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千代女の答え

天文16年(1547)5月18日

■甲斐国 山梨郡 躑躅ヶ崎館 廊下

・望月千代女


宿敵とも言える武田家、それも家臣だったらわかる、だけど武田家当主の三男、三郎殿から突然告白された。主家の敵である武田氏の本拠地躑躅ヶ﨑館に侍女の見習いとして入り潜入に成功した。甲州乱波の警戒を潜り抜けるのは大変だった。侍女見習いを始めてわかった事がある。彼の周りにはあの鳶加藤こと加藤段蔵殿の配下の者までいるのだ。それと何故殿をつけるかって?それは望月氏や海野氏を滅ぼした晴信には罪があるが、その子供には罪はないのだから殿と呼んでいる。そこまで私は腐ってはいない。


話が逸れてしまったが三男の三郎殿が突然海野氏の再興といったのだ。しかも告白までされてしまった…

信濃では武田氏は侵略者の代名詞であり野獣の如きなどと揶揄され恐れられているのからその当主の子供も当然同じだと思っていた。嫡男の太郎殿は三郎殿と性格は真逆で全然違う。


でも三郎殿はお優しい。女の身である私、ましてや色仕掛けをかける私ですら結婚してもいいなぁと思う気持ちもある。三郎殿と結婚すれば海野氏の再興を確実にしてくれるかもしれない。そう言い切れる根拠は次男の、二郎殿は盲目なので跡継ぎにはなれない。そうなると普通は嫡男の太郎殿なのだが、もしかしたら跡継ぎになるのは三郎殿かもしれない。三郎殿が当主となれば武田は良くなると思うし、先程言った通り海野氏も再興できる。ともあれ恥ずかしくて部屋を出てしまったので返事をするのを忘れていた……。

どうしよう……。


千代女は廊下を行ったり来たりしても悶え苦しんでいた。


と…取り敢えず、返事をしなくては…。一刻でも早く再興してもらわないと…。

で…でも、なんて言ったら良いか…。


廊下では1人の侍女が1刻ほど悶え苦しんでいた光景があった。



天文16年(1547) 5月18日

甲斐国 躑躅ヶ崎館 三郎私室

・望月千代女

私はやっと気持ちを落ち着かせてきた道を時間をかけて引き返す。三郎殿の部屋の前に着き、ゆっくりと三郎殿の部屋に入る。

すると三郎殿が座ってお茶を飲んでいた。それに見た事もない食べ物まである。串になんかついている。………美味しそう…。




「食べる?千代女さん」


三郎はすでに3本目となる串を食べ終えて置き新しく皿から取って千代女に渡す。


「あ…ありがとうございます……いただきます…」


おっと!いけない、食べたそうな顔をしていたのだろうか?恥ずかしい…


千代女は恐る恐る食べた。


「甘い……」



「それは良かった、沢山あるからどんどん食べていいよ」


「あ…りがとうございます。……これはどう言った食べ物ですか?」



「それは、水あめっていうものだよ。南蛮から手に入れた金平糖、砂糖を溶かして作った。」



まぁ、砂糖を手に入れるのは大変だったけど…

三郎殿は遠い空を眺めながらそう言った。



千代女はゆっくりと味わいながら食べていく。皿の上の水あめがなくなり千代女は物足りなさそうな顔をしながらも座り直す。


「さて食べ終わったところでさっきの話を聞かせてもらえるかな?

千代女さんには今ここで二つの選択肢がある。一つは俺を殺すこと。しかしこれは駄目な選択肢だと俺は思う。これを選択すれば望月氏、海野氏は再興は難しくなるだろう。二つの目は俺の家臣になる事だ。もちろん待遇は重臣にすることを約束する」


そう三郎に言われて千代女は頭の中で考える。


(確かに三郎殿の言う通り此処で彼を殺してしまえば再興は遠くなってしまう、それどころかあの晴信が可愛がっている三郎殿を殺したのが望月だと知られたら一族郎党1人残らず殺されるだろう。忍びの私を重臣として雇ってくれるという。……それに上手くいけば側室ぐらいには……)




「わかりました、この望月千代女ただいまから三郎殿、いや三郎様の家臣として命を共にすることを誓います。末永くよろしくお願い致します。私の事は千代とお呼びください」



千代女は両手を畳について深く頭を下げる。


「ありがとう千代さん、これからよろしくね」


三郎様が太陽の様な笑顔をするのを見て私、千代女は自分の顔がとても熱くなるのがわかりました。



天文16年(1547)5月20日

■甲斐国 山梨郡 躑躅ヶ崎館 晴信私室 夜

・武田三郎



「父上、突然申し訳ございません」



そう言って三郎は晴信がいる部屋に入る。



「なんじゃ、三郎か?何か用事か?」



評定などの時とは違い優しい父上だ。



「その、父上御願いがございます。」



「なんじゃ珍しいな三郎、太郎と違って。書物が欲しいのか?」

 


金太郎兄上……(笑)ではなく太郎兄上は毎回おねだりしてるのか?



「いえ父上、書物もいいのですが、今度の志賀城攻めまでに少しでも兵が欲しいのです。自分の兵が欲しく、それと城が欲しくてお願いに参りました。」



「兵か、それに城か?どれくらい欲しいのだ?それと城はどの城だ?甲斐国にある城が良いか?」



「既に源四郎には農家の次男や三男を40人ほど集めさせていますが最低でも500は欲しいのです。城は甲斐国ではなく佐久郡のいずれかの城をいただきたく」



「城は攻め落とせるのならやっても良いが、500か…しかしあと少しで出陣だそ?それはいささか無理だろう。それに兵を得るということはそのもの達への扶持が必要になるぞ?」



その覚悟はできてるんだろうと見つめてくる。



「城を得るまでは川狩りと山狩りでなんとか凌ぎます」



「だが、500人ともなるとそう簡単には集められんぞ?」



晴信は心配そうに三郎を見つめる。



「今回は父上に残りの440人をお貸しいただきたいのです。それと集める手立ては餓死しそうな、山窩や河原者、貧民を喰い扶持だけで集めます。それを先ほど言った川狩りや山狩りなどで確保します。策はあります。川で篝火漁などをして食事の足しにします」



「それと魚だけでは無理ですから、獣などの動物を、狩りますし食糧事は心配には及びません」



 「しかし、小者共に獣が狩れるのか?もしかして国衆に手伝ってもらうのか?」



 「はい、その土地の国衆や地侍に仕留めてもらいます」



 「国衆や地侍は自分の知行地を荒らされるばかりか報酬も無しか?」



 「報酬は獲った獲物を折半で分け与えれば良いかとそれと戦の訓練になりますので武田家の為にもなります」



 「そうか、ならば大丈夫そうだな。しかし本当に食糧は大丈夫なのか?それに篝火漁?それは聞いたことがないのだが…」



「簡単にいうと、夜に行うもので火の明かりや大きい岩を落として魚を脅かして網に追い込む漁でございます。」



「そうか、ならば良い。取り敢えず1日分の食糧しかやれぬ、すまぬな…」



晴信は申し訳なさそうに目線を下げる。



「謝らないでください父上。甲斐国は飢饉が続いているのを見ればわかります。いずれ常備兵という農繁期でも兵として動員出来る軍を作れば戦いに有利になると思います」



「そうだな。季節関係なく敵国に好きな時に攻めかかれるとなるとかなりの利がある」

 


「はい、これは兵農分離という政策で私が考えました。」




「武士と農民を完全にわけるという意味なわけじゃな。戦が無いときは畑などを耕すのに使えばいいな」



兵農分離という言葉だけでその意味がわかるとは、さずが戦国のチート武将だ。



「はい、常備兵を増やす事により農民の負担も軽くなるかと」



俺は父上に深く頭を下げて自分も館の外に出る準備をするため自分の私室に戻ることにした。


・武田晴信


三郎が久しぶりに部屋に来たのだが兵と城が欲しいと言ってきた。まだ4つなのに対したものよ。城は落とせばやるが兵は限られておる。それを三郎は山窩や河原者などといった身分の低い者を兵にしようとしているらしい。それにこれが兵農分離という政策。中々良い政策だ。儂も試してみるか…



さて太郎(義信)が嫡男で家を継ぐ立場だが、儂が父上を追放したように太郎も儂を追放するかもしれん。そうなる前に手だけでも打って置くか…。何もなければそれで良し、万が一があるやも知れぬからな…。

誤字脱字等ありましたらご報告ください。

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