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捕縛

天文17年(1548)3月10日


■信濃国 上田原




武田晴信率いる武田軍1万2千が上田原に着陣した。


「管領と義清を討ち取ろうと思っていたが義清は三郎の調略でこちらに降った。管領は取り敢えず捕縛して幽閉するか…。使い道があるやも知れぬ」



晴信は目の前に布陣している村上軍を一瞥して手に持っていた軍配を振りかざす。


「板垣隊、甘利隊前進!村上は臣従したから手を抜きながら槍を震え。くれぐれも殺傷はするな‼︎」



晴信の指示で先陣を任されていた板垣信方と甘利虎泰は手を抜きながら全身。


それに対する村上軍も手を抜きながら前進開始。合戦と言うよりも稽古に近い。半刻程それが続いた。



「狼煙を上げよ。合戦はお終いじゃ‼︎この戦は無いにも等しい早くに終わるに越したことはない」




約束通り武田から狼煙が1本上がる。

すると村上勢は憲政の3百を包囲した。

暫くして憲政を捕縛したとの伝令が届いたのだった。




時は少し戻り一方包囲された憲政の陣はというと…。


「申し上げます!武田軍1万2千が着陣!」



「うむ、ご苦労!」



「申し上げます!村上勢武田の先陣、板垣と甘利両軍と激突いたしました。」



「うむ、ご苦労!」


半刻後…。



「村上勢が我が軍を包囲しております!!」



「な…なん…じゃと…。そんな馬鹿な!何かの間違いではないのか!?」




憲政は急いで陣の外に出ると周りを見渡す。

既に周りは村上の旗が立ち並ぶ軍勢が包囲していた。





「よぉぉぉぉしぃぃぃきぃぃぃぃよぉぉぉぉ‼︎」



憲政はその場で地団駄を激しくし天高く叫ぶ!

ちょうどその時、武田方から法螺貝が鳴る。


村上軍により憲政達は捕縛されていく。

それを見た憲政は唖然としている。




「憲政様!ここは危ないです。え…越後の長尾を頼りましょう!」



家臣たちが唖然としていた憲政の片腕を引っ張り馬の近くまで連れて行く。



「憲政様お急ぎなされ!ここは我らが食い止めますゆえ!」



なんとか憲政を馬に乗せて家臣の一人が馬の尻を叩く。すると馬は当然驚き走り出す。その後を30騎の騎馬武者が続いた。






高梨氏が治める高井群にまで一目散に駆け出した憲政は暫くして馬を降り、刀を抜き近くの木へと斬りつける。




「何故じゃ!何故じゃ!何故じゃ!この関東管領たるこの私が敗れなければならない!どいつもこいつも使えぬ。長野、村上、真田…裏切り者どもめ!」



その様子を申し訳なく見ている家臣たち。

しばらくするとそれも終わり憲政は刀をしまう。




「殿、越後へ急ぎましょう。この辺りも危のうございます」



「わかっておる。誰ぞ高梨へ使者として向かえ」



この恨み忘れぬぞ…。武田だけではない、長野、村上、真田、余を裏切った者達は皆殺しじゃ!


「関東管領上杉憲政殿とお見受け致す」



すると背後から見知らぬ声が聞こえて来る。



「な…何奴!?」



咄嗟に憲政は刀を抜きその周りに家臣達が守りを固める。



「拙者、武田家家臣多田淡路守満頼と申す。主命により関東管領殿を甲斐へとお連れする様に言付かっております」


武田家重臣、多田満頼が数百の兵を引き連れ包囲していた。






「わ…儂は甲斐など行かぬぞ!そんな田舎には行きとうない‼皆のもの此奴らを叩き切れ!」



憲政は刀を抜き前に構える。

しかし憲政の命令に誰一人動こうとしない。



「な!?何故じゃ?何故動かぬのじゃ!」


憲政は周りの家臣達に振り向きながら問いかける。しばらくの沈黙の後一人の家臣が口を開く。


「管領様、申し訳ございません。このまま戦えば我ら一同討ち死にでしょう。武士としては本望です。ですが故郷に残した家族の顔を浮かべるとどうしても足がすくんで前に踏み出せないのです」



そう言って手に持っていた刀を地面に落とし膝を突く。その家臣に続いて次々と投降した。



「おのれ!貴様らも我を裏切るのか‼︎許さぬ許さぬぞ!!」



暴れながらも武田軍によりほばくされるのであった。





天文17年(1548)3月10日


■信濃国 埴科郡 葛尾城


上田原で憲政を捕縛した武田軍は裏切った村上義清の居城に入った。



「義清殿、お味方感謝する。顔をあげて下さい」



俺は今、まさに豪傑といった風格がある村上義清とその家臣達に頭を下げられている。というかお久しぶりです、皆様。信之です。

正直この状況がキツイ…。だってさぁ、転生したからって言ってもまだ幼児だよ?俺は。元服はして大人だとしても身体は子供。




「では、お言葉に甘えさせていただく。改めてまして葛尾城城主、村上義清これより信之様へ忠義を励みまする」



「あぁ、そういうのはいいよ。堅っ苦しい挨拶は、もっとフレンドリーに」




「ふれ……んどりー…ですか?」



「そうそう、フレンドリーに。南蛮人の言葉で友好的にとか親しみやすくという意味のこと」



「なるほど、信之様は博識でありますな」



一刻ほど村上方の諸将たちと会話をして案内された部屋で休む。



「ふぅ…、なんとか難敵である村上殿を味方につけることができた。これも憲政様様だな」



「そうですな。これで信濃に残るのは小笠原、木曾、高梨といったところですが小笠原はお館様がどうにかなさるでしょう。問題は…」


傅役である馬場信房は口籠る。


「高梨か…」



「はい。背後には当然越後の守護代である長尾氏が出てくるでしょう」



「あぁ、必ず出てくるだろうな。信濃の領土を奪還する大義名分があるし、当然上野も危うくなる。防備が固まるまで高梨領へは進撃しないほうがいいだろう…」



信之の言葉に信房は頷くのであった。



天文17年(1548)3月12日



■信濃国 諏訪群 勝弦峠



勝弦峠は数百の死体が転がっていた。全てが小笠原軍の兵の死体である。勝弦峠の戦いは結果、晴信率いる武田8千の兵により兵の数、質等全てにおいて圧勝で幕を閉じた。

小笠原長時は多くの将と兵を失い居城に戻っても再起不能と判断、上杉憲政と同じく越後の長尾領を目指し逃亡。事実上、大名としての信濃小笠原氏は滅亡した。晴信率いる武田軍は放棄した小笠原領を占領した。




「信濃守護か…。口ほどでも無かったな。権勢を振るった小笠原氏は昔のこと、この戦国の世は生き残れまい」




馬上から無数の死体を眺めながら武田家当主・武田晴信は呟く。



「同族ゆえ助けようとも思ったが…。自ら滅亡を選びおった。儚きことよ…」


晴信は小姓に虎泰を呼びに行かせる。




「これで残るは木曾、高梨のみ。村上は三郎(信之の幼名)が配下に加え盤石。木曾を平定すれば信濃は完全に武田の物となる。甲斐、信濃、上野。しかし念願の海には出られん。北には長尾。南には今川。攻めるならば長尾だが兵站が長くなり補給が厳しくなることは目に見えている。ならば織田のせいで弱体しているいる今川を攻めるべきか…」



「お館様、お待たせしました」




「虎泰か。虎泰、すまぬが5千を率いて南信濃の制圧に取り掛かれ」



「わかりました、では!」



虎泰は5千の兵を率いて林城から南進、敵対している城を次々と落としていった。20日には飯田城、22日には松尾城を陥落させ破竹の快進撃で南信濃を制圧していった。



天文17年(1548)4月13日


■信濃国 木曽群 木曽谷 木曽福島城



うむ、解せぬ。解せぬぞ。

先月、上田原で村上を裏切らせ憲政を越後へと追いやり高梨氏が治めている高井群、水内群を除き北信濃は制圧完了し残るは南信濃だけとなったんだけど晴信さん、父上は一気に制圧するらしい。それで木曽谷で手こずっているので援軍に来いと言われ渋々ながら上野衆4千の兵を率いて南進した。現代でいえばブラック企業ですよ。まだ幼児というのに…。正直なところ、忠実通りに木曾を一門にするのは無しですね。最終的には木曾は甲州征伐で裏切ってますから。まぁ、裏切った原因は重税が主な原因だと思うので武田も悪いと言えば悪いのだが。

仕方がない…、久しぶりにアレを使うか…。



「段蔵いるか?」



「はっ!ここに…」



信之が問いかけると、隣に現れた。



「木曾義在・義康親子を暗殺出来るか?」



「出来まするが、久しぶりですな殿」



「だな、初陣の時以来だ。暗殺かもしくは捕らえてくれ」



「捕らえるですかな?」



「木曾を私の家臣にしたいと思っているが、父上は一門にしようと考えているらしい。要衝である木曾は武田が直接抑えた方が良いからな」



「なるほど…」



「早速で悪いがお願いする」



「お任せを…」



段蔵が頷くと部屋を出ていった。



「木曽を落とせば美濃出られるからな。美濃を制すは天下を制すとも言うしな」




信之はこれからのことを考えるのだった。

誤字脱字等ありましたらご報告ください。

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