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諏訪衆奮戦!

■天文14年(1545年)12月12日


甲斐国 巨摩郡 谷戸城




転生してから既に2年が経ち、身分が高いから余り自由に外には出れないが今日はある人の輿入れで国境に近い谷戸城に800と少ない軍勢ではあるが迎えの軍としてこの城に待機している。まだ2歳だが、この軍を率いる副大将でもある。とは言っても2歳なので戦えるはずもなく形だけで初陣というわけではない。ただ名前を連ねてるだけである。



「信繁叔父上、この度は母上を説得してもらいありがとうございます」



・武田信繁ーー

忠実:1528〜1561年 武田の副大将


【武田信虎の次男。兄の信玄の弟。武田家の副大将。川中島で若くして戦死した。信玄は信繁の遺体を抱くと号泣したと伝えられる。敵方の上杉謙信らからもその死は惜しまれたほど。武田家臣団からも「惜しみても尚惜しむべし」と評されておりもし信繁が生きていたら後年の兄の信玄と嫡男の武田義信の対立はなかったといわれるほど。四天王の1人山県昌景は「古典厩信繁、内藤昌豊こそは、毎事相整う真の副将なり」と評した。真田昌幸は後に生まれた次男に「信繁」と名づけている。後の真田幸村である。】




三郎は父上である武田晴信の弟であり武田軍の副将・叔父の武田信繁に頭を下げる。



「なんのなんの、可愛い甥っ子のためしかも今回は戦では無く輿入れの姫を少しの間護衛するだけの事。それに三郎の必死な顔をしてお願いされたら断りきれん」



信繁はそう言うと三郎の頭に手を置き笑う。



「しかし…どうも気になるのだが、どうして三郎はこの護衛に来たのだ?」




「実は私はこの婚姻に余り賛成ではありませぬ。山本殿が父上に進めたのがいけないのですが…」



「まぁ、儂も余り良い感情は持ってないが、何しろまだ新参者の山本殿の意見だからな。本当に信じて良いのかどうかだな」



「確かに今後の信濃を統治するのには有効だと思います。その土地の姫を側室として迎え子供が生まれたらその子をその土地の領主とすれば統治は容易い。しかし禰々叔母上のことを考えると…」



「禰々…、我が妹が三郎のお陰で明るくなったが此度の婚姻で頼重殿が亡くなったときを思い出すかもしれないな。頼重殿の娘を迎えると余計にな…」



「そうなのです。私はそこが心配なのです」




「まぁ、それも三郎がどうにかするのであろう?」



「まぁ、なんとかしますけど叔父上にも手伝ってもらいますからね」



「ぬっ…ぬかりないな三郎…」


信繁と三郎は2人して腕を組み悩むのであった。その後ろ姿は叔父と甥ではなく親子か兄弟のように周りの家臣たちには見えたのだった。






三郎は信繁と別れ傅役でついて来ている教来石景政を連れて城外に出た。



「景政、お主の兵はどれくらい連れて来ている?」



「30の兵ですがどうかなされましたか?」



「いや、この雲行きが怪しいなと思ってな…。嫌な感じがするのだ」



三郎は黒く黒ずんでいる無数の雲を見つめる。


「確かに…。何か嫌な感じはしますな」



「景政、悪いが30の兵を率いて諏訪の姫の行列へ行ってくれないか?」



「もしや、盗賊など良からぬ者が…」



「そう言うことだ。確信は持てないが諏訪の姫を攫う、もしくは殺せば武田の面目は潰れてしまう。私はまだ幼子で馬にも一人で乗れんし、戦うこともままならない、自分はこの城に大人しくいることしかできないからな」



「分かりました。しかし三郎様には驚かされますな。この護衛につきたい、襲われている可能性があるなど」



「単なる幼子の戯れと思ってくれて構わないよ」



「ではそう言うことにしときますかな、では急ぎ諏訪の姫の行列へ向かいます」



「うん、頼んだ」



景政は自分の手勢30を直ぐにまとめ、谷戸城を急いで出て行った。



「何にも無ければいいけど…」






その頃、諏訪の姫の行列は武田五名臣が1人多田頼満の嫡男、多田常昌が守る先達城と谷戸城の間を何事も無く進んでいた。




「姫、まもなく武田方の護衛の兵が詰めている谷戸城につきまする」



「そうですか」


姫と呼ばれたのは亡き諏訪頼重の妹の湖衣姫。武田との婚姻のために上原城から躑躅ヶ崎館まで迎うため途中武田方の護衛がいる谷戸城へ向かっていた。




「父上様…」



誰にも聞こえない小さな声で亡き父、諏訪頼重のことを思い出す。

本当のところ諏訪の敵である武田に嫁ぎたくはなかった。しかもその当主である武田晴信に。しかし断れば諏訪の民が酷い仕打ちをされるに違いない、諏訪の血を引く者として諏訪の民を守らなければならない。だか晴信は仇でもある。2つの気持ちがぶつかり合い気分が悪くなる。少し目を瞑り湖衣姫は気持ちを落ち着かせようとする。



(いっそのこと晴信の首を…)



そんなことを思いながらも自分には抵抗する手段がなく、諏訪の民を人質に取られたままでは反抗したくても出来ない。そんなことを思っていると駕籠かごの外が騒がしくなった。そして駕籠も慌ただしく揺れる



「な…何事ですか!」


思わず湖衣姫は声をあげる。



「姫様、周りを盗賊、山賊と言った良からぬ者が囲んでおりまする」



今回、湖衣姫の護衛の大将として諏訪家家臣の有賀泰時が答える。



「姫様は谷戸城までお逃げくだされ、そこに武田方の将がおりまする」



泰時はそういうと刀を抜くと持ち場に戻った。



湖衣姫を乗せた駕籠は数名の武士と侍女を連れて谷戸城がある方向へ急いで動き出した。




「姫様を守れぃ!ここで守らなければ亡き頼重様に顔向け出来んぞ!」



遠くで護衛の兵に呼びかける泰時の声が聞こえる。それに答えるように所々で護衛の兵が声が聞こえる。



「あの駕籠に良いものがあるに違いない!者共やっちまえ!」



盗賊、山賊120人ほど率いている頭領の男が使い込まれた刀を湖衣姫が乗る駕籠に向ける。その男の掛け声で一斉に襲いかかる。対して湖衣姫を守る有賀泰時率いる諏訪衆は200人だが、奇襲も同然にいきなり襲ってきたので次々と倒されていく。




「くそっ!このままでは姫様が…」



斬っても斬っても次から次へと盗賊、山賊たちは襲ってくる。このままでは全滅し谷戸城に着く前に湖衣姫が危ないと泰時はどうしたら良いか分からずただひたすら目の前の敵を斬り伏せていく。




どれくらい経ったのだろうか突然後ろから鈍い音がした。



ザクッ…



刺された音がしたと同時に泰時は背中が熱く感じた。



(あぁ、刺されたのか…。だがここで諦めてしまったら姫様が…)




泰時は後ろから槍で刺してきた者を斬り伏せ槍を抜きそれを杖にしながら身体を支える。

背中からは当然血がダラダラとこぼれ落ち、口からも吐血していた。泰時は背中に刺されると同時にいつのまにか身体中が傷だらけなことに気づきその痛みも一斉に襲いかかる。



「おのれ!下郎ども!姫様には……姫様には…指1本…触れさせぬ!」




泰時は傷をさらに受けながら敵をねじ伏せていく。次第に傷のため意識も朦朧として立っているのもやっとで片膝をつきながらも近くに寄ってくる敵と交戦する。



(私はもう…ダメかもしれぬ…)



泰時が諦めようとした時、雄叫びのような騎馬で突撃するのような声が轟いた。


泰時は盗賊、山賊たちの増援だろうと思ったが違った。意識が朦朧として視界に映るものもぼやけていたが諏訪衆ではない騎馬が盗賊、山賊に突撃を開始していた。



「味方…なの…か?」



泰時は刀を持つ右手に力を入れる。片膝をついている泰時の方に一騎の大将であろう武将が近づいてくる。



「遅くなって申し訳ない。武田家家臣、教来石景政と申す。三郎様の命により早めにお迎えに参った。あとは任せられよ」



馬にまたがった武将、景政は泰時にそういうと近くにいた山賊をあっという間に斬りふせる。30と少ない兵だか諏訪衆と戦い疲労が溜まっていた盗賊と山賊は次々と倒れていく。


しばらくすると無理と悟ったのか頭領の男が引く合図を出すと命からがら森の方へ逃げて行った。



景政は急いで馬から降り傷が酷い泰時の方へ走り寄る。




「景政殿かたじけない…。姫様は…」



「よくぞ、持ち堪えてくださった。姫様は無事に保護して谷戸城に入られた」



「そうか…」



「失礼ながら貴殿の名前は?」




「諏訪家家臣、有賀…泰時と申す。すまないがこの場を頼みたい。私はしばらく休みたい…」



「わかり申した。ゆっくり休まれよ」



泰時はそういうと右手に持っていた刀から力を抜いて仰向けに倒れるのだった。

誤字脱字等ありましたらお知らせください。


諏訪姫の名前は不明のため、亡くなってしまった新田次郎先生の『武田信玄』の作品である諏訪姫の名前、湖衣姫にさせていただいていますがいずれはオリジナルの名前にする予定ですのでもし宜しければ良い名前がありましたらお願いします。

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