で言葉をぶつけてくる。
「あなた聞いてた? 冒頭から私はここを、核シェルターって言い続けているのよ」
「……はぁ」
「はぁって……。HEMP攻撃なんて、侵略者共の特別な攻撃でも何でも無いの。私達でも人為的に発生できるのよ!」
「えっ、そうなんすか?」
「そうよ、やり方は至ってシンプル。核弾頭を積んだミサイルを飛ばして高高度上空、まぁ400キロぐらいの上空ね。そこで核ミサイルをドカンと爆発させればいいだけ。ね、簡単でしょ」
簡単なんだろうか……。
よく分からんが、優しく微笑む彼女は恐ろしい事を平然と言ってのけ、俺を勇気づけようとする。
「何度も言うようだけど、ここは核シェルターよ。放射能もそうだけど、電磁波対策もバッチリの施設なの。ちなみに20年以上前の車、いわゆるキャブ車って呼ばれる車はまだ使えるはずよ。それ以外の新しい車はオシャカだろうけど。あなたのそのボロ車……芸術的な車は何年車?」
「10年落ちの車で、三万っス。……電磁波でもう死んでるっス」
彼女の説明ならとっくにアボーンのはずだ。
気に入ってた愛車だけに、落ち込みは半端ない。
「ふふん。だから、ここを何処だと思っているの? あなたのちっちゃな脳味噌でも解るはずよ……」
いちいち癪に触る言い方だが。
俺は弾かれたように真新しい床を蹴りつけた。愛車に近寄ると電子ロックはピピッと解除される。
泥だらけのドアを開け放ち、スターターを回すと……ドルン!
元気にエンジンは回り、リズミカルにアイドリングの音を奏でた。
「はあ〜〜〜〜」
シートに深々と腰掛け、今日一のデカい溜息を出していた。
「良かったわね、佐藤さん。それと、ついでに昇降機からその車を降ろしてくれるかしら?」
「ウイッ!」
どうも俺は、自分で思っている以上に単純な生き物らしい。
戸田さんの回りくどい言い方で、かなりの元気を貰ってしまった。戸田さんはいい人、感謝、感謝だ。
ホクホクの俺である。
色んな意味で、恩人でもある戸田さんに言われるがまま車を移動した。
佐藤さんか……。そんな善人でもある彼女に対して偽名を使ったことに、また心が痛む。
「戸田さん。そいつ、佐藤って名前じゃ無いですよ」
っ、あの野朗!
近々白状しようと思っていたのに、チクリ魔のハルさんにチクられた!
「佐藤さんじゃないの?」
「……」
困惑する戸田さんはビックリ眼だ。
「じゃあ、あなたは誰なの?」
戸田さんの細い眉毛はキリキリと吊り上がっていく。……居た堪れない気分だ。
「つあ、すんません! 本名は立川仁太と言います! みんなからは親しみを込めて、ジンタンって呼ばれるケチな野朗でつ!」
マッハで車から下車し、仁王立ちの戸田さんに神速で土下座をぶちかます。
「……立川さん。……あなた、最低ね」
胸に特大の杭を打ち込まれた気分だ。最悪だ。
「はい。返す言葉もありません」
遠くから下品なゲラゲラ笑いは聞こえてくる。だが、今だけは相手をしている余裕は無し。ひたすら謝罪に没頭する。
「……まぁいいわ。謝罪はもういいから。その代わりにキッチリと働いて貰うからね。私にあなたの誠意を見せてね♡」
──惚れてまうやろー!
「ガッテンでつ!」
戸田様の大人な対応に救われた。
それに比べて、チクリ魔のくそガキ。
まだゲラゲラ笑ってるよ、アイツ。マジでどうしてくれよう。
仕返しは後日必ずと胸に刻み、俺は戸田様の後を手下のごとく付いていく。
と、その時。
“ドドンッ! ミシミシ……”
「ッきゃ!」
「うおいっ!」
「っな、なにっ、何なの!?」
「ハルッ、お婆ちゃんに掴まっとき!」
シェルター全体は揺れた。
ハルさんと婆さんはプチパニックだ。
戸田さんは天井を見上げて様子を窺い、カニ爺は車の助手席から散弾銃を引っ張り出す。
これは地震じゃない。
爆発に思い当たるのはひとつだ。
真っ先に頭に浮かんだのはヤツ。犯人は分かってる。
──あの緑色の化け物が来たんだよ、ここに。
” ドン、ドドンッ! ミシミシミシ……”
「っいや!」
「ハルッ、ハルッ!」
「背水の陣じゃ! どっからでもかかって来い!」
「戸田さん! ここって核ミサイルの直撃にも耐えられるんだよな!」
「は? いくらなんでも直撃は無理よ!」
“ドン、ドンッ! ガラガラ……”
「キャッ!」
「クソがっ!」
ウーファーか!
って、ツッコミたくなるぐらい下っ腹に
響く重低音、破壊音。壁に立てかけたデカい段ボールはバタバタと倒れ、小荷物はカタカタと騒ぐ。
“ドドン、ドンッ! ガラガラ、ミシミシ……”
「何なのよ、コレ!」
小箱を防災頭巾代わりに頭に乗せている戸田様は疑問を呈する。俺は戸田様を守るナイトのように、ピッタリと背中をくっ付けた。
「……たぶん、ゴリラ牛。緑色の破茶滅茶なヤツ!」
戸田様の質問だ。俺が答えてやったさ、俺達の見たまんまのヤツの印象を。
“ドン、ドン、ドンッ! パンッ、ミシミシミシ……”
「ゴリラ牛!? キャッ!」
眉を盛大にしかめて、戸田さんはしゃがみ込んだ。俺は戸田様に覆い被さり、身を呈して守る。
ハッチャケてんなぁ、ゴリ牛のヤツ。
あーぁ。この調子なら、今夜はぐっすり眠れそうにねぇなぁ。
人の迷惑も考えろよな。無抵抗の相手をイジメて何が面白ぇんだよ、ったく。緑牛のクセによう、もう。
あーっ、さっさと帰ってキンキンに冷えたビールが飲みてぇ〜っ!
ジンタンの願いも虚しく。
砲撃は間断なく続いている。
アルカ04は防壁のみで耐えていた。
揺れる地下施設の倉庫にて、怯える四人を横目この男は……。
「スンスン、スンスン、ほわわわ〜」
キンキンに冷えたビールを諦め。
鼻の下を伸ばし、役得とばかりに、この馬鹿は。
ギンギンに血走った目で戸田さんのふわふわの髪から漂う、女性らしい甘い香りを堪能していた。
ありがとうございました。