内政
天文16年(1547)8月20日
■甲斐国 山梨群 躑躅ヶ崎館 大広間
躑躅ヶ崎館の大広間には御一門衆と重臣たちが揃っていた。初陣でいとも簡単に志賀城を陥し入れ、援軍にきた上杉憲政率いる関東管領上杉軍を殲滅、調略で上野国を平定。さらには小諸城、砥石城を奪ってみせた。信之が大手柄を立てたことに対して興奮しながら隣の者達と話している。4歳児ということもあり補佐に回った甘利虎泰と板垣信方、馬場信房が指揮したのではという言葉も聞こえる。
「まさか、信濃より先に上野を制圧とは…これで武田の先行きも安泰じゃ。」
「ですな。僅か4つという幼子で一人前…。いや名将の如き活躍をしたというのですからいやはや…」
「儂なんか4つの頃はまだ野を駆け回っていた」
「しかし4つの幼子では指図は難しいだろう。誠に若君が?」
「お尋ねしてもよいか?誠に甘利殿と板垣殿、馬場殿は補佐したのだろうか?」
「そうだが?俺が右翼、板垣殿が左翼だった。」
虎泰は腕を組みながら答える。
「信之様から釣り野伏せという戦術をして撃ち破るといわれてな」
信方がそう答えながら信之の方向をみる。
「三郎、釣り野伏せとはなんだ?」
晴信が問いかける。
「釣り野伏せとは全軍を三部隊に分けます。一部隊は囮に、二隊を戦の前に左右に伏せさせておきまする。敵を左右に伏せさせているところまで誘い込み、三方から囲み包囲殲滅する戦法です。囮となる部隊は大将自らの隊で、まず正面から当たり、わざと敗走を装いながら後退すします」
「それが釣り野伏せの「釣り」の部分ですな?」
駒井高白斎が頷きながら答える。
ーーーーーー駒井高白斎ーー
忠実:15⁇〜1563年
【甲斐源氏の一族駒井氏。1542年9月25日の高遠頼継攻略の先陣を務める。翌の26日に藤沢頼親が籠る福与城を陥落させた。また降伏した信濃国衆との取次や調略も携わる。高白斎記の原本の作者とされている】
多方面に活躍する駒井殿か…。一家に1人は欲しいくらいの人材だよ!さずがチートですね。
「はい、駒井殿が言う通り「釣り」の部分はお分かりになりましたかと思います。野伏せの部分は敵が油断して追撃するために前進しますが、既に左右に伏せていた部隊で両側から襲わせます。これが残りの部分「野伏せ」であります。囮の部隊は敵を油断させるためにできるだけ少数がいいでしょう。左右から攻撃が開始されたら反転し逆襲に転じることで三面包囲が完成します」
おぉ!と歓声が起きる。
「しかしこの戦法は元々寡兵で戦う戦術であり囮の部隊は敵よりかなりの兵力差がつくので成功させるには相当の訓練が必要でしょう」
「そうだな。だが試してみる価値がある。さてそろそろ此度の戦についてだが、文句無しで戦功第1位は三郎 お主だ。褒美は何がよい?」
「では上野箕輪城城主の長野業正殿、国峰城城主の小幡憲重殿を与力として頂きたく」
「それだけで良いのか?」
「はい、まだ私は4つですので」
なんと謙虚な…
ここにいるほとんどの諸将はそう思った。
「分かった。その2人を三郎の与力につける。それと信濃の小諸城を与える。幼くともお主は武田武田家の三男。城が無くては格好がつかんからな」
「はっ!」
信之は長野業正と小幡憲重を与力につけ小諸城をもらい城の城主となった。
天文16年1547年8月20日
■甲斐国 山梨群 躑躅ヶ崎館 信之私室
論功行賞が全て終わり信之は馬場信房、春日源五郎、飯富源四郎、工藤昌祐、工藤祐長を引き連れて私室に向かう。すると私室には与力となった上野衆の主な武将が集まっていた。
信之が上座に座り、右側の列が信房たち譜代衆が左側の列に上野衆が並んだ。
「まず集まっていただきありがとうございます。戦の論功行賞が終わり信濃の小諸城を頂きました」
『おめでとうございます』
「さて上野衆を私が率いるにあたり裏切りは許さぬ。長野業正、小幡憲重お主達を上野衆の目付に任ずる。」
「「はっ!」」
天文16年(1547年)10月12日
■上野国 箕輪城
信之が長野業正の居城 箕輪城に入った。
さて、ここ最近は信濃、上野進行で手に入れた領地の内政にも力を入れなくてはならないからな。取り敢えず現状、候補としてあげれるのは茸養殖。
伐根栽培・長木栽培・普通原木栽培・短木栽培といった栽培方法で育ててて朝廷や大名に贈ったり売ったりする。新田開発。長年における戦乱で土地が荒れているので河原者など集まった難民達を使い開拓に回して、3割の土地を分け与える。硝石製造はこれからの戦いに必須だ。古土法と培養法で作る。古土法は1年で硝石を集めることが出来るが相応しい古い家が無いと作れない。そこは心配無いだろう。この時代古い家などばかりだ。培養法は5年後で無いと硝石が完成しないので気長にやるしか無い。真珠の養殖はまずは池蝶貝をどこかから輸入しなくてはいけないし海が無いので河口湖などで試して見る。そして娯楽や日用品の開発だな。石鹸など作って資金を増やしてもいいな…!取り敢えずこの5つを中心に内政を行おう。行うためには当然資金が必要なので鉱山を活用させてもらおう。
甲斐国では黒川鉱山と湯之尾金山は勿論のこと、宝鉱山、乙女鉱山、鈴庫鉱山、朝日鉱山、黄金沢鉱山、増富鉱山、芦安鉱山、中山鉱山、五白鉱山鉱山、前茂倉鉱山、後茂倉鉱山、富士鉱山、草間鉱山、妙法鉱山、本沢鉱山、金満寿鉱山、増田鉱山、猿橋鉱山、奥沢鉱山、稲又鉱山、甲永鉱山、天龍鉱山、小日影鉱山、大深山鉱山、甲武信鉱山、大日向鉱山、本郷鉱山、余地鉱山、信陽鉱山、八ヶ岳鉱山、金鶏川鉱山、諏訪鉱山。
上野国では黒川鉱山(甲斐の黒川鉱山とは別)、群馬鉱山、根羽沢鉱山、白根鉱山、御串鉱山、草津鉱山、谷所鉱山、梅田鉱山、川場鉱山、多野鉱山、茂倉沢鉱山、石津鉱山、吾妻鉱山、赤城根鉱山、小松鉱山萩平鉱山、上菱鉱山、昭和鉱山、小畠鉱山、東小中鉱山、上田沢鉱山、大水沢鉱山、万場鉱山、利東鉱山、松島鉱山、昭和沢入鉱山、入道沢鉱山、四万鉱山、八塩鉱山、西澤鉱山、砥沢鉱山、戸神鉱山、西ノ牧鉱山、上信鉱山、大水鉱山、中小坂鉱山、中丸鉱山、叶山鉱山、鉱石山鉱山、白艶華鉱山、磐戸鉱山、郷原鉱山、富岡鉱山、妙義鉱山、御座入鉱山、そして炭鉱は金井炭鉱、興亜炭鉱、城山炭鉱、蛇場見炭鉱、上州炭鉱、松井炭鉱ぐらいだな。
秩父に手を出したいが北条がいるため現状は無理だがいつの日かそこも抑える。
天文16年(1547)12月15日
■信濃国 佐久郡 小諸城
椎茸養殖、新田開発、硝石製造、真珠の養殖この中心に内政をしようと思ったのだが季節は冬。外は当然寒くなり外に出ようものなら寒くていられない。そんな時に新田開発など鬼畜の所業でそんな主君にはなりたくない。となると4つの中で最低限出来るのは椎茸養殖と硝石製造、そして日用品の開発しか出来ない。
それにしても炬燵が欲しい…。先に職人に炬燵を作って貰うしかないか…
「源五郎(後の高坂昌信)、外に出る」
「はっ!それでどちらに?」
「大工職人の所に作ってもらいたいものがあるのだ」
「作ってもらいたいものですか?」
「あぁ、これを見てくれ」
信之は源五郎に絵図を見せる。
「机ですな。それに中に火鉢を置く下敷き…」
「これは炬燵と言って、床や畳床等に置いた机の中に火鉢を入れて外側を少し厚めの布や布団で覆って暖かくするものだ。今までは火鉢を置いて手を当てたりするしかなかったがこれは全身が暖かくなる」
「なんとそんなものを…。信之様、これが完成したら雪国では重宝しますな!」
「そうだな。一度入ったら暖かくて中々炬燵の外に出れなくなるからな」
信之と源五郎は大工職人が住んでいる家へと向かった。
「誰かおらぬか?」
源五郎が家の中に入りといかける。すると奥の方で返事が返ってきて奥から出てきた男性は源五郎を見るなり背を低くして頭をさげる。
「はい、おりますが…。これはお侍様……」
「そう畏まらなくて良い。私も元は百姓だったのだ」
「わかりました。それで何がご用でしょうか?」
「そうだが、私が依頼主ではないのだ。外に私の主君が待っておられるのだ」
「それは…。粗末な家ですが外は寒いので中にどうぞ入ってください」
「かたじけない」
大工職人の家から源五郎が出て来た。
「信之様、外は冷えます家の中に入ってください」
「許可は取ったのか?」
「はい」
許可を取ったのであれば問題はないだろう。
信之と源五郎は家の中に入り、板張りの部屋へと案内された。 粗末ではあるのがそれも仕方ない事だ。板張りの部屋の上座に俺と源五郎が座り、この家の主人であろう男性と5人の弟子、そして男性の家族が向かい合っていた。
「家にあげてもらいかたじけない。私は武田三郎信之です」
「あの…武田と言いますと…管領様を追い出してくださった甲斐国の守護様の家系でしょうか?」
「信之様は武田家ご当主の三男であらせられます」
源五郎が問いかけに答える。
それを聞くと全員の身体は小刻みに震えていた。 慌てて平伏しいっそう身体を震えさせている始末だ。
「そんなに畏まらなくていいですよ。顔をあげてください。作って貰いたいものがあるだけです」
「作って貰いたいものですか?」
「作って貰いたいものは、まず正方形の机を作ってください。机と言っても下の4つの足と上の机部分を2つに分けて欲しいです。それと中に火鉢を置くための下敷きも出来ればお願いします」
「わかりました、すぐ作ります。期限は3日ほどで良いでしょうか?」
「それで構わない。それで良かったらでいいのだが城下に移ってもらえないだろうか?」
「そうしたいのは山々なんですが、縁もツテもないので」
「そこは私がなんとかするので…どうか」
信之は頭を下げる。
それを見て男性は慌てて
「頭をお上げください。移りますので」
半ば強制みたいだが仕方ない。こうでもしないと動かなそうだったからな。
「では、これにて。源五郎かえるぞ」
「はっ!」
信之と源五郎は城へと帰った。
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