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悪役令嬢のレッテルを貼られたので、婚約者に言い寄るご令嬢をシバこうと思います。

 



「貴女とのお付き合い、やめさせていただきますわ」

「クロエ様って、小説に出てくる悪役令嬢のような、陰湿なイジメをされるのですね? その真っ黒な髪にお似合いですわね」

「あら、よくこちらにお顔を出せましたわね。マリア様にあのような仕打ちをしておいて」


 ――――悪役令嬢⁉




 ◇◆◇◆◇




 事の発端は、王国主催の舞踏会で婚約者であるハビエル様とダンスを二曲踊ったあと、壁際で少し休憩を取っていた時でした。




 ハビエル様は王国騎士団の若きホープ的存在。シルバーに近いブロンドと、珍しい薄紫色の瞳、男らしいのに甘い笑顔という見た目もあり、老若男女に大人気です。

 我が侯爵家とハビエル様の伯爵家の関係などもあって、幼い頃から親に婚約者はハビエル様だと告げられていたので、私達は何も疑うことなく、仲睦まじく過ごしていました。

 社交界デビューも済ませ、『来年には結婚式を』という事になっていました。

 ……なっている、はずでした。




「まぁ! ハビエル様とマリア様って、とてもお似合いね」


 ベビーピンク色のふわりと揺れる髪、金色(こんじき)に光る宝石のような瞳、ぷるりと柔らかそうで小さな唇、それを引き立てる紺色のプリンセスラインのドレス。

 ハビエル様がシルバーブロンドの髪をなびかせつつ、少し戸惑ったようなお顔でダンスをしていたお相手は、この日初めて見る方でした。


「……本当に、綺麗な女性ですね。どのような方なのですか?」

「あら、知りませんの? いま話題の中心にいらっしゃる女性ですのに」


 マリア様は、先代国王陛下の落し(だね)として最近引き取られた方なのだそうです。

 今は王家の血族であるゼアック伯爵家で淑女の教育を受けていて、そのうち王族の一人として迎え入れられるとのことでした。


「こんな童話的展開(シンデレラストーリー)、なかなかありませんわ」

「あら、マリア様のお話?」


 今とても熱い話題らしく、周りにいた方々もマリア様の生い立ちやウワサに花を咲かせています。

 そんな話に軽く耳を傾けている間に、ハビエル様と彼女が四曲目も踊り始めています。

 美しい二人が体を寄せ合いくるくると舞い踊る様は、仲睦まじい恋人同士のようにしか見えませんでした。


 普段、ハビエル様が社交の為にどなたかとダンスしなければならないときは、多くても必ず二曲でやめていました。なのに今日は……。


「あぁ、本当にお似合いのお二人ね」

「ハビエル様、いつもよりいい笑顔ですよね」


 婚約者である私の前で、皆が口を揃えてそう言います。

 今までも、妙な妬みからの心無い言葉はあったものの、こういった言われ方をするのは今日が初めてでした。


 なんとなく居心地の悪くなった会場を早めに辞去し、馬場に停めてある我が家の馬車に向かっていると、ハビエル様が追いかけてきました。


「クロエ!」


 体調でも悪いのか、と心配そうなお顔で聞いてくれますが、私は首を横に振るだけで何も言えませんでした。

 駆け寄って来てくれた彼から香る他の女性の香りで、お腹の中がもやもやします。




 舞踏会の日から二週間ほどして、仲の良い友人が家に訪れてきました。

 サロンでお茶でも……と思いましたら、顔を合わせた瞬間に、とても心配そうな顔をされました。


「クロエ様、大丈夫ですか?」

「へ?」

「ハビエル様と婚約解消したとお伺いいたしましたわよ。あんなに仲睦まじかったのに!」

「え……」


 ――――婚約解消⁉


 私は何も聞かされていません。ちらりと入口の横に控えていた侍女に目配せをすると、『何も知りません』というジェスチャーをしたので、たぶん誤報というか嘘の噂が流れているのでしょう。


「そのような事実は無いのですが」

「え? でも……あら?」


 様々な夜会などでマリア様や、ゼアック伯爵の派閥の方々が触れ回っていたらしいのです。

 それが当家に対するものなのか、私個人に対するものなのかはまだ判別ができませんが、ひしひしと悪意が感じられます。

 これは両親とハビエル様に要確認ですわね。


 お茶をしつつ軽く情報を収集してから友人を見送りました。その足ですぐさまお父様の執務室を訪れると、中でお母様と何か言い合いをしているような声が聞こえたので、相談は後にすることにいたしました。

 夫婦喧嘩に口出しすると、ろくなことにならないのは世の常なのです。




「あら、ハビエル様の…………あ、ご婚約を解消されたのでしたわね」

「あの方よ。ほら、マリア様に酷い仕打ちをされていた、という例の!」

「あぁ、あの! 本当に禍々しい見た目ですわね」


 両親に噂のことを相談した数日後、どうしても外せない夜会に友人と参加しましたら、会場内でクスクスといった笑い声と、大きな声で身に覚えのない噂を話されました。

 正面からゼアック伯爵家の派閥らしきご令嬢の集団が近付いて来たかと思えば、口々に悪意を乗せた言葉を吐いて立ち去っていかれました。

 その後ろには、お茶会などで時々話していたご令嬢達もいて、各々に『付き合いをやめる』『悪役令嬢』などと言われました。


 隣にいた友人は終始ぽかんとした珍妙な顔をしていて、良いところのご令嬢としてどうなのかとは思いましたが、私も似たような顔になっているような気がしましたので、何も言わないことにしました。


「ハビエル様とご婚約の解消はなさっておりませんのよね?」

「はい。ご本人にも確認しましたが、絶対にそれはないと言われました」

「ところで、ハビエル様は?」

「それが――――」


 ハビエル様は、第二王子殿下から隣国視察の護衛に抜擢され、一週間ほど不在にされています。

 



 ◆◆◆◆◆




「クロエ、それは絶対にない。私は幼い頃から君の美しく優しく強い心、何があっても絶やさない笑顔、黒く艷やかな髪の毛と、煌めいた深く碧い瞳、全てを愛しているのだから」

「っ…………はいっ」


 シルバーブロンドの髪を首の後ろで結び、騎士団の服に身を包んだハビエル様が、ゆっくりと身を屈めて、頬に柔らかなキスを下さいました。


「……唇にはしてくださいませんの?」


 薄紫の瞳を妖艶に細めて、クスリと笑ったハビエル様が、私の耳にそっとキスをしながら囁かれました。


「これ以上は我慢が出来なくなるから、ね?」

「っ⁉ ひやぃっ!」

「ふふっ。いい子で待っているんだよ?」




 ◆◆◆◆◆




 出発前にハビエル様が家に来てくださいました。

 そのときの会話を思い出してしまい、熱くなった頬を両手で包んでいましたら、また嫌な言葉が聞こえて来ました。

 社交界のこういったどろどろしいところが好きになれません。


「えぇ、ハビエル様がお戻りになられたら、すぐに婚約式をいたしますの!」

「まぁ! おめでとうございます!」

「ハビエル様は、やっと本当に心から愛する人とひとつになれますのね」


 ――――あぁ、まただわ。


「あんな魔女のような見た目で醜い心を持ったご令嬢が婚約者なんて。権力を振りかざすような家から逃げ出せ……ハビエル様って本当にお可哀想ですわ」

「まぁ、ご覧になって! 真っ黒な髪に紫のドレス、なんて禍々しいのでしょう! 性格もとても苛烈で恐ろしいそうですわよ」

「それなのにハビエル様ったら、ありえないほど丁寧に接してらっしゃいますわよね」

「そんな優しいところ、素敵ですわぁ!」


 えぇえぇ、ハビエル様はとてもお優しいです。それだけは賛同できます。

 でも、他は一切事実無根です。


 実は、ほんの少しだけ疑ってしまった事もありました。

 ですが、出発前にいただいたハビエル様のお言葉のおかげで、私はこのような状況でも心折れることなく、しっかりと地に足をつけて立っていられます。

 …………とはいうものの、イラッとしてしまうのは仕方がない、と思います。

 気付けばカツカツと歩いて、一番近くにいた噂好きな方々の前へと出てしまっていました。


「楽しそうなお話ですね? ぜひ、私にも聞かせてくださいませ」

「あ……」

「いえ、その……」


 あれだけ煩かったのに、急にシンと静まり返り、誰もがモゴモゴと口籠りました。


「あら? 張本人に聞こえるように噂話は出来るのに、本人に直接は話し掛けられないのですか?」

「え――――」

「あ! どこかお加減が悪いのでしょうか? 我が侯爵家専属の医師を手配して差し上げましょうか? あ、でも、彼は精神は専門ではなかったかも…………ごめんなさいね?」

「え、あ、いえ、失礼致します」


 にっこりと微笑んで話しかけましたら、そそくさと逃げられてしまいました。

 ならばと方向転換をし、別の方々のところへと行きました。


「ハビエル様って、本当に素敵ですわよね?」

「え……えぇ、そう、ですわね」

()()()、私と婚約解消されるという噂があるらしいのですが、貴女は何か知っていまして?」

「え……………………」


 またもや「失礼致します」という言葉を残して逃げられてしまいました。

 仕方がないので、今度は張本人であるマリア様の方へと歩みを進めましたら、気の強そうなご令嬢三人に行く手を塞がれてしまいました。


「これ以上マリア様に近付いて危害を加えましたら、騎士団へ突き出しますわよ!」

「……これ以上?」


 私からは、マリア様に何かした覚えはないのですが、どうやら世間一般は違うようです。


 マリア様の横を馬車で通り過ぎた際に、泥水を掛けた。

 夜会や舞踏会で、マリア様のドレスにワインを掛けた。

 マリア様がドレスを注文する予定だった仕立て屋を横取りした。

 マリア様が……

 マリア様が…………

 マリア様が………………


 どれもこれも、身に覚えがないものばかりでした。

 あまりにもあまりにもなので、段々とイライラとしてきてしまい、もういっそのことこの方々の言うとおり、悪役令嬢に徹することにしました。


「我が家の馬車が泥をかけてしまいましたのね? それはごめんあそばせ。その時の日時と場所とマリア様の服装などの子細を我が家に報告してくださいましたら、謝罪と弁償いたしましたのに。侯爵家紋入りの馬車を動かすときは全ての記録を取っていますので、すぐにわかると思いますわ」


 会場が静寂に包まれていますが、無視して続けましょう。


「あらぁ、ドレスにワインを? 私が直接掛けた覚えはございませんので、メイドなどに指示していたかしら? そのドレスを提出するように伝えてくださいます? 全て弁償いたしますわ。それからワインを掛けた者も当家の力を使って探し出し、そちらにお渡しいたしますわね。その者に私が指示したか確認を取るとよろしいですわ」


 まだまだ静寂に包まれたままですが、まだまだ続けますわよ?


「仕立て屋は、ゼアック伯爵家と我が侯爵家では家格が違いすぎて、我が家が優先されてしまったのでしょうね。それは世の常なので慣れていただくしかありませんわ。……あ、マリア様はもともと平民なのでそういった常識はお持ちでないのは理解いたしておりますわ。貴女方についても、先代国王陛下の落し胤とお噂のマリア様に媚びへつらうしか出来ない家格でしょうし、色々と仕方がないと理解していますわよ?」


 小首を傾げてそう伝えると、立ちはだかっていた三人が顔を真っ赤にして小走りで去って行きました。

 阻むものがいなくなりましたので、マリア様がいる場所に歩みを進めていましたら、マリア様が急に膝から頽れ、気絶してしまいました。

 取り巻きの中にいた複数人の男性が駆け寄って、彼女を抱き上げるなどして介抱しています。


「あら? 未婚の女性に許可なく触れるなど……。流石平民上がりのご令嬢の取り巻きですわね。常識知らずの方々ばかりで恐ろしいですわ」

「っ! 何なんだ君は! このような痛ましい姿を見て何も感じないのか!」


 何も感じないのかと言われましても。

 さきほど申したとおり、令嬢というものは基本は家の奥で守られている存在であり、デビューして社交界に出はするものの婚姻関係を結ぶまでは基本は男女の触れ合いなど以ての外なのです。基本は。

 恋人同士は隠れてキスなどはしていますが……。


 こういった場合は、医師や侍女や家族を呼ぶべきなのです。

 なのに颯爽と抱きかかえ、無遠慮に触れるなど。

 しかも、『ハビエル様と婚約式をする』という謎の妄言をしていましたのに。

 

 ――――あ、目が。


 倒れたはずのマリア様が目蓋を薄く開き、チラッチラとこちらを盗み見しています。

 私と目が合ったと気付いたようで、キョドキョドとし始めました。

 ぎゅっと瞑ったりそっと開いたりしています。

 諸々がバレバレですが、何をしたいのでしょうか?


「たっ、助けて!」


 ――――助けて?


「マリア嬢! 一体何があったのですか⁉」


 何があったも何も。

 ただ一人で勝手に倒れられたのですが、誰も見ていなかったのでしょうか?

 見えていなかったのでしょうか?

 何か頭的なご病気でしょうか?


「あの女が私にナイフを向けていたのです!」

「「は?」」


 マリア様がガタガタと震えながらこちらを指差しています。

 もしや、私の後ろにそんな危険な人物が⁉ と思い、振り返りましたが私の近くには真顔の侍女しかいませんでした。

 もしや侍女が⁉ という考えが顔に出てしまっていたのでしょう、侍女にギロリと睨まれてしまいました。


 あと、先ほど疑問の声が何ヶ所からか聞こえてきましたが、一体誰なのでしょうか?

 きょろりと辺りを見回しましたが、皆様が遠巻きでこちらを見ているだけで、誰が声を上げたのかはわかりませんでした。


「もしかして、私のことでしょうか? このような場に、危険なものを持ち込むことなどありえないのですが?」

「わ、わたくしっ、見ましたもの! 貴女が、ナイフをポケットから出してこちらに投げようとしていましたもの!」

「…………ポ、ケット?」


 『ポケット』とはポケットのことですよね? なにかの比喩とかではないのですよね?

 そっと自身の着ている紫色のAラインドレスを見下ろしつつ、パタパタと触ってみますが、勿論ドレスにポケットなど付いているわけもなく。


「誰か! 取り押さえて! ナイフをポケットから出す気ですわ!」


 周囲がざわめくような声を上げはじめました。

 私がナイフを出すと怯えているのでしょうか? それともポケットが付いている疑惑?


「あのぉ……オートクチュールなのでデザインに自由度はありますが、ドレスにはポケットなどは付けませんわよ?」

「は……? え、だって…………たしかあの流れでポケットからナイフ出してたわよね? 大体なんなの……全然思った流れと違うし…………やっと好感度アップの重要イベント回収なのに…………」


 マリア様が虚ろな目をギョロギョロと動かしながら、ボソボソと何かよくわからないことを呟き出しました。

 ちょっと怖いです。


「あのぉ、大丈夫です?」


 ――――色々と。


「なんなのよっ! あんたが、あんたが悪いのよ! あんたがちゃんと悪役をし――――」


 マリア様が急に立ち上がり叫びだし、びっくりして一歩後退りをした瞬間、背中が誰かにぶつかりました。

 そして、そうっと両耳を塞がれました。

 背中に感じるこの温かさ、耳を塞ぐ大きな手、この持ち主の事を私は知っています。


「ハビエル様」


 お名前を呼ぶと耳が解放されて、くるりと身体を回転させられました。


「ただいま。一人にして、怖い思いをさせて、すまなかったね」

「おかえりなさい! 大丈夫でしたわよ?」


 本当はちょこっと心細かったです。でも……つい、強がってしまいました。


「ふふっ、そうみたいだね」


 ハビエル様がにこりと微笑んでくださいました。なんとなく強がりはバレていそうですが、優しいハビエル様は何も言わないでいてくださいました。


「一番隊! 女を捕獲しろ!」

「「ハッ!」」


 優しい微笑みから一転、ハビエル様が眉を釣り上げ目を据わらせて号令をかけると、人だかりの中から騎士達が雪崩れ込んで来ました。

 彼らは瞬く間にマリア様とその取り巻きたちを拘束しました――――。




 ◇◇◇◇◇




 あの夜会から二ヶ月、やっと事の全貌が見えて来ました。


「未来を予知する能力、ですか?」

「あぁ。王族しか知り得ない情報を――――」


 『自分は未来予知が出来る』と王城に乗り込んで来たそうです。そこで王族しか知り得ない情報を話し、今後起こる国内や隣国のトラブルなども話しだした。

 そして、『自分はハビエルと結婚することになる』などと言い出したそうです。

 

 陛下や上層部の方々がマリア様の対処をどうすべきかと迷っていると『先王の落し胤として王族に近しい家に預けてほしい』とマリア様自身が言い出したそうです。

 どの家も預かりたがらずにどうするか話し合っていると、一応王族籍であるゼアック伯爵家が預かると言い出した為、任せることになったとか。

 ゼアック伯爵は、宰相補佐の末席にはいるものの特に仕事は出来ない人物だったとのことで、珍しく嫌な仕事を請け負ったな、という程度の印象だったそうです。


「まさか、彼女を使って自身の地位を押し上げようとするとはな」


 あまりにも動きが怪しかったため泳がせていると、伯爵の悪事が芋づる式に出てきたため、ゼアック伯爵について何も言わないマリア様にも疑いの目を向けるようになったそうです。


 マリア様に慕われているハビエル様は、仕方なく交流をしたり、ダンスをしたりして情報を収集したそうです。

 初めの頃は、彼女の予言は本当に当たり続けていたらしいのですが、今後の処遇を話し合っている間に徐々に予知が外れ始めたとのことでした。


「隣国の国王陛下が城内で刺客に襲われて重症を負う、という予知をあの女がしたからね、視察という名目で確認に行ったが、完全に嘘だったよ」


 そして、彼女が平民だった頃に『予知能力』を使い行っていた悪事などがいろいろとわかり、陛下から処分命令が下ったそうです。

 能力が本当か嘘かはわからないそうですが、現在は全てが外れているそうです。

 検討を幾度となく重ねた末、反逆を企てた王族用の塔に幽閉することに決定したとのことでした。


「あの日からずっとブツブツとおかしな事をつぶやいたり、幽閉されている塔で奇声を上げたりしていてね。随分と昔から精神が壊れていたのかもしれないね」


 この世界は、『ゲーム』の中の世界だとか、王太子殿下や王弟殿下、宰相閣下、公爵家ご子息などに愛される存在だとか、誰かの何かの行動によって何かがズレたから、こんなことになったんだ! などと叫び続けているそうです。


「まぁ……そうなのですね…………。あ! それは私に話して大丈夫なのでしょうか?」

「ん、大丈夫だよ」


 私に多大な迷惑をかけたので、全てを話して構わないと国王陛下が仰ったそうです。

 なんと寛大なお方なのでしょう。


「ありがとうございます。やっと、心から安心出来ましたわ」

「ん? もしかして疑っていたかい?」

「ちっ、違うんです!」


 少し……少しだけ疑いそうにはなっていました。

 ハビエル様は私の婚約者なのに。

 もうすぐ結婚するのに。

 ハビエル様は絶対にそんなことしないはず。


「だけど…………その、マリア様と沢山ダンスしていたから」

「っ! かわいい!」


 ぼそりと本音を漏らしてしまうと、ハビエル様がガバリと抱きついて来ました。


「はぁ……本当にクロエはかわいいな」


 とろけるような笑顔のハビエル様が、すりっと鼻同士を擦り合わせて、ゆっくりと唇を重ねて深い口付けをくださいました。

 ちゅ、と甘い音を立てて唇が離れていった瞬間、カクリと膝から崩れ落ちそうになりました。

 

「おっと、クロエにはまだ早かったかな? それとも、もっとする?」

「っ…………もっと、してください」

「仰せのままに」


 ハビエル様が、コルチカムのような薄紫の瞳を細めて、更に甘い甘い口づけを下さいました。




 ―― fin ――




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― 新着の感想 ―
[気になる点] マリアの発言から彼女が乙女ゲーに転生した人物というの分かるけど、それ以外の展開がゲームの設定と違う理由の説明がないのでもやもや。他に転生者がいて流れを変えているわけでもないのに何故?
[一言] クロエを散々詰っていた奴らはどうなるのでしょうか? まあ、手のひら返したところで信頼はされないでしょうが。 王家が後手な感じがしますが、クロエが自立できる力量があって良かったですね。
[良い点] クロエお嬢様がカウンターを連続で決めるところが素敵です! [一言] 誰かに救われるのではなく、自力実力で立ち向かう所が格好いいですね。
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