憲政敗戦!そして逃走
第12話
天文16年(1547)7月13日
■信濃国 佐久郡 小田井原
「早く追いつかぬか!敵は小勢だ!進め!あと少しで武田を!」
馬上で上杉憲政は大き声を響かせる。憲政はあと少しで武田軍に勝てると思った。しかしその時だった。
まるで自分を待ち構えていたように左右に武田菱の旗、そして追いかけているはずの武田軍がいつの間にかいなくなっていたことに気づく。
「っ!待ち伏せか!」
何故だ何故だ何故だ何故だ!関東管領である俺は選ばれた者なんだ!甲斐の山猿如きに負けるはずが無いんだ。川越では伊勢(北条)に朝定(扇谷上杉氏)を討たれてしまい負けてしまったが。それが無ければ俺は勝っていたはすだ。
憲政は歯ぎしりする。
武田、伊勢には関東管領、上杉の血筋も全く関係無い。刃向かったら倒すといった獰猛さがある。
「む……迎え撃て!」
憲政は必死に家臣達に叫んだ。
名門で足利幕府ではその武威を示していた上杉家が今崩れ去ろうとしていた。
「武田軍およそ4500。左翼に宿将 甘利虎泰、右翼に宿将 板垣信方の軍勢です!」
「前方におよそ500の武田軍!我が軍包囲されました!」
なんということだ…こんな筈では…
「上杉共を蹴散らせ!!」
虎泰が馬上で次々と雑兵を討ち取っていく。
「諏訪衆の力今こそ振るえ!」
それに負けじと信方も奮戦する。
「河越の野戦での影響で我が軍は疲労で押されております」
「殿!撤退しましょう!このままでは壊滅してしまいます!」
「何卒、撤退を!」
「くっ!て…て撤退する……た…たっ撤退だぁぁぁ!」
「申し上げます!小幡憲重殿、小幡景純殿。金井秀景、安中長繁殿、由良成繁殿寝返り!」
馬鹿な………。このままでは隊が維持できない!
憲政は数える程の護衛に守られながら所領の上野に向かって退却したのだった。
武田信之率いる武田軍は九州の最南端、薩摩を領地とする島津が得意とする釣り野伏せで上杉憲政率いる上杉軍を大半を裏切らせ壊滅させた。これにより志賀城を落とした武田軍は佐久郡を平定した。関東管領を破ったことにより佐久の諸将は遂に降伏したのだった。この戦いで捕虜になったものは武田家が運営する金山へ送られた。裏切った上野衆の一部は信之の与力として付けられた。
天文17年(1547)8月10日
■信濃国 佐久郡 小諸城
「小諸城開門‼︎」
佐久郡にある小諸城の城門が内通者によって開かれる。城には数百の兵しかおらず、対する武田軍は12000の兵であり、内通者もいたこともあるが1日で陥落した。
「幸隆はいるか?」
「はっ!ここにおりまする」
真田幸隆は信之の後ろに控えていた。
長野業正の居城箕輪城に身を寄せていた武将であり、真田昌幸のお父さんであり幸村の祖父である。
ーーーーーー真田幸隆ーー
忠実:1513〜1574年
【智略と功績は高く評価され、外様衆でありながらも譜代家臣の待遇を受ける。戦国三弾正の一人。攻めの弾正。昌幸の父であり、幸村の祖父でもある。真田の旗である六文銭は三途の川の船賃であり、身命を賭して戦うために恐れられた】
幸隆も幸村と同じでチートである武将なので軍師にはもってこいな武将です。
「砥石城はどうなっている?」
「砥石城はすでに内応しておりまする。ただ村上義清が葛尾城から砥石城に入られると、内応は難しいと砥石城の者が言っておりまする」
「ならば幸隆、2千を率いて義清より早く砥石城を抑えろ。すぐ私も向かう。」
「わかりました。では…」
幸隆は2千の兵を即座にまとめて砥石城に向かった。
これで小諸城、砥石城は攻略出来た。忠実で起きる砥石崩れは起きないはずだ。
信濃国に残るは三家、中信濃の小笠原長時。長時は信濃守護職という大義名分をもっている。そして北信の雄である 村上義清。どちらかを最初に潰すとすれば小笠原だろう。しかし信之はここはあえて村上義清を選択する。
小笠原と連合を組む前に倒さないと、信濃統一が遅れてしまう。信之は1000の兵を小諸城の守りとして残し幸隆が先行して行った砥石城へと向かう。
■信濃国 小県郡 砥石城
忠実ではここで村上義清が武田信玄を破った砥石崩れというのが起きる。中に籠っていた兵は500だが、兵500人のうち、半数はかつて天文16年(1547)に晴信によって攻められて乱妨取りも行われた志賀城の残党であり士気は凄くなかなか落ちなく、葛尾城から村上義清の援軍が来て横田高松などが亡くなった。
しかし今の砥石城は武田の旗が翻っていた。
城内に入ると幸隆が小走りで信之に近寄ってきた。
「信之様、無事砥石城を抑えることが出来ました」
「ご苦労、さてこのまま村上義清の葛尾城に攻めかかりたいところだが一度甲斐へと戻らなければならない」
「そうでしょうな、武田軍は連戦で疲労も溜まっているはず…」
「そういう事だ。幸隆には悪いが砥石城を任せる」
「城代という事ですかな?」
「いや、真田の所領として俺から父上にお願いしてみる。認めて貰えれば真田家再興だな」
「なんと……。信之様感謝します、真田家は信之様にこれよりも更に忠義を示しますのでどうぞよろしくお願い申し上げます」
幸隆はその場で土下座をして涙ながら言った。
「あぁ、真田には期待している。今は砥石しかくれてやれぬがいつか一国、幸隆にくれてやらねばな」
信之はそう笑いながら砥石城の奥へと向かうのだった。
■信濃国 小県郡 砥石城 広間
はぁ…やっと落ち着ける。ここのところ連戦続きでもし村上義清と戦う事になったらどうなっていた事か…。想像するだけでもゾクッとする。これで真田の心も掴んだ事だし後は準備を村上と小笠原、木曽を片付ければ良い事だ。
後は内政か…。落ち着いたところで内政をするか。甲斐に戻って父上に城をもらう約束はしていたがどの城を貰えるかだよな…。
小諸城あたりが砥石城との連携も取れやすいのだがな……
天文16年(1547)7月20日
■信濃国 佐久郡 碓氷峠
上野国と信濃国にまたがる峠、碓氷峠。
そこを歩く一団がいた。
見た目はどの者も着ているものはボロボロな状態になっており疲労も溜まっていた。
彼らは7日程前に武田軍によって敗れた関東管領 上杉軍の一団であり、5000もいた軍勢は僅か300まで減っていた。
「くっ!おのれ!武田め……この恨み絶対に晴らしてくれようぞ!」
関東管領である上杉憲政は見た目は関東管領を名乗るほど恥ずかしい程みすぼらしい格好をしていたが、その目にはまだまだ諦めていなかった。
しかし…
「申し上げます!1里先に敵勢が待ち構えています!」
物見に放っていた家臣からそう告げられる。
まさか!武田か?いや、武田もそこまでは深追いはしないはずだ?
とすると何処の軍勢だ?
「長野業正殿ほか上野の諸将の軍勢1万!その中には武田の旗も翻っています!」
「バカな!そんなわけなかろう!上野は私の領地だ!それに業正は牢獄にいるはず!」
憲政は馬上から降りてその家臣に掴みかかる
「それは何かの間違えではないか⁉︎そうに決まっている!」
「い…いえ、上野にある各城は陥落既に武田方に…このままでは捕縛、もしくは最悪殺されまする!」
憲政はそう聞くとその場で崩れ落ちた…
なんということなのだ……。
たった数日で上野が落ちるとは…。
このままでは撃たれる…、しかし帰る城がない。頼るのは長尾…、いやあそこは此処からでは遠い…。村上を頼るか……
「皆の者、残念だが帰る城がない!村上がいる葛尾城までたどり着く!」
憲政は葛尾城の方角へ転身していくのだった。
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余談ですが今日、昨日10/22から全国より山梨県先行上映の映画「信虎」を観に行きました。信虎公の武田家の行く末を最後まで案じる姿に心にくるものがありました。
全国では来月11/12に公開ですので是非、武田家や武田信玄公など好きな方に是非観ていただきたいです。