伝説になっていた私
「ねえ、コロちゃんさ、伝説になってたよ」
ある日友人がそう言った。
私に「伝説」になる心当たりはない。
まだ生きているし。
「……何それ。どんな?」
友人が、私と全く関係ないところで私の話しを聞いたそう。
数人で居た時、一人が「ある人が…」と話し出し、他の一人が「知ってる!その人伝説の人!」と言ったらしい。
そしてその場で「凄い伝説の人」の話しで盛り上がったと。
そしてそれが私の事だったと。
どんな事で伝説になっているか。
それは、詳しくは話せません。
何しろ伝説になっているくらいだから、身バレが怖い。
(ちょっとコレ!伝説っぽくない?笑!)
でも、それでは「伝説」が何の事やら全くわからないので、マッチ売りの少女で例えます。
(物売りの伝説ではないです)
ある日、コロンはマッチを売りに街へ向かいます。
しかし既に世の中はマッチが溢れていました。
しかしコロンはマッチを売らなければ家に帰れません。
コロンは街の一軒一軒、全ての家の扉を素足で歩いて回ります。
「すみません、マッチを…マッチを買って下さい…」
「間に合っているよ!」
「悪いね、うちにはマッチは必要ない」
話しを聞いてくれる人や、マッチが必要ない理由を話してくれる人はまだ良いです。
門前払いや、心無い言葉を浴びせられたりもしました。
それでもコロンはマッチを売って歩きます。
何故それほどの目に遭ってもマッチを売るのか…
その姿は皆の胸を打ちました。
ある朝、コロンは雪に埋もれて…
友人が言います
「…と、まあ、こんな感じに伝説になってたよ」
「へぇ〜!それ、10年くらい前の話しだね。そしてずいぶん美談になってる笑」
聞いてみたところ、確かに私の事だった。
でも違う。
実際はこうだ。
マッチを売らなければいけないコロン。
一軒一軒回るなんて考えず、電話帳を出して片っ端から電話をかける。
「すみません、マッチを買って欲しいんですけど…」
「ウチはいらないよ」ガチャっ!
相手が電話を切ると「ばーかばーか!誰がお前なんかにマッチを売るか!」と、悪態をついてから、また違うところに電話をする。
ということを繰り返し、マッチを買ってくれる家を見つけてからマッチを持って行った。
これが真相。
どうしてそんな美談になったのだろう?
誰がそんな風に盛って言いふらしたのだろう?
伝説の方が、お涙ちょうだい、ドラマチックに仕立て上げられていた。
きっと皆んなが望んでいるのはそっちなのだろう。
きっと「そうであって欲しい」のだろう。
ならばわざわざ否定する必要はない。
「それ、否定した?」
「ううん。何も言わなかった」
「ありがとう、じゃあそのままにしといて」
「わかった」
私が伝説だったと聞いてから、10年近く経っている。
もう誰も伝説を覚えてなさそうに思う。
ちなみに、つい先日「女神」と言われた笑
伝説になったり、女神になったり。
私の日常は結構忙しいんだな…と思う。