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雨の日は傘を忘れて  作者: 菱木 青
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 ポツっと、窓に一本の滴る水の筋。

 

 ーー雨だ。


 そう思い、窓を開けて校舎の中庭に目を落として鼻から深く呼吸する。乾いた土や木が水を吸う匂い、アスファルトから出る蒸気の匂い。まだ雨音はないけど確かに降っていた。


 雨の匂いだ。

 一日の疲れが鼻から息を出すたびに薄らぎ、雨の線は数を増した。

 この降り出した時が一番「良い」と声にでて雨音の中、黒板消しを打ち鳴らした。


 生徒玄関で外履きに替え、出入口に並ぶ一つの口に二、三本は入っているだろう傘入れには目もくれず冷たい雨に打たれた。じわじわと雨水がワイシャツに溶け込むのがわかる。

 学校を出た通りは、陸上部が外練習ではないかぎりいったて人通りが少なくちらほら僕と同じ帰宅部が片手に傘を広げ歩いていた。


 急な事ではでないはなく、随分前から今日が雨であることは余程の忙しい人やテレビを見ていない人以外は知っていたと思う。僕も同じく今日が雨だという事は知ってもいたし、忘れてもいなかった。

 雨の温かみを感じる頃、コンビニが見えてきたが通り過ぎる。寄りたい気持ちもあったが濡れたままで店内に入るのは申し訳ないと、この奇怪な行動とは逆に最低限の理性が僕にそうさせた。少し過ぎたところに何でも屋みたいな昔からある店先の所に、自動販売機があった。

 そろそろ初夏の入り口に差し掛かる頃には販売機のメニューが一新されるが所々色も褪せ、誰も買わなそうな飲み物が列をなしている。

 僕はエールの気持ちも込めて『頑張る君にホットなココア』を選んだ。


 そこからしばらく道なりに辿っていくと海が見えてくる。

 夏以外でも人がそれなりにいる海岸でヒスイやガラス石とか探したりするイベントとかもあるくらい少しは有名な海岸らしくて、たまに雨の日でも探す人がいるみたいだが今日は誰もいない。

 それとない石を手に取っては戻しながら石がきしみ合う海岸を歩く。

 ふと、波打ち際に目を向けると思わず「えっ」と声に出してしまう。


 

 それが誰もいない海岸に人がいたからではなく、同じ学校の制服だったからでもない。ある意味正しい。僕みたいな奇怪なことをしていたのではなく正しいのだが不思議でならなかった。



 だって。

 ーー彼女のところにだけ、雨が降っていなかったのだから。


 







 

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